調査1
小屋の中は質素だった。小難しい書物が並べられた本棚があるわけでもなく、窓際に置かれたテーブル。そして小さな観葉植物。後はキッチンと寝床があるだけだ。レムとエリーの家よりも小さい。
「お茶を出そう」
「ありがとうございます」
空腹の俺にとっては何よりありがたかった。さらに空腹の度合いが進行すれば体調を崩し始めるところだっただろう。
「ところで、君の着ている服は変わっているね」
服? ああ、そうか。学ランを着ていたから村人だと気づかれなかったのか。久々に着てみたのだが、やはりこの服はこっちの世界では嫌われているらしい。多少なりとも警戒されるのは仕方ないのだが、こんな得体の知れない黒づくめの人間をよく小屋の中に入れる気になったものだ。
「話すと長くなるかもしれませんが、俺はアナスタシアと呼ばれる少女を追ってこの世界にやってきたんです」
言い終えると、案の定、茶をかき混ぜる手が止まっていた。
「……そうか、僕には難しい話かも知れない」
茶を机に置き、男はブツブツと考えだした。取っていいのだろうか。
この男がレムの父親というのはともかく、狩人らしからぬ体格だ。察するに、村の中で一番仕事ができなかった彼がここに送り込まれたのだろう。あるいは、自ら望んでここにやってきたのか。それまでは畑も狩りもできずに村人から罵られつづける生活を送っていたと思うと、同情を禁じ得ない。
……そういえば、レムも父親は町にいるとか言っていたな。もしかして本当にこの人がレムの父親なのか? レムもエリーも積極的に話してくれたことがなかったから、何となく聞きづらかった。
「名前を言ってなかったね。リカードだ」
「姉堂マコトです」
「マコトか、うん。この村はね、火山が噴火して火山灰に埋もれたんだ。だから僕たちはその発掘調査を行っている」
「そうだったんですか」
「うん。一説では氷の魔女が消えたから噴火が起こったとも言われている」
噴火……その単語を聞いた途端、目を逸らしてしまった。
俺が指輪を抜いてしまったから噴火はもう起こらない。だが、火山近辺のエネルギーは失われていき、暮らせなくなっていく。もしかするとここもその内……。
自分が防いだ噴火のことで頭がいっぱいになり、男の言うことはもう耳に入ろうとしなかった。
「どうして魔女が消えたのかについては色々言われているが、一番有力なのは、ローランドという国が魔女を討伐するために動いた。その結果、魔女は消えて火山が噴火した」
ようやくリカードは茶を差し出してくれた。
「そもそも何のために魔女はこの地にいたのかすらわかっていないんだが……。さて、ここまでで何か知っていることや疑問に思ったことはあるかい?」
「ありません」
話を聞いていなかったせいで反射的に答えてしまった。整理するためにもう一度聞きなおすべきだろうか。
いや、それよりも、まず茶を飲ませてもらおう。カップを掴む。熱い。
ガチャッ。という音がした。残念ながら俺は危険物を前に振り返れない。この間に後ろから刺されたりでもしたら敵わない。
「おかえり」
後ろの人間は一言も発さない。どうやらリカードの知り合いみたいだが、口数が少ないらしい。
一口飲んで振り返ってみると、そこには荒野のような茶髪の少女がいた。綿に似た生地の服を羽織り、俺を品定めするような目で見てくる。
「よろしく。私はミーシャ」
「俺は姉堂マコト」
微笑みながら挨拶をされて、一瞬面食らってしまった。もう少しテンションの低い声のが飛んでくるものだとばかり思っていたが。
「マコト。彼女は私の助手みたいなものだよ。仲良くしてやってくれ」
「わかりました」
仲良くするだけの時間はここに泊まらせてもらえるということなのだろうか。まあ、よっぽどの鬼でもなければ二、三日くらいは許してくれるよな。
「君は知らないかもしれないが、マコトは村から来たんだ。ほら、僕が住んでいた村の」
「ああ、あの村の」
俺とは初対面だが、村には行ったことがあるらしい。
「彼に町の案内をしてやって欲しいんだ。僕はこれからやることがあるから。何か分かったら知らせてくれ。じゃあ頼んだよ。
「はい」
俺とミーシャを残してリカードは出て行った。
「どうしよう? とりあえず、外でも見て回ろうか」




