身嗜み
髪を整えて、服を着た。
床までつく程長かった髪は、肩程までに切りそろえて一つに束ねた。自分で切るのは大変だったので、ニャルに頼んだらやってくれた。ニャルは器用だ。
服は和服を選んだ。
和服は日本の心だ。おだんごにふさわしい人間になるためには、やはり和服を着なければならない。
さっき食べた三色団子の緑色のおだんごによく似てた色の物を選んだ。なんだかすごく落ち着く色だ。
「微妙に現代人っぽくないね。何を参考にしたの?」
「これ!」
ニャルに僕の好きな小説の作者の写真を見せる。
長めの黒髪を一つに束ねた男の人だ。黒い浴衣に、浅葱色の羽織を着ている。かっこいい。
「一二三一臣先生っていうの」
「ひふみかずおみ。すごく言いづらい」
「そうかな?」
僕はそうは思わない。
ニャルラトテップの方がよっぽど言いにくい。特にニャが。
「なんかすごくマニアックなところを参考にしたよね、アザトースさん。君の見た目と同じくらいの世代の日本人なんて、大体こんな物だよ」
ニャルはそう言って、サラリーマンの写真を見せてきた。
メガネをかけていて、顔が四角い。黒髪だけど没個性でつまらない。全く素敵じゃない。
「こんなのヤダ」
平凡で黒髪とは言っても、ある程度の特徴は欲しい。料理上手なイケメンとか。メガネだけどイケメンとか。
「君の見た目の平凡さでイケメンを目指すのは無理だと思うよ」
「失礼だな」
イケメンを目指すのは無理だとか、顔のない人に言われたくない。
「言っておくけど、ちゃんと人間社会に出るときはあるからね、顔。これが日本用」
ニャルはそう言って、日本用だと言う人間の姿に変身する。
平凡で黒髪。だけど、よく見ると目鼻立ちが整っていて、白いシャツがよく似合う好青年。まごうことなきイケメンだ。
「なんかずるくない?」
僕の容姿は平凡中の平凡に作ったくせに、自分はイケメンとかずるすぎると思う。