83 公爵令嬢は魔法を研究する
ポスカ君の咲かせてくれた桜はすっかり散って、葉桜になってしまった。
しかし、葉の隙間から小さな実が成り始めていた。
もうすぐサクランボが出来るのだ。
ポスカ君が咲かせていたのはソメイヨシノではなく暖地桜桃という支那実桜の仲間。
寒冷地を好む他の桜とは違って温かい地域でも良く育ち、自家受粉可能なタイプで、フィアンマ男爵領でただ一本しかなくても、育つには相性が良かった。
私はこの桜をあまりにも気に入りすぎて、フィアンマ男爵領の領章を桜紋にしてしまった程だ。
「そんなに喜んでもらえるのなら、また何か咲かせてあげよっか?」
ポスカ君、ありがたいお申し出なんだけど、君の体の事を考えると、無理を言えないよー。
あと、この地にない植物をあんまり増やしすぎると、生態系変わっちゃいそうで怖いし。
とは言いつつ、一旦ポスカ君の才能を知ってしまうと、お言葉に甘えたくなってしまう……。
「僕も、何か僕にしか出来ない事を何かやり遂げたいです。
風と火、音で何が出来るでしょうか……」
「それを言うなら俺だって。
せっかく雷魔法が使えるのに、戦い以外で役に立たないのは勿体ないと思ってたんだよ。」
セシル様もロナウド王子も、ポスカ君が桜を咲かせてから、やけにポスカ君をライバル視している。
いやいや、二人とも素晴らしい才能を持ってるんだから、そんなにムキにならなくても。
私がヒントを教えてあげてもいいけど、そうすると二人のプライドを傷つけてしまうかもしれないから、見守るしかない。
火と風があればアレが作れるし、電気なんて汎用性高すぎなんだけど……
あぁ、口出ししちゃダメだ。
そしてつまり、これらに関するようなモノも当分作れない訳だね。
先に作っておけば良かったよ、トホホ。
因みに、リリーちゃんは光魔法を自己流で応用してX線を発見、汎用はまだ出来てないけどかなり医学に貢献していた。
やっぱヒロインは凄いわ。
私も何か、魔法の研究してみようかな。
魔導具や魔法陣は自己流で色々実験してたんだけど、どれもこれも失敗ばっかりで上手くいかなさすぎたから、一旦諦めて魔導具専門機関に入ってから研究する事にした。
と言うか、せざるを得なくなった。
こないだ魔法陣を爆発させてしまって、髪の毛を燃やしてしまった事件が発生。
すすまみれの顔にチリチリで短くなってしまった私の頭を見たリッカは大激怒。
すぐさまリリーちゃんの元へ向かい、何とか元通りの髪の毛に治してもらったけど、真っ黒い顔にパンチパーマ状態の姿をケンとレベッカちゃんとアデンに見られていて大笑いされた。
以来、魔導具と魔法陣の実験を禁止された。
まぁ、命あっての実験だから、ここはひとまず納得しておいたよ。
禁止されたのは実験だから、文献や資料をかき集めて研究はするけどね。
とは言っても、魔導具専門機関の機密情報までは調べられないから、手の届く範囲になるけども。
魔法自体はそこまで機密にされるような事がないのか、既に一般常識化されてるのか分からないけど、どの資料を見ても同じような事しか書かれてない。
もしかすると魔法学校で専門的な使い方を学ぶのかもしれないけど、だとすると魔法の家庭教師では基礎以外教えてもらえない事になるよね。
でも、複合魔法は完全に応用だと思うんだけど。
あと、私先生に色々質問して試してみてたから、多分応用いくつか知ってるかもしれない。
じゃあ魔法学校で今更どんな魔法を教わるんだろう?
魔法学校という名の貴族学校なのかもしれない。
じゃあもう、今から魔法の研究や開発してても問題ないよね?
現にポスカ君がやっちゃってるし。うん、やろう。
まず基本をおさらいしよう。
火属性魔法
熱を操る。火を発生させ、加熱や火力の調節もできる。
水属性魔法
水を操る。水を発生させ、水圧や水量の調節もできる。
風属性魔法
空気を操る。風を操作し、酸素や二酸化炭素濃度の調節もできる。
土属性魔法
地を操る。砂、土、岩、粘土などを操作し、強度や土壌変化ができる。
うーん、どれも抜け道のありそうな説明の仕方なんだよな、これ。
昔私がやった加熱の調節ってやつも、皆んなはとにかく高火力のイメージだったみたいで、あったか〜いの発想が誰もなかった事が不思議だった。
……この『熱を操る』ってやつ、『熱を下げる』事も出来るんじゃないの?
無意識だったけど、初めて魔法で解けた鉄を作った時も『熱を下げて』鉄を固めたし、チーズを作るのに手を熱湯に突っ込んだ時も手に触れる部分だけ『熱を下げて』熱さを感じないようにしてたよね?
もしかして、火属性魔法で氷が作れちゃうんじゃないの?
急いで水を用意して実験。
水を加熱して熱湯にする。
次に、温度計を用意して、熱湯の温度を計りながら、火属性魔法で『熱を操って』温度を下げていく。
どんどん下がる水温。
あっという間に0度まで下がった。
盲点だった。
まさか、火属性魔法で『冷やす』事が出来るなんて。
流石に、0度以下にはならなかったけど、これって物凄い発見なんじゃない!?
て事は、火属性魔法の応用で冷蔵庫とか作れちゃうんじゃないの!?
うわぁ、早く魔導具で冷蔵庫作りたいー!!
他には何か出来る事ないかな。
あと私が出来るなら土属性魔法だよね。
『土壌変化ができる』
ここ、何かないだろうか。
土、砂、岩、砂利、泥、粘土……
泥や粘土から、水を生成出来ないのだろうか。
思い立ったらすぐ実験!
水分を多く含んだ土を用意。
そして土属性魔法で土の成分全てを岩のように凝固させる。
私が操れるのは土だけだから、その場には水が残る。
おぉ!これも中々いい感じじゃない!?
つまり、私の火属性魔法と土属性魔法で冷水が作れるって訳だよね!
かなり、実のある実験結果が出たよ!
感動するわー!
これだから実験はやめられない!!
急いで資料にまとめて、国王陛下に知らせた。
余談だけど、10歳になったし国王様は国王陛下とちゃんと呼ぶ事にした。
陛下は「もうすぐお義父さんになるんだから、パパって呼んでくれて良いんだよ」とか言ってたけど、呼べる訳ないでしょうが!
速達を出しつつ、自分でも王宮へ向かうと、国王陛下はかなり険しい顔で私を会議室へ呼んだ。
「フランよ、この手紙に書いてある話は本当か?」
「はい、実際に私が実験をしました。」
「この火属性魔法で『熱を下げる』と言うのは、誰かに知らせたのか?」
「いえ、まだ私以外に知っている者はいません。
誰かが思いつく可能性もありますが、長い魔法の歴史からすると、おそらく簡単では無いと思います。」
「この実験は、生き物を対象として行ったか?」
「いえ、まだ行ってません。
ただ、狩りをする際に獲物の熱を下げて体温を奪えば素材を傷つけずに捕獲でき、獲物を最低温の状態にしておけば腐りにくく長期保存も出来るので、使い方次第では便利になります。」
「あぁ、だがこれが人相手に向けられるととんでもない凶器になってしまう。
本人の気付かないようにゆっくり体温を下げ、凍死させることも出来てしまう。」
「陛下、以前発電機を披露した際に『使い方次第では便利になる』と仰ってましたが、この火属性魔法もそうだと思います。
悪用される事を不安に思い、便利な事へと進めないでいると、文明は発展しません。
正しい使い方をしっかりと伝えて、魔法で多くの方の役に立ってもらいましょう。」
「……儂は、今の平和な世の中に変化が起きる事を必要以上に恐れてしまっていたようだ。
やはりフランは、アースフィールド家に必要な人材だ。
ありがとう。」
私の思いついた火属性魔法と土属性魔法の応用は、魔法学校で教えられる事となった。
水属性魔法や風属性魔法でも、何か新しい発見があるかな?





