表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/50

地下牢

 水の滴り落ちる音が聞こえる。外には雨が降っているわけでもないのに、ずっと一定のタイミングで落ちている。ポツン、ポツンと最初はただの水音程度の認識でしかなかったが段々その音が煩わしくなってくる。

「うるせえ! 誰かあの水を止めて来い!!」

「静かにしなよ。みんな寝てるんだよ」


 やはりまともな人間からは苦情が出ているようで、現に俺だって眠れなくてイライラしている。考えてもみてほしい。狭い檻に入れられ、昼夜問わず出所もわからない水滴の音を延々と聞かされるのだ。これは拷問だ。静かにしている他の囚人達は慣れきってしまったのだろう。そのことを話題にする者はいない。


「もう嫌だ! 俺は何も悪いことはしていない!!! 早く出してくれ!!!」

 ついに男は鉄格子を叩き出した。

「悪人はみんなそう言うよ。盗み。殺し。何をやったか知らないけどここにいる奴は碌でもないことを一度はしてる」


 落ち着いた風に犯罪者らしき男は言った。確かにここの住人たちはあいさつ代わりに犯罪自慢をする。その話題についていけなくて辟易している。いや、馴染む必要は全くないのだが。

 思えば三日もこんな所に閉じ込められている。札付きのごろつきばかりが集う地下牢になぜ俺が連れて来られたのか、それはそうだ――

 

 

「やっぱりもう少し様子を見てみるわ」

「……は?」

 ここまで来て何を言ってるんだ? お隣の国はもう目と鼻の先だぞ。引き返そうだなんて言い出すなよ。

「この北に町があるわ。今なら魔法使いも少ないはず。探りを入れるにはうってつけの場所よ」

「ローランドの動向を探るのか。今度は何日留まるんだ?」

「……二、三日ね」

 それなら問題ない。数日泊まる程度なら間違っても金が尽きて怪しげな仕事に手を出さないといけなくなるはめにはならないだろう。潔く諦めてくれよ。

 

 

 って、思ってたんだがなあ。危機感も持たずに件の町にある宿屋で爆睡してたら突然男たちが部屋に入って来てローランド城の地下牢に連れて来られたのだ。結局、百クラウン近くあった財産は没収されてしまった。邪悪な稼ぎ方をした大金というのは使えないまま消えてしまう運命なのかもしれない。

 何がいけなかったのか。未成年なのに酒場に入ってしまったからか? そんなはずはない。ミルクさえ頼めないと知ってすぐに出て行ったんだから。

「騒がしいな。どうした」

 兵士がやってきた。囚人二人の会話がピタリと静まる。

 兵士が一つ一つ牢の中を覗いていく。

「夜なんだから静かにしろ。いいな」

 何事もなかったことを確認し、兵士は去って行った。


「クイズだ。今日は晴れか雨か?」

「何だ? とんちか?」

「変な物が降ってたら承知しねえぞ」

「違う違う。兵士の野郎に聞くんだ」

「ほう……カビ臭いから雨だな」

 普段は気にしていなかったのだが、意識し出すとカビの臭いが漂ってくる。冗談じゃない。こんなところに長くいると病気になってしまう。そうなる前に何としても早く抜け出したい。

「あんたたちどんな悪さをしてきた? 嘘はなしで答えてくれ」

 またいつものごとく悪さ自慢が始まった。

「私は町で一番美人な娘の裸を覗いてしまいました」

 自称商人の男は言った。なんとも善人らしい告解だが、この男は壺の値段を間違えて売った罪で捕まったらしい。

「あのな、ここは懺悔室じゃねえんだよ。こんなシミったれたところにいないで教会にでも行って神父になってきな」


「俺は何もしていない」

 男が自分に言い聞かせるように言うと、話は止まってしまった。

「何もしてないはずないだろ」


 男は押し黙っていたが、やがて口を開いた。

「何もしていない。いや、本当は遺跡の発掘をしていたんだ。ローランドの大事な宝だったらしい。それが魔女に壊されてしまった。本当はたんまり報酬がもらえるはずだったのに、気づいたらこんなとこにいたよ。チクショウ」

「ふうん。あんたもずいぶんと難儀なんだな」

 なるほど。ようやく流れがつかめてきた。 一緒にパンドラの箱を発掘調査していたこの男が自供したせいで、俺まで目をつけられてしまったのか。重罪だな。外で会うことがあれば覚悟してほしい。

「そうやって悠長に話していられるのも今の内だけだ」

 いきなりぬるっと兵士が出てきた。

「明日には国中の魔法使いを集めた一大イベントが行われる。それが終われば貴様らの処刑を順次執り行う」

「そんな! 俺は何もしてないんだ! 信じてくれ!!」

 せいぜい残された時間を楽しめ、そう言い捨てて兵士は去って行った。


 すすり泣きが聞こえてくる。俺だって泣きたい。処刑が始まったらお終いだ。今までの人生は何だったんだ。

「泣いてるとこ悪いがあんた、魔女の手助けをしたんだろう? それならまず間違いなく反逆罪で処刑もんだぜ」

「なんでだよお!!!!!!」

「やめてくれよもう」

 それなら俺だって何もしてないのに処刑されてしまう。もうやめてくれ。頭が重い。

 鉄格子の影を形作るランプの光がやけに印象的だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ