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狩り2

 午前中の透き通るような青い空とは対照的に土のやせ細った荒地を男達が踏み鳴らしていく。

 ルードが言うにはこの先の草原まで行くらしい。

「うー。昨日飲みすぎた。だるい……」

「大丈夫かよ。俺も朝は体動かないが」

 ちらほらと話が聞こえてくる。そこまで硬い雰囲気ではないらしい。

「ようマコト、今日は頑張れよ」

 いきなり肩をたたかれたと思ったら、ほとんど話したことのない男がそう言って去って行った。

「緊張しなくてもいいぞ。面倒なことは全部俺達がやる。お前は俺に気楽に付いて来るだけでいいんだ。」

「ああ」

 わかってはいるんだが、内心ではまだ獲物を見つけてもいないのに緊張している。

 別に俺一人がいたところで結果は変わりはしないんだ。よっぽどやらかさない限りは。最悪、突っ立ってたっていいだろう。その方がよっぽど迷惑をかけなくていい。木偶の坊として百点だよ。

 そんな風に作戦を考えていると、いつの間にか景色が変わり、目の前には草原が見えていた。

 男達は足を止め、さっきまでの賑わいが嘘だったかのように静まり返っている。

 どうやら、男達が見つめる先には獲物がいるらしい。

 目を凝らしても何も見えない。ただ生い茂った草が風に揺れているだけだ。

「ここからは声を潜めろ。間違ってもでかい声なんて出すんじゃないぞ」

 ルードが声を潜めてささやいてきた男達は身を屈め、右側に向かって歩き始めた。

「なあ、いるのか?」

「ああ、慎重に行動しろよ。おお、滅多にお目にかかれないマウワだぞ。初めての狩りがマウワとかついてるな」

 視力がよくないせいで俺には見えないが、ルード達には見えているらしい。

「風は左から吹いてきている。だから俺達は風下の右に向かって進んでいるんだ。このまま反時計回りに進みながらマウワを囲む。いいな?」

 いいなと言われても、俺には何もできない。

「何かできることはないか?」

「ない。お前はマウワを見張っているだけでいい。俺は罠を仕掛けておく」

 改めてマウワのいる方向を見るが、かろうじて何かが動いているのが見えるくらいだ。

「……すまん、見えない。こっちに来て少しは視力は上がったと思ってたんだけどな」

「わかった。もうちょっと近づこう」

「いいのか?」

「ああ、気づかれないギリギリのところまで近づく」

 低い姿勢を保ちながらゆっくりと近づいていく。見えてきた。鹿のような動物が四匹。

「流石にこれ以上近づくとまずい。草を体に擦り付けておけ」

 体臭を紛らわせるためだろう。ルードは生えている草を引っこ抜き、擦り付ける。

 今まで草を体に擦り付けだことはなかったのだが、何の抵抗もなかった。野性的な生活に体が適応した証拠なのだろうか。

 全身から雑草の臭いがする。だが嫌悪感は湧いてこない。

「後は見張っててくれ。風が止んだ時を狙って他の奴らが風上に向かう」

 ルードはまた罠を作り始めた。

 動物たちはと言うと、仲むつまじく、水辺でくつろいでいる。

 何の警戒心もなく地面に寝そべっているのが二匹。水浴びをしている小さいのが一匹。おそらく子供だろう。そして、それを陸から見守っているのが一匹。

 何ということはない平和な日常を見ているだけなのに、心臓が落ち着いてくれない。

 ルードは後ろでせっせと罠を作っているが、聞くところによると気休め程度の物でしかないらしい。つまり狩りが成功するかの大部分は狩人の腕にかかっているわけだ。

……風が少し弱まってきた。

「何か動きはあったか?」

「ん……」

 いつの間にか、四匹のマウワは水溜まりを離れ、風上に向かって歩きはじめていた。

「気づかれたかもしれない」

「何!?」

 ルードは罠を放り投げ、飛び上がる様に身を乗り出してきた。

「罠を仕掛けてる場合じゃない! 行くぞ!!」

 ルードが走り出そうとした瞬間、ブンと空気の揺れるような音が重なった。どこからともなく放たれた矢がマウワ達の目の前に突き刺さった。

 危機を感じ取ったマウワ達は、先程までとは明らかに違う速度で駆け出した。

 だが、子供の1匹だけはパニックを起こしたのかこちらに向かってきている。

「あいつを狙うぞ」

 平静に言ってくれるが、子マウワのスピードは警戒しながら歩いていた時からは想像もつかないほど速い。あんなのを本当に仕留められるのか?

 ルードが弓を構え、矢を放った。他の方面からも次々と矢が飛んでくる。だが、当たらない。俺も倣って矢を放つが、大きく反れて外れてしまう。

「落ち着け。焦るのはよくない」

 また矢が飛び交い始める。そしてルードの放った矢が子マウワの足元を掠めた。

「チッ!!」

 それまで猪突猛進の走りを見せていた子マウワも、怯みを見せる。

 そして、何を感じ取ったのか、俺の姿を見るなり、また全速力でこちらに向かって来た。

「上等じゃないか!!!」

 明らかになめられている。だが、このチャンスだけは逃すことができない。こんな俺でも、俺なりに鍛えてきたんだ。

「無茶するな!怪我するぞ!!!」

 弓を構え、限界まで矢を引く。

 そして、一瞬で手元から消え去った矢はマウワの左足に刺さった。

 体勢を崩し、マウワはねずみ花火のようにのたうち回る。

 その直後、瞬く間にマウワの体に矢が刺さっていく。

「キイ…………キィ…………」

 段々と喚き声が小さくなっていく。震えるように小刻みに動いていた体は、やがてぴくりとも動かなくなった。

「やるじゃねえか。今のはラッキーだったが、これでお前も一人前だ」

 男たちが続々と駆け寄ってくる。

「よし。ちゃんと仕留めたな」

「おめでとうマコト。今日はごちそうだぞ」

 恰幅のいい男が、掴んでいた矢を丁寧にしまいながら言う。

「子供の肉も食べられるのか?」

「おう、子の肉は大人の奴とはまた違う味わいがあって楽しめる」

 収穫ありになるのか。レムとエリーは喜んでくれるだろう。

「よくやったマコト、それから皆の衆。罠と矢を回収して引き上げるぞ」

 そうして俺の初めての狩りは無事終わった。

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