有名なパティシエは部下に思い出話をする
あぁ、おつかれさま。
…え? 王子様の結婚式の件?
なんで、結婚式のケーキの依頼を断ったのかって?
………。
何度言っても、同じだよ。
ケーキを作る気になれない。気分が乗らないと、あんまり良い仕上がりにならないからさ。
それなら、僕じゃない他の誰かの方がいいから。
………王命だとしても、嫌なものは嫌だしなぁ。
あ、こういうことは言っちゃ駄目だった。
なんで、受けないのか?
たしかに、結婚式のケーキを作るなんて名誉だよね。王子様と婚約者様だし。
店にとっても良い話だとは思う。
でも、やりたくないんだ。
理由?
……話すと長くなるよ?
………まず、なんでうちの店がここまで人気になれたか知ってるっけ?
最近入ってきたばかりだから、知らないか。
最初の頃は、もっと王都の端っこのところで、ちっちゃい店だったんだ。
僕と、店長の二人だけでさ。場所も良くないから、近くの人しか来てくれなかった。
その時は、お客さんがあんまり来てくれなくて、暇だったなぁ。
当時はさ、ケーキ屋にとって、王家御用達っていう箔が何より大事だったんだよね。
今みたいに、ケーキ屋の雑誌とか、大会は無かったから。
店長と相談して、とにかく王家に出したケーキっていう事実が欲しいから、献上を頼み込んだんだ。
けど、駄目だった。
うん、駄目だったんだ。お金が無いせいでね。
僕達以外にも献上をお願いする店は沢山あったから。そんな沢山に献上も出来ないからね。
結局のところ、お金を払えるかどうかだったんだよ。
お金があれば、優先的に献上できる。
僕達には、そんなお金はなかった。だから、いくら待っても献上出来ずにいたんだよね。
そんな感じで、小さい店は細々とやっていくしか方法が無かったんだ。
普段のケーキであればうちで買ってくれても、結婚式とかの祝いのケーキはどうしても有名なケーキ屋にとられるんだ。
すごく悔しかったなぁ。
僕や店長のケーキの方が、よっぽど良いのにさ。
まずお店のブランドが大切って考えが、ほとんどだったんだ。
そんな時だったんだ。
かつての……当時の王子の婚約者だったマリンダ様が、ケーキが好きで、最高のパティシエを決める大会を開くっていうことを聞いたんだ。
大会の参加費は無料で、事前の二回ある審査さえ通れば、一人前のパティシエではなくてもいいって。
僕と店長は、勿論、すぐに参加を決めたよ。
今まで、そんな大会無かったから嬉しかったし、絶対に優勝したかった。
毎日毎日、大会のケーキの試作に明け暮れたなぁ。
それで、僕と店長は二人とも審査をクリアできたんだ。
なんか、審査の時に賄賂を送ってきた人もいたらしくて。ことごとく失格になったんだよね。
失格した人達は、今まで王家御用達と謳ってきた店の人がほとんどで、周りのパティシエ達から凄い笑われてたよ。
店長なんか、大声あげて笑ってた。あの人があんなに笑った姿を見たのは初めてだったよ。
それで、大会当日は各々が準備してきた最高のケーキを、長いテーブルに並べたんだ。
俺と店長のケーキも勿論ね。
最終的に残ったのは、十人だった。
テーブルの上にケーキが並んだ時の風景は、なんというか………圧巻だったよ。
全員が渾身の作品だった。
すごく綺麗で、輝いてたよ。
………そう、それで幸運にも、僕が初代優勝者になれたんだ。
本当に嬉しかったなぁ。
王都で一番のパティシエだって認められて、最高な気持ちだったよ。
店長も喜んでくれて、……一生解雇しねぇって脅されたけどね。僕も今更都合よく、他の人と店を経営する気はなかったし。
それで、王都のメインストリートであるーーーそう、此処の店を、マリンダ様がくれたんだ。
今までちっちゃい店でやってきたのが、一気にメインストリートの良い場所で、しかもこんなに立派なお店だよ。
そしたら、今まで会ったこともない貴族様や商人まで来てくれるようになったんだ。
それからだったよ。
お菓子専用の雑誌が誕生したんだ。
雑誌もマリンダ様がきっかけなんだよね。俺以外のパティシエも良いケーキを作ったから皆に知ってほしいって言ってくれて、それで新聞社で発行されるようになったんだ。
そのおかげで、この店だけじゃなく、他のケーキ屋も知られるようになったから良かったよ。
僕らみたいに、今までお金が無くて王家御用達の箔をつけられなかった店も、雑誌に取り上げられるようになって、メインストリートにはない小さい店でも有名になっていった。
今じゃ、あえて田舎に店を構えて、その土地ならではのケーキを作ってるところもあるしね。
少し前までは、そんなのは無かったねぇ。
とにかく、王都の目立つところに店構えて、王家に認めてもらう。それしか手段がなかったから。
だから、僕にとって、マリンダ様は恩人なんだ。
だから、………マリンダ様との婚約を破棄をした王子に、その王子の結婚式のためにケーキは作れない。
噂によれば、なんでも王子に好きな人ができたから婚約破棄になったみたいだからね。
そんな人に、ケーキを作るのは嫌なんだ。
気が進まないままケーキを作るのは僕のポリシーに反するから、断るよ。それに、処罰されても仕方ないかなって覚悟はできてる。
人生を変えてくれた恩人を忘れたくないんだ。
…そう、だから、再度依頼がきても断るしかないかな。
うん。迷惑かけちゃったら、ごめん。なるべく、お店には迷惑かからないように、やんわりと断っておくから。
じゃあ、おつかれさま。




