異世界 村2
あれから何時間が経っただろうか。小屋の隙間から漏れる明かりもなくなり、夜になった。
誰かが助けに来てくれることもなく、俺は後ろ手に縛られたまま胡坐をかいて地面に座りつくしていた。
「くっ……畜生ッ!!!!!!!!」
正確に言うと、縄を解こうと試みていた。
諦めなければいつかは縄が解けてくれるんじゃないか、そう思って手を動かし続けてきたが、体の方が先に限界が来そうだ。手首の痛さが滲んでくる。
そもそも仮に解けたとしてどうすりゃいいんだ。運悪く小屋の中に村人が入ってきたらジ・エンド。小屋から抜け出せたとしても、視界も利かない夜に右も左もわからない世界をさまようのは無謀すぎる。むしろ解こうとしない方がいい。
諦めの境地に行きついた俺は、力を抜いて地面に倒れ込んだ。
馬と呼ばれる生物がじっとこちらを見ているような気がする。
あまりに不気味すぎて、俺はすぐさま背を向けた。
ただでさえ邪悪さを感じる山羊の頭部に、逞しい馬の体が備わったのだ。不気味と言う言葉では言い表しきれない。
あれは馬じゃない。馬が進化したものだと言われれば納得できなくはないが、明らかに齟齬がある。
体は馬で顔が山羊なのだから7割は馬と言ってもいいのだが、それにしても恐ろしい。寝ようとしてもなかなか寝付けない理由の3割もそのせいだ。
眠気も確実に存在しているのだが、手首の痛みのせいで逆にストレスが蓄積して余計に眠れない。
ここはせめて、「馬」が誕生してしまった所以でも考えて気を紛らわせるとしよう。
そうだ、「馬」というのはあの類の動物の総称なのだ。
この地域に存在している馬は、他とは特別で、黒魔術による錬成によって作り出されたキメラなのだ。それなら顔が山羊で胴体が馬だというのも説明がつく。
黒魔術によって錬成された馬の足は絶対零度になっていて、砂漠や溶岩などの高温地帯を移動する手段に用いられているのだ。
だが、黒魔術によって複数の生命を宿してしまったために、精神的には不安定な生き物となってしまった。結果、溶岩地帯を渡ろうにも落馬してしまう者が続出した。
これでは溶岩地帯を渡ることができない。黒魔術師達は窮地に立たされた。
そこに救済者として現れたのがネクロマンサーだったのだ。彼らは馬を殺し、死霊として操ることで確実に危険地帯を渡る術を手に入れたのだ……。