ネクロマンサー
村長からもらった地図を頼りに、村を歩いて行く。そう広くはない村なのだが、彼女の家は、俺がほとんど来たことのない場所にあった。
ここがそうなのか……てっきり物置小屋だと思っていた。
ネクロマンサーの家は物置小屋に挟まれて立っていた。
いや、あるいは、元々物置小屋だった場所に、何らかの理由で彼女が住み着くようになってしまったのかもしれない。
長老よりも偉いと言う割には質素な家だ。
この村では、二人以上で住む場合にはある程度大きな家を持つことが許されているのだが……。
どこか頼りない扉をノックする。
「どうぞ」
短く返ってきたきたその言葉には力がなかった。
「お邪魔します」
扉を開けると、まだ朝だというのに中は暗い。奥に小さな窓が一つ。そこから漏れる光で何とか部屋の様子を把握できるくらいだ。
ネクロマンサーの部屋……一目見ただけでそうとは感じない。奇妙な彩色の飾りや奇抜な仮面が壁に立てかけられているわけでもない。
一つ変わっていることがあるとすれば、部屋の片隅に直方体の箱が置かれていること。
もしも仮に、あの中にネクロマンサー御用達の道具が敷き詰められているのだとしたら、なんとなく性格をうかがい知ることができる。
そして、部屋の真ん中には艶のある女性が病人のように寝込んでいた。
「爺かと思った」
弱々しい声でそうつぶやいた。紅潮した頬と、潤んだ瞳。
近づこうかとも思ったが、流石に誰か分からない人間が近づくのは無礼になるだろう。
やがて整った美貌がこちらを向いた。
「お主は誰じゃ? 初めて見るな」
「姉堂マコトと言います」
「おお、お主が姉堂マコトか。爺から話は聞いておる。確か、別の世界からやってきたそうじゃな」
「はい、元の世界に帰る方法を探していまして。それで聞きに来ました」
「ふうむ……別の世界か……残念ながら私では力になれん」
「そうですか……」
そこまでの衝撃はなかった。何となく、こう言われることは予想できていた。それでも、アナスタシアのことなら何かわかるかもしれない。
「私はな……」
アナスタシアについて聞こうと思っていたところでエリシアが口を開いた。
「生まれつき、周りの人とは違う力を持っていた。死霊使いの力じゃ。この力のせいで何度も苦い思いをした。それでも、爺達がいてくれたから今日までやってこれた」
ネクロマンサーは一つ咳をした。
「ある日、私以外に死霊を扱える人間を知っていると言う者が現れてのう。どうしても気になったのじゃ、その死霊使いのことが。いや、私自身の正体かもしれぬ。氷の魔女と呼ばれたそやつを私は探すことに決めた。……それからが長い遊牧生活の始まりじゃった。爺達を引き連れ、各地を転々として氷の魔女を探し回った。そして遂に、この地に辿り着いた」
エリシアはまた咳をした後、深く溜息をついた。
「それで、氷の魔女は見つかったんですか?」
「いなかったよ。この地にいると聞いて旅をしてきたが、着いてみると誰一人いなかった。遅かったのじゃ」
いつの間にか泣きそうな声になっていた。
そしてもう一度、深いため息をつく。
「この村ももうじき滅びる」
「……えっ?」
あまりに唐突過ぎる物言いに、俺は聞き直してしまった。
「火山が噴火するんじゃ」
「…………」
何て返事をすればいいかわからなかった。
思考が宙に浮いている気分だ。必死に理解しようと彼女の言った言葉を何度も噛みしめる。
「身体が弱るとな、分かってしまうのじゃ。私もついこの間までは気づかなかった」
確かめる術もないその言葉に、俺は頭を抱える。花粉症だから花粉に敏感になったとか、そんな感じなのだろうか?
いや、それよりも百歩譲って火山が噴火することがわかったとしよう。俺になにができるんだ? 村の皆に伝えてこればいいのか?
「村の者は皆、ここで一生を終えるつもりでおる。それに、噴火によって魔女への手がかりが消えられても困る」
「…………」
残念ながら俺には無能なNPCのように黙りつづけることしかできない。こんなのにまともに返答できるのは村人レベル99かピエロくらいなものだろう。
「どうすればいいんですか?」
「火山のふもとに洞窟があっての。そこには赤く光る指輪がある。お主にはそれを取ってきてほしい」
彼女に会ったのは今日が初めてで、何の思い出もないよそ者同然の俺にしか頼めない話なのかもしれない。
「その指輪を取って来れば火山の噴火は防げるということですか?」
「そうじゃ。そこに麻酔銃がある。持っていくといい」
エリシアが指さした先には麻酔銃が立てかけてあった。
「この話は他の者にはしてはならぬぞ。……ちょっと喋りすぎた。寝かせておくれ」
最後にまた一つ咳をして、彼女はそっと瞳を閉じた。




