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長老との面会

「起きろ!!!!」

「う……」

 落ちたがる瞼を必死に開けると、そこにはおさげの少女が立っている。

「よく眠れたか?まあ眠れてないだろうな。目の下にでっかい隈ができてるぞ」

 小さな体の割には大き目な声量だ。身長は小学校高学年と言ったところか。中身もそれに見合ったものじゃないだろうか。

 それはともかく、疲れのせいなのか、堅い地面のせいなのか、それとも腹が減ったまま寝てしまったからなのか、どうしようもなく体が多い。

 なぜ自分がこんな暗いところにいるのかも理解できない。……駄目だ。頭に靄がかかったようで思い出せない。

「ここは?」

「なんだお前、覚えてないのかよ。昨日お前がいきなり現れてここに入れておいたんだ。そんでお前はずっとここにいたわけ」

……何となく思い出せたような気がするが、まだ違和感が残っている。重要な部分の記憶が欠けているみたいだ。

「どうした? ボーっとして?」

 丸い目が覗きこんできた。

「ん、いや、寝不足で頭が回らなくてさ」

「ハハハッ、なんだお前も寝不足なのか。村の男達も夜中にお前が逃げ出さないかってずっと見張ってて寝不足なんだぞ」

「なんだそりゃ……」

 確かに逃げようと何度も考えてはみたが、外から鍵をかけられた上に、手首を縛られたまま逃げ出せるほど俺は器用じゃない。

 そんなことを考えている内に頭に血が巡り始めたようだ。少しずつ記憶を思い出してきた。

 そうだ。一昨日、俺はついに睡魔に打ち勝ちアナスタシアを屋上に追い詰めた。しかし、いきなり謎の少年が現れたと思ったら、二人はどこかに消えてしまったのだ。

 そして昨日、教師たちのいない隙に屋上に行ってみると、この見知らぬ村に飛ばされてしまったのだ。

 これから俺はどうすればいいのだろうか。

「落ち込んでないで。爺ちゃんが待ってるから、行くぞ」

「爺ちゃんって誰だよ」

「村の長。いいから付いてこい」

 開け放った扉からソソクサと少女は出て行ってしまった。せめて縄くらいは解いて欲しいんだが……。

 力の入らない体をよろよろと動かし、なんとか自力で立ち上がり、馬小屋を出る。

「村の皆はお前のことまだ疑ってるからな。言葉には気を付けろよ」

 朝日が眩しい。手で光を遮ろうにも縛られているせいでどうにもならない。なあ、なんとかしてくれないか。

 仕方なく目を細めて歩こうとするが、体に力が入らないのと歩き慣れない土の地面が相まって、転倒してしまう。

「ぐへっ」

 またしても口の中に土が入ってしまった。

「何やってんだよ」

「解いてくれ」

 距離は空いていたが幸いにも気づいてくれたらしい。少女がこちらに向かってくる。

「分かったよ。本当は駄目なんだけどな」

 うつ伏せの俺に乗っかってきた。柔らかく小振りな臀部が気持ちいい。これも役得と言うやつなのかもしれない。

「……あーもう!硬すぎて縄が解けないぞ!!自力で何とかしてくれ」

「何となく分かってた。大人に助けてもらえないか?」

「無理だよ。今いないし」

 そう言いながら少女は腰をどけた。

 確かに、馬小屋を出てから人っ子一人見かけていない。何かあったのだろうか。

「なあ、お前どうして黒いんだ?」

「黒いって?」

「お前の着ている服のことだよ」

「ああ、学ランのことか。これは俺がいた世界の儀礼用の服だよ」

「なんだ、そうだったのか。皆はてっきり邪悪な化け物だと思ってるぞ」

 少女は再び歩き出した。

 ああ、それで気味悪がってたのか。

 ということは、この村の近辺では黒い服を着る習慣がないのかもしれない。

 少女は立ち止まり、振り返った。

「着いたぞ、ここが長の家だ」

 周りにポツポツと立っている家よりも一際大きい。少女は扉を開いた。

「爺ちゃん、連れてきたぞ」

 中に入ると、トーテムポールの周りに男たちが胡坐をかいて座っていた。青年から中年まで、皆体格がいい。

「そこ空いてるから座れ」

 ちょうどトーテムポールの手前に、環の空いた部分があった。わざわざ俺のために空けておいてくれたのだろう。そこに俺も胡坐をかいた。

「さて、単刀直入に聴かせてもらおう。お前さんはどこから来たんじゃ?」

 白髪の老人――おそらく村長だろう――がトーテムポール越しに口を開いた。

「こことは別の世界の話なんだけど、アナスタシアっていう金髪の少女がいたんだ。そいつは魔法とかいうわけのわからない力を使って俺の日常を滅茶苦茶にしていった。そいつを追って、俺はここに来たんだ」

「……ふむ」

 厚い眉毛に覆われた表情の読めない目。老人は蓄えた顎鬚をいじりながら、俺の言ったことをかみ砕いているように見えた。

「アナスタシアも、金髪の美少女も聞いたことがない。すまんが、わしではお主の力にはなれんようだ」

 そもそも、アナスタシアは偽名なのかもしれない。あいつのことは何一つ信用できない。ひょっとすると、あの金髪の姿さえも。

「ふむ……しかし、エリシア様なら何かわかるかもしれん」

「エリシア?」

 確か、ネクロマンサーだったか? 長老よりも偉いのだろうか。

「長老!こいつをエリシア様に合わせるのは危険です!!!」

 突然、隣から威勢よく飛び出してきた。

「わかっておる。すぐに合わせる心積もりは持っておらんよ。ところで、わしが個人的に聞きたいことがいくつかある。元の世界から来たというのは本当か?

「ええ、本当です」

「……にわかには信じがたい。何か証明するものはないか?」

 言われてポケットを漁る。駄目だ、ハンカチとポケットティッシュくらいしか入ってない。こんな物では説得力が薄い。

「お前さんが着ている物は何じゃ?」

「ああ、これは学ランです。俺がいた世界での儀礼用の服です。高校に通ってる男子学生なら皆着ていますよ」

「なんと面妖な。いやしかし、お前さんが別の世界から来たということはわかった。して、お前さんはこれからどうするつもりじゃ?」

「俺は……」

 俺は、どうすればいいんだ? アナスタシアを探しに来たのに、村の長でさえ知らないなら、この村にいる意味はない。じゃあ、他の村や町を当たってみるか?

「当てがないなら、しばらくこの村にいるといい」

「え?」

「長老!!!!!」

「こんなどこの馬の骨ともわからない奴に!!! 警戒心がなさすぎます!!!!!」

 男たちが次々と口を出し始めた。

「お主らがそう言うのもわかる。しかし、村はよそ者を受け入れて育ってきたんじゃよ。お主らだってそうだったじゃろう。わしの記憶では、随分とやんちゃな者もいたはずじゃがのう」

 村長の言葉に、男たちは押し黙ってしまった。

「それに、この者が別の世界から来たというのは興味深い。どれ、しばらくレムの家に居候してみなさい。」

「あたし!?」

 少女が飛び跳ねた。どうやらレムという名前らしい。

「別にいいけど……。その変てこな服は脱げよ。誰も着てるのみたことないぞ」

「わしも見たことがないのう。好き好んでそんな服を着ている者なぞどこにもおらんわ」

 笑いの渦が巻き起こった。

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