19 公爵令嬢は成認式に出る 5
昼食も終わり、いよいよ魔力保持者の発表だ。
名前を呼ばれたものは壇上に上がり、属性と魔力量を発表される。
ちなみに、属性の比率は、火:水:風:土=2:2:3:3、光属性と闇属性は一年に一人いるかいないか程度らしい。
また、光属性と闇属性同様以上に珍しいのが二属性持ち。
火水属性は爆破魔法、火風属性は音魔法、火土属性は錬金魔法、水風属性は氷魔法、水土属性は植物魔法、風土魔法は雷魔法が使える。
水系二属性持ちは珍しいことに変わりはないけど、二属性持ちの中では比較的多いらしい。
逆に、火土属性は非常に稀で、50年に一人いるかいないからしい。
俺がもし魔力持ちだったら、希望は水風属性。
電気のないこの世界で自由に氷が作れるのは、作れる物の幅がぐんと増える。
ただ、属性は遺伝しやすくて、母方の属性が特に強く出やすいらしいから、ほぼ火属性確定。
フィアンマ家は全員火属性。
アンタレス侯爵家も先代からずっと火属性持ちなので、まず間違いない。
あと魔力量も出来るだけハイレベルであって欲しい。
ちなみに魔力量とは魔力の燃料タンクのようなもので、レベルが高い程魔力の貯蓄量が多い。
魔法の技術力次第では少しの魔力で強い魔法を使うこともできるけど、やっぱり燃料は多いに越したことはない。
そして魔力量は、魔力持ちの血統が濃く、属性が統一されているほど多くなる傾向がある。
因みに、お兄様の魔力量は10段階評価のレベル10。
魔力量レベル10も5年に一人程度の逸材なので、お兄様は凄くレアな人。
14才で既に騎士団入りしてるくらい魔法の実力もある。
あ、両親が魔力持ちでも子供に引き継がれない事が偶にあって、その場合家庭内で揉める事が結構多くて、周りからも特異な目で見られるらしいから、是非とも魔力持ちであって欲しい。
「ではこれより、魔力保持者を発表いたします。
発表は受付順で呼びます。
名前を呼ばれた方は、壇上に上がってください。」
入り口が領地ごとで別々だったのに、受付順で発表?
どこかであの魔導具の情報を統括するような物があるのかな?
やっぱあの魔導具めっちゃ気になる。
だとしたら、平民の子たちと同じ様に並んでた私は、呼ばれるとしたら多分一番最後かな。
何てったって、魔力保持者の殆どは貴族。
私以外の貴族の子は、朝の私達の様に係の人に招かれたとすれば、当然先頭に割り込むんだろうから。
なぜ、魔力保持者が平民にほぼ居ないか。
もしここで平民の子が魔力持ちと発表されたら、成認式終了直後から貴族の養子希望が殺到するから。
魔力持ちは貴族のステータスで、魔力持ちがいない貴族にとって魔力持ちの平民の子供は、喉から手が出るほど欲しい人材。
実際、元子爵のケーラ先生は、婚約破棄にこそなったものの、その元婚約者以外の人から結婚や養子の申し出が殺到しているらしい。
だから、魔力持ちの遺伝子を持つ平民はどんどん貴族になっていき、魔力を持たない人達は平民として残っていく。
それで平民からは魔力持ちが生まれにくい。
そして今、次々と名前を呼ばれているのは貴族だけ。
貴族の子全員が呼ばれる訳ではないのだけど、隣に座っている子は両親が魔力持ちなのか余裕そうに名前を呼ばれるのを待っている。
偶に、名前を呼ばれた時拍手や歓声が上がる事があるけど、その子の両親は不安だったのかな?
呼ばれていく名前の中には、この国の第三王子や騎士団長の御子息など、大御所の名前も上がっている。
しかも二属性持ち、魔力量多め。
私の名前はまだ呼ばれていない。
だんだん不安になってきた。
お兄様がすごい量の魔力を持ってるのに、ここで私が魔力ありませーんとか、本気で洒落になんない。
「フィアンマ公爵領、フランドール・フィアンマ」
よかったー!呼ばれたー!待ちわびたよ、私の名前!
静かに起立して、壇上に上がる。
客席を見渡すと、改めてすごい人数だと思った。
この中で名前を呼ばれたのが、たった40人弱。
改めて、魔力持ちがどれだけ少ないか思い知った。
さて、名前を呼ばれて次に気にするのが魔力量。
お父様の魔力量がレベル8とかなり高く、お母様もレベル7と高い。
お兄様程でなくとも、ある程度は高いほうがいいなぁと欲が出る。
「火土属性、魔力量レベル4」
その言葉を聞いた会場は、大きく騒ついた。
うわっ…私の魔力量、低すぎ…?
そんな事どうでもいい!
火土属性⁉︎
錬金魔法が使える、50年に一人の人物⁉︎
え、何それ、嬉しさ以上に荷が重い。
てか、どっから土属性出てきた?
壇上に上がってすぐの時より、視線が熱い。
客席の人たち皆んな、大きく目を見開いて驚いている。
お母様に至っては、帽子が邪魔で顔が見えない。
「静粛に。
次の者を発表します。」
中々収まらない ざわ…ざわ…に痺れを切らしたのか、司会の人が会場全体に注意をした。
一応静かにはなったけど、空気は何だかソワソワしている。
それより気になるのが「次の者」
私は多分貴族で一番最後。
そうでないのなら、私達の入場時間以降に到着した貴族がいる事になる。
個室の利用は早い者順で、良い個室を取るために早めに来る貴族が多い中、それ程ゆっくり来るなんてあまり考えられないし、私達が平民と一緒に並んで入場したのは貴族では初めてだったそう。
となると、平民説が強くなるけど、平民の魔力持ち自体が激レア。
どっちにしろ普通じゃありえない。
私が名前を呼ばれるか、の時より気になっている。
火土属性の件は一旦置いといて、今はこっちで頭がいっぱい。
「ダーズリン伯爵領、リリー」
苗字がない、平民だった。
客席の前の方から、質素なドレスを着た女の子が壇上に上がってきた。
ややウエーブ掛かったピンクゴールドのロングボブ、薄紅色の瞳の美少女が、私の横に並んだ。
「光属性、魔力量レベル10」
今日一番のざわ付きが会場中に響く。
光属性で魔力量レベル10⁉︎
しかも平民⁉︎
これマンボウの卵が大人になる確率なんかより断然凄いんじゃない⁉︎
てかこんな出鱈目な魔力持ち、過去にいなかったんじゃない?
我が家の書庫の伝記や資料では見た事なかったぞ。
この子、きっとこの後大変なんだろうなー…
「以上37名は、10年後にエレメント魔法学校に入学してください。」
つまり、私は10年後、名家の御子息や隣のマンボウの子と同級生になるんだ。
…なんか、ラノベで良くある乙女ゲー転生モノ系みたい。
だとしたら、見た目や属性、生い立ちからすると、さっきのリリーって子がヒロインになるのかな?
そうなると、私は?
悪役令嬢の立ち位置とか?
…え?
まさか、それはないよね?
「以上を持ちまして、成認式を終了いたします。」
席に戻ってラノベの転生モノの事を考えていたら、いつの間にか成認式が終了していた。
帰りの馬車の中で、異様な空気が車内を充満させていた。
相変わらず公爵夫人の顔で表情の読めないお母様。
何だか興奮気味で今にも喋り出しそうな様子のリッカ。
心なしか落ち着きのない様子のお母様の専属侍女。
そして絶賛混乱中の私。
誰も何も喋らない。
…気まずい。
皆んなは、今日の成認式の事をどう思ってるんだろう。
私としては、全体的に手応えあった1日だったと思う。
火土属性の件も含めて。
ただ、ちょっと気になっている。
これが本当にラノベみたいな世界だとしたら、私はその世界でどの立ち位置になる?
主人公?
攻略する側?
攻略される側?
それとも、ライバル? 友達? 悪役?
未来は確定? 変更可能?
ちょっと気になっただけだったはずなのに、頭の中がこの事で一杯になってしまう。
なぜ?
「フラン」
お母様の声でハッと我に戻る。
「今日はお疲れ様。
お屋敷に着いたら、夕食をとって早めに休みなさい。」
「わかりました。
お母様、本日は1日、ありがとうございました。
リッカもお疲れ様、1日付き添いありがとう。」
「とんでもございません、奥様、お嬢様、本日の成認式、本当におめでとうございます。」
馬車の中で、それ以上会話されることはなかった。





