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〜罪と罰〜

 ようやくお兄ちゃんが帰ってきた。

でも、お兄ちゃんの様子はどこか変だった。僕の知らない人が其処にいるみたいで…。

僕を睨み、口を聞こうともしないお兄ちゃん。

 せっかく作ったハンバーグも具合が良くないという理由で食べてくれなかった。

帰ってきたことが凄く嬉しくて、お兄ちゃんの為に作ったのに。


お父さんとお母さんは、お兄ちゃんに対して前よりは優しくなった。

でも、その態度もどこかよそよそしい。病人だから優しくしてる感じがする。僕にも優しくなったけど…でも、何かが違う。

それに、お兄ちゃんが入院している時に夜中に目が覚めて一階へ行くと居間に電気がついていたことがあった。消し忘れかなと思って覗いていて見るとお母さんが泣いていた。その横でお父さんが何かを言っている。あぁ、お母さんもお父さんもお兄ちゃんの事が心配で泣いているんだな、と僕は思い立ち去ろうとしたその時だった。


「何で!どうしてよ!?どうしてあの子の為に私たち2人の時間を割かれなきゃなの!?」


あまりの大声にビクッとなって僕はその場から動けなくなった。

更にお母さんは金切り声で続けた。


「こんな事なら、子供なんていなければ!」


「しっ、2階にいる子供達に聞こえたらどうするんだ!?」


もう聞こえてるよ、お父さん…。

やっぱり僕たちは‘いらない子’。僕の本当のお母さんが言った言葉とよく似てる。『あんたなんて生まれなければよかったんだ!』って。言ってることは違うけど、きっと意味は同じ。

僕とお兄ちゃんは全く同じ状況にいるんだ。だけどお兄ちゃんと僕は何故か仲が悪くなってしまった。こういう時だからこそ、お兄ちゃんと一緒に居たいのに……。


僕は喋れない。声は出せるけど、その先どうしたらよいか分からない。

「ごめんなさい」の一言も、僕は何か悪い事をしたわけじゃないのに言うのは変な気がした。言葉を喋るのもまだ抵抗がある。現に、家族の間には深い亀裂が入ってしまった。僕が喋ったせいなのかもしれない。

言葉を使わずにお兄ちゃんと仲良くする方法……そうだ、良い事を思いついた!



次の日、僕は思いついた「良い事」を実行した。

用意したの紙とクレヨン。これに僕とお兄ちゃんが仲良く遊んでいる絵を描いて、お兄ちゃんに渡そう。きっと僕の気持ちをお兄ちゃんは分かってくれるはずだから……。


僕は描いた絵をお兄ちゃんが退院した日に渡そうと思っていた。出来れば昼間のうちに渡したかったけどタイミングを逃してしまった。

お兄ちゃんは部屋から出てこない、きっと渡すのは明日になってしまうだろう。

僕は明日が来るのが待ち遠しくて早く寝てしまった。



キィィィィ……


部屋の戸が開く音で目が覚めた。もう朝が来たのかと思ったけれどまだ夜中だった。

開いたのはお兄ちゃんの部屋の戸だった。あの日と同じような時間……僕は焦った。

お兄ちゃんはまた自殺しようとしているのかもしれない。不安な気持ちで胸がいっぱいになる。


僕は描いた絵を持ってお兄ちゃんの後を追った。この絵を見たらお兄ちゃんは止まってくれるかもしれない。そう思ったからだ。

あの日と同じように、お兄ちゃんは台所に立っていた。


「誠司も水飲みに来たのか?」


僕の気配に気付いたのか、お兄ちゃんは僕に背を向けたまま僕に聞いた。

お兄ちゃんがこちらを振り向いたので、こくんと頷いた。

あぁ、お兄ちゃんは自殺なんかしなくなったんだ。僕のことを気遣ってくれる今まで通りの優しいお兄ちゃんに戻ったんだ。


「お兄ちゃん…」


自分でも知らないうちにお兄ちゃんを呼んでいた。お兄ちゃんがゆっくりとこちらを振り向く。

そうだ、せっかくだから描いた絵を今渡してしまおう。後ろでに隠し持っていた絵をお兄ちゃんの方に向けて――


「うわぁぁぁぁぁ!」



気がついた時には、僕のお腹に冷たくて尖ったものが刺さっていた。

僕のお腹からは真っ赤な絵の具、あの日のお兄ちゃんとお揃いで……。

体が思うように動かない。でも、僕は精一杯手を伸ばして持っていたものをお兄ちゃんに渡した。








ここは緑の草原。

どこまでも続く緑色。

僕はそこで楽しく過ごしている。

ここには何も無いけど僕はそれで満足だ。

だってお兄ちゃんがいてくれるんだから。

お父さんもお母さんもいないけど、僕は寂しくない。

お兄ちゃんがいてくれればそれでいい。

お兄ちゃんと2人で毎日笑って過ごして、とても楽しくて。

この青い空の下でいつまでも楽しく過ごすんだ。

そう、青い空の下で――



まるで絵に描いたような青い空の下で……

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