ある商人は複雑な思いで語る
マスター、一杯頼む。
はぁ………。
ん?ため息が出てたか?
最近、思うように進まないことがあってなぁ。
いやぁ、巷ではマリンダ様は強欲だとか金の無駄遣いをしてるから婚約破棄されたって、そういう事を言ってる連中もいるけどな。
商人としちゃあ、マリンダ様は良い客だった。
なんでかって、そりゃ、マリンダ様が気に入ったものは、高い確率で流行するからだ。
王子の婚約者で、公爵家の御令嬢。夜会に行く機会も多いから、身につけてくれるだけで宣伝になるしなぁ。
マリンダ様が買ってくれた商品は、自然と発注が増えて良かった。
そうだな。
西の方にある海に囲まれた国伝統の素材の小物、バラの香りの香水、ドレスの新しいスタイルのマーメイドドレス。
これらが一番反響が大きかったな。
取引相手も生産が追い付かない位の勢いで、嬉しい悲鳴だったよ。
そのおかげで、俺も取引の相手が広がった。
あぁ、流行は大事だよ。
特に、俺みたいな若手の商人には重要なことだ。
昔からの定番なものは、大きな会社や貴族の経営者がとっくに独占してて、商売できない。
だから、俺は新しいもの、流行しそうなものを探すんだ。
たとえ新しくて良いものであっても、流行に乗れないと上手くいかない。
そういう意味では、マリンダ様が持ってるものは自然と皆真似をしたくなるだろなぁ。
なんというか、センスが良かったよ。
マリンダ様はこれが流行するかどうかっていうのと、自分に合っているかを判断するのが、すごく正確だったな。
だから、少しでも色々な商品を買ってもらうために、俺も必死だった。
ん? 今の王子の婚約者様?
………。
そうだな、また違った意味で良いお客様だ。
………素直で感じのいい御令嬢だが、今現在としては流行をつくれる方ではないな。
数年経てば変わるかもしれないが。
マリンダ様は隣国の第三王子と婚約されるって噂があるから、マリンダ様がいなくなっちまう分、お得意様をつくっておかないとな。




