表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/50

調査5

 教会には既に十人ほど人が集まっていた。

 華やかなステンドグラスなんてものをイメージしていたが、無色透明なただの窓しかない。噴火前を再現する必要性がないと判断されたのかもしれない。

 奥には円形の祭壇があり、その後ろに先ほどの男が立っていた。

「こりゃすげえものを見つけたかもな。うまく行けば一生遊んで暮らせるぞ」

「バカ野郎、見つけたのは俺だ。俺が一生分の大金をもらうんだ」

「んなわけあるか、元からあるものを誰が見つけたって何ももらえやしねえよ」

 隅で小競り合いをしている。

 俺も彼らもこの仕事がなくなれば食いっぱぐれてしまうかもしれないのだ。そういう意味では、やはり見つけようとしない方がよかったのかもしれない。

「皆揃ったな!」

 先程の男がかけ声を上げると、男たちがぞろぞろと祭壇の周りに集まっていく。俺とミーシャの二人以外、全員がランプを手に持っている。

 どれだけ中が暗いかは知らないが、こんなにランプがあるなら持ってないやつがいてもいいだろう。

 ガチャッと鍵が開く音がした。一人、また一人と中に入っていく。順番的に、俺とミーシャが最後なのは仕方がないだろう。

「先に行っていいか?」

「どうぞ」

 石でできた階段が奥まで続いている。一人が通れるくらいの狭さだ。

 降りていくと、段々と音が響くようになってくる。そして、ようやく階段が終わったかと思うと、広い空洞に出た。

「気をつけて歩けよ」

 暗闇の中を皆、思い思いの方向に歩いている。約十人分のランプが灯っているのに、部屋の奥が見えない。

「怖いな。幽霊でも出たらどうする?」

「はははは。でも噴火で死んでるからなー」

 幽霊はともかく、罠が仕掛けられている可能性は十分にある。一国の姫を守り抜くための危険なトラップが。

「参ったわね……」

 そうつぶやいたミーシャを振り返ると、茶色だったはずの髪の毛が妙に煌いていて、髪そのものが少しずつ伸び始めていたのだ。

「お前……」

 奇病にでもかかったのか、そう言いかけたところで、見覚えのある人間に姿が変わっていることに絶句した。

 アナスタシアだった。

 ランプの明かりのせいなのか、こちらに向けたその端正な顔に心臓が高鳴る。

 まるで0時を過ぎたシンデレラのように、来ていた服も様変わりし、黒いローブになっていく。

「どういうことだ?」

 なぜお前がここにいるんだ? そもそもお前はミーシャじゃなかったのか?

 周りの男たちも恐れをなしてか、アナスタシアから離れていく。

「……時間がないから簡潔に言うわ。あれを見なさい」

 か細い指が差した先には、不気味な青い光が箱から漏れ出ている。

「あれこそがあなたたちが求めていたローランドの宝、パンドラの箱よ。早くあれを壊しなさい。さもないと取り返しのつかないことになるわ」

 語気を強めて言う彼女に、いつになく鬼気迫るものを感じる。

 だが、箱に向かっていこうとするものはいない。むしろ、彼女の隙を伺って逃げようとしている者さえいる。

 現に、俺でさえ戸惑っているのだ。こいつの言ってることを信じていいのか。罠じゃないのか。

 アナスタシアと青い物体を代わる代わる見つめ続けるだけで、うかつに動くことができなかった。

「誰も行かないなら私が行くわ」

 シビレを切らしたアナスタシアが動いた。かと思った次の瞬間、暗闇から巨大な何かが現れた。

「遅かったか……」

 いくつもの岩石に糸を通して作られた人形のような、あり得ない造形。高さ三メートルはあるだろう。

「何だよあれ!?」

「パンドラの箱に召喚された岩人形よ」

 真面目に答えないでくれ。

 調査員たちはが逃げだし始めた。明かりが遠ざかっていく中、岩人形は得も言われぬ威圧感でこちらに近づいてくる。

 宝がどうこう言ってる場合じゃない。さっさと逃げないと。

 階段の前には男たちが我先にと群がっている。

「逃げるぞ! リカードも早く!!」

「しかしミーシャが……」

 正確に言えばあいつはミーシャじゃないのだが。

 振り向くと、岩人形がすぐ目の前にいるというのに、メッキの剥がれたアナスタシアは立ち往生している。

 岩人形が彼女目がけて拳を振り回す。それを後ろに飛んで間一髪で避ける。空を切る音がする。その隙にアナスタシアは前に向かって走り出したが、予想以上に早い岩人形が次の一撃を繰り出し、それをまたアナスタシアが避ける。

 おそらくアナスタシアは箱を壊しに行こうとしているのだろう。なんとか拳を避け続けてはいるものの、全く前に進んでいない。視界の利かない奥に行こうとするのも無謀すぎる。

「チッ!!!」

 リカードの仲間が見かねて暗闇に走り出した。

「アナスタシア! お前の魔法でなんとかならないのか!」

「無理よ! 私の魔力はあの箱に吸い取られてる!!」

 確かに、さっきから全く魔法らしい魔法を使ってない。パンドラの箱はそんな代物だったのか。

 何か俺にできることはないのか? どう見ても殴る蹴るで倒せるような怪物ではない。闇雲に向かって行ってもやられるだけだ。何か……。

 その時、火山で手に入れたカーマインレッドの指輪を思い出した。

 しかし、今までアナスタシアだけを狙っていた岩人形が、何を思ったのか棒立ちの俺に向かって来た。

「逃げなさい!!!」

「逃げるんだ! マコト!」

 そんなことは百も分かってる。せめて迷惑のかからないように、暗闇に向かって走り出す。岩人形が繰り出したボディーブローが学ランを擦る。重機のような轟音と共に、壁に穴が空いた。

 時間が止まったような気がした。あれに当たっていれば怪我どころでは済まなかっただろう。

 とっさに学生ズボンのポケットから指輪を取り出すと、暗闇の向こうから重い金属音が響いて来た。

「クソ!!! 何やっても壊れねえぞこれ!!!!!」

 リカードの仲間が箱を壊そうとしているらしい。

「それをこっちに寄越しなさい!」

「わかった! 待ってろ!!!」

 数瞬の後、暗闇から青い光を放つ箱が飛び出て来て、地面に落下した。蓋が閉じたまま、直方体から瘴気のようなものが漏れ出ている。

「その箱を岩人形に踏ませるのよ!」

 確かにアナスタシアの言う通りにやれば壊せるかもしれない。

 俺は岩人形を誘導するべく壁に向かって走った。岩人形は目論見通りこちらに向かってくる。そして間もなく、鈍い音が響いた。

 あっけなかった。箱踏まれた瞬間、潰れもせず、元の形を保ったまま宙に浮いた。

「駄目か……」

 リカードの声がいやに響いた。

……いや、まだわからない。最後の手段だ。どう使えばいいかはわからないが、俺は指輪をはめて祈るように手を握った。

「危ない!」

 何かがぶつかり、体が宙に浮いた。それは岩人形の拳ではなく、アナスタシアだった。横っ飛びに彼女が助けてくれたのだった。

「すまん……」

 俺と岩人形から離れ、無言の視線を送る。早く逃げろ。そういう視線だった。

 だが、指輪を見た途端、彼女の瞳孔は開ききった。

 使い方を教えてほしい、俺もそう視線を送り返す。

「……箱から魔力を吸い取るイメージよ。あなたならできるわ」

 そうとだけ言って暗闇の中に去って行った。

 やってやろうじゃないか。

 全神経をパンドラの箱に集中させる。

 もう姉堂マコトには、岩人形の姿は目に入っていなかった。

 アナスタシアから溢れ出んばかりの魔力が一瞬にして吸い取られていくのを感じる。そして、俺もそうイメージする。

 失われたはずのカーマインレッドの輝きが本来の光を取り戻し始めた。

 迫っていた岩人形が左腕を振り下ろす。

 直撃するかと思われた瞬間、岩人形の左拳が一瞬で発火し、拳もろとも蒸発する。腕からその先へと炎は燃え移り、身を焦がす猶予すらなく人形は蒸発していった。

 姉堂マコトは気力を使い果たし、その場に倒れ込んだ。

 そのかたわら、魔力を失ったパンドラの箱は溶け出していた。

 階段から見守っていた調査員たちが集まってくる。

「私の見込んだだけのことはあるわね」

 アナスタシアはしゃがみ、彼の頭を膝の上に乗せた。もう既に声は聞こえていないようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ