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〜断罪と楽園〜

「おやおや、2人とも亡くなってしまったようですねぇ。いや、私にはどうでも良い事ですが。」


どこまでも続く真っ白な空間で、黒ずくめの男は薄笑いを浮かべながら独奏を始めた。真っ白な空間に、黒い男……その姿は白紙の上の汚点のようで余計に気持ち悪い。

よく見ると男の周りには白い発光体がくるくると飛び回っている。

この男は俗に言う死神、だったら周りを飛び回っているものといえば魂以外に何があろうか?

 白く光り、形を持たない魂……それこそが男が言っていた無垢な魂。この世全ての柵から解放され、穢れが無く美しい状態。

男は二つの白い光の玉を手に乗せて満足そうに声を出して笑った。


「私は誰が殺したなんて言っていない。無垢な魂はいいものですなぁ、私がどんな介入をしたとしても後で文句を言われなくて済む。私はただ、一度取りそこなった魂を回収したかっただけなのに、思いがけずもう一つ回収できる魂が増えるとは…くっくっくっ、笑いが止まりませんなぁ。」


暫くの間笑っていた男であったが、突然笑うのをやめ、上を見上げた。


「まぁ、でもこれも一つのハッピーエンドかもしれませんねぇ。最期の瞬間に分かり合えたかもしれない、これで兄弟は硬い絆で結ばれる……しかし何という皮肉、二人は離れ離れになってしまうのですから。」


男は片方の魂を上に飛ばし、もう片方の魂を下に飛ばした。

男の頭上にはいつの間にか青空が広がり、魂は上へ上へと昇ってゆく。男の足元にはどこまでも続く深く暗い奈落が広がり、魂は翼を失くした鳥のように真逆さま下へ堕ちてゆく。


「聞いたことはありませんか?‘自殺は大罪’だってこと。」


奈落の底に向かい男が呼びかける、と同時に青空も奈落も姿を消した。

真っ白い空間に、今度こそ男は一人になった。


「くくく……どうだっていいんですけどね、天国に昇ろうが地獄に堕ちようが。2人とも天国に送ったっていいんです。でもそれじゃあつまらない。‘他人(ひと)の不幸は蜜の味’とはよく言ったものです。この仕事は人の不幸を見られるから辞められない……くっくっくっ。おや、これはこれはそういう展開になりましたか。くくく、今回は本当に甘い蜜の味ですねぇ。」







 兄の昇壱は手にした包丁で腹部を突いて、死んでいた。

弟の誠司は手に絵を握って腹部から血を流し、死んでいた。

絵には緑の草原の青空の下、楽しそうに遊ぶ兄と弟。

2人の死体を前にして両親はただ呆然と立ちすくむしかなかった。

声が出ない。何を言えばいいのか、どんなリアクションをすればよいのか――。

それでも母はすぐに気が付いた。「これは望んでいた事なのだ」と。

遅れて父も気が付き、2人で顔を見合わせ、そして笑った。

腹の底から、可笑しくてたまらないという感じで。


「あはははは!これで誰にも邪魔されない!邪魔な息子がいなくなった!嬉しい、嬉しいわ貴方!」


「僕もだ、僕もだよ。言葉を喋らない薄気味悪い息子とおさらばできるなんて!」


再婚相手を愛し、子供のことを(おろそ)かにしてしまった両親。

親の愛情に飢え、同じ立場、境遇に置かれながらも分かり合えなかった義兄弟。

すれ違いはすれ違ったまま決して交わる事はないのだろう。








「くく、楽しませていただきました。子供を捨ててまで愛を貫き通す夫婦…是非この手で引き裂いてみたいものですなぁ。」


どこかで例の男が笑った。

はい、完結いたしました。歪んだ愛シリーズ第2段でございます。私が書くとどうしてもこうなってしまって。

夏ホラーの企画に初めて参加させていただきました。ホラーじゃないとかそういうツッコミは無しでお願いします。


感想、評価、よろしくお願いします。

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