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レコの村2

「金を出しな。話はそれからだ」


 男に言われてポケットをまさぐってみるが、一クラウンもない。当たり前だ。地下牢にぶち込まれた時に全部没収されたのだ。あの時に多少なりとも掠めてこればよかった。


「ないんだ」

「おいおい、ふざけているのか。金がないと何もできないぞ」


 その通りだよ。冷静に考えて、金がなければなにもできやしない。宿に泊まることもできずに、また野宿することになる。この村も一見のどかだが、何に襲われるかもわかったもんじゃない。しかもアナスタシアもいない。

 男は俺の服装をじろじろ見始めた。やっぱりここでも黒の学ランは奇抜な衣装なのか。


「お前、ここの者じゃないだろう」


 男はすんすんと鼻を鳴らして、悪臭の中から俺が異邦人である証拠を嗅ぎ分けたらしい。


「これよ」


 何を言ったのか聞き取れない女の声がして、振り向いてみると、茶髪の少女が立っていた。手には絹のような質感の袋が握りしめられている。


「?」


 差し出されたそれを受け取るとジャラジャラと音が鳴り袋の形が崩れていく。知恵の輪のような音だった。今ここで、そんなものを差し出す意味もわからないが。

 袋の中を覗くと、茶褐色の薄いビスケットのようなものが詰まっている。女性の横顔が彫られてある。角度が違えば聖母ととらえることもできたかもしれない。まさか、これは貨幣なのか?


「それを五枚よこせ」


 三十枚くらいしかないのだが、そのうちの五枚だって? ぼったくりじゃないか。

渋々五枚の銅貨を渡すと、男は満足した様子でそれを握りしめる。普通の人間の手よりも二回り大きい。何かをしていればここまで巨大化するというわけでもないだろう。


「ついてきな」


 意味もなく帽子を直しながら男は言った。

 茶髪の少女はと振り返ると、何かが起こるわけでもなく、棒立ちで俺達を見つめている。


「また明日ね」





まともな住居ではないことは薄々感づいていた。大方、木造建築以下の住居なんて床が抜けそうな年代物か、藁でできた風通しのいい家だろうなんて思っていたが、無生物ですらなかったようだ。

カバの家。端的に表現するならそうだ。確かに人が住める大きさではある。だが……。


「住みたくないな」

「悪いな。小さな村には宿なんて洒落たもんはねえんだ」


 カバの横っ腹には穴が開いていて、ピンクの中身が見えている。

 生々しいあの中に居座るのは流石に気持ちが悪い。まだ野宿の方がマシかもな。今ならまだ金を返してもらえるだろうか?


「一部のマニアには大ウケなんだぜ。すぐにあんたもそうなる」


絶対そうはならないだろうな。思ったより肉の内壁は固く、弾力がある。生きているんじゃないかと錯覚するくらい生々しい。


「なあ、これ生きてはいないよな」

「安心しな。死んでるぜ」


 目を閉じて、酸味のある異臭さえ気にしなければ居心地も悪くないだろう。しかし、この内臓を踏みつけるよな感触がたまらないな。


「水も出てくるぞ」

 

 男が壁に付いたこぶを押すと、その下から水が勢いよく出てきた。水はそのまま肉壁を伝って謎の穴へ流れていく。


「飲めるのか?」

「もちろんだ。何にでも使えるぜ」


 腎臓みたいな機能で雨水が濾過されてるとでもいうのか。だったとしても使うことはないだろうが。


「そんなわけで、後は壊さない程度に好きにしてくれ。わからないことがあったら何でも聞いていいぜ」


男は足早に出て行った。

 匂いにさえ慣れれば天然のマットレスか。






「国王陛下、西の町は命令通り焼き払いました。生存者は一人もいません」

「うむ、よくやった」

「それで、ですが……」

「どうした?」

「はい。実はまだ操られている者が残っている可能性がありまして」

「……どういうことだ?」

「封鎖前に操られていた者を特定する術がありません。ローランド城下町に潜んでいる可能性も否定できません」

「突き止めろと言っているのだ!」

「は、はい」



「予想通りまずいことになってきたか」


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