第68話 対抗勢力
第68話 対抗勢力
マルクス王国で秘密会議が行われてるのと同じ頃、アミラス王国の国王執務室でも同じような秘密会議が開かれていた。
いつものように国王、宰相、第一王女、そして佐伯一馬の4人だ。
「カズマよ、お主の言う通りになったの。労せずして、王国連合の議長国の席がまたアミラス王国に戻ってきよったわ」
「ええ、先日の王国連合の会議ですんなりアミラスに議長国が巡ってきたのは、彼らの前に召喚勇者の姿を見せたからですわね。それに陛下がおいでになっていたら、アミラスが物欲しげに議長国の椅子を手に入れたように見えましたけど、私が発言したことで自然な流れで話がまとまりましたわ」
「それでカズマ殿、このあと我らはどのように動けばいいのですかな」
「そう、それよ。余はどうすればよいのじゃ」
「まず、陛下が何を望んでいるかによって手段が異なります。陛下はヒノモト国をどのようにしたいのですか?」
「どのようにとな。それは決まっておる。あのアマミヤを殺して、ヒノモト国を奪う。アマミヤを殺せば、未だに子孫がいないヒノモト国の正当な存続の理由は失われる。当然その保有する迷宮も大陸内の全ての者の盟約により、討伐した者つまりわしの物となる。あの迷宮はかなり特殊な迷宮だと言う話だ。迷宮内部に安全な街があり、恒久的に採集可能な薬草畑もあるそうじゃ。あの迷宮は正に宝の山じゃ。どの程度まで探索が進んでいるのか不明じゃが、少なくとも中層階までの探索が進み、豊富な迷宮資源もとれるという話じゃないか。それにあの地を手に入れられれば、魔物の森の中に安全な領域を確保できると言うことじゃ。魔物の森の探索もより容易になるじゃろう」
「雨宮先生の殺害が、陛下の望みですか・・・」
そのことを認識した一馬の脳内には、その望みが成功するビジョンは浮かんでこない。
今、目の前にいる3人では役不足と言うことなのか、雨宮先生を殺害すると言うことが不可能なことなのか。
いずれにしろ、ここで雨宮先生の殺害はできないとは言えない。
そう言えば自分の存在は用なしの烙印を押されて、排除されるだろう。
どう考えても最悪のビジョンしか浮かんでこない。
「そうですね。少なくとも陛下のその望みを叶えるためには、アミラス王国一国では対処できません。雨宮先生に対するには、それに匹敵する人物、勇者を育てるか、全包囲網でヒノモト国の行動を完全に抑えるか。いずれにしろ、今すぐにできることではありません」
「ふん、そんなことは解っておるわ。だからこそ面倒な手を使って、王国連合の議長の座に返り咲いたのだ」
すでに、この馬鹿王の頭の中では、王国連合の議長に返り咲いたのは、自分の手腕によるものだと言う変換がなされているようだ。
心の中で、毒ついてもそれを顔に出すことはできない。
自分自身の命は、この馬鹿王に握られているのだから。
「陛下のご炯眼、おそれいります。しからば手に入れた王国連合議長の権限を使って、ダルク帝国そして正教会教皇国に働きかけなければならないかと思います。また宰相閣下におかれましては、王都内のみならず、より広い場所で世論を作って頂く必要があるかと思います。また王女殿下におかれましては、俺たち召喚者達に働きかけをして頂けたらと」
「余は2国に対してどう言えばよいのだ。今更、三ヶ国同盟など無理な話じゃ。我らの争いの根は深い」
「存じ上げております。しかしながら、3国にとっての共通の敵であれば、共闘することは可能ではないですか?例えば魔王とか」
「なるほど、つまり私はアマミヤが魔王であるという世論を作り出せばよいのだな。しかしかの者のヒノモト国の統治は、統治と言えない程国民に優遇されたものだと聞く。華美に逸ることもなく、魔王と言うにはあまりにも・・・」
「しかし獣人族など亜人との融和を進めていて、ヒノモト国では奴隷制すら撤廃されていると聞いています。人族が種の頂点であるべき姿なのに、それに反したことを行っているのです」
「人族に反する行為を是認する者。人族以外を優遇する者。それはなぜか、何者か。そのように誘導しろと言うのじゃな」
「私は何をすればいいの?今更、地方に散った勇者など何の価値もありませんでしょう?」
「ええまあ、軍事的な面から言えば、地方に散っている同級生や、冒険者として生計を立てている者たちは、価値はないかもしれません。しかし、我々は勇者召喚の儀式によって、この世界に呼ばれたのです。つまり国民から見れば我らは勇者であり、勇者が敵とみなす相手は魔王なのです」
「つまり、わたくしにアマミヤへの認識をそのように持つように誘導しろということですわね」
「ええ、王女殿下の演説は一級品ですからね」
「つまり、我ら3人がそれぞれの立場を利用して、それぞれ異なる方法で、あのアマミヤを魔王認定に導くのじゃな」
「認定までいかなくても、その疑いがあるって程度で構いません。要は大義名分があればいいのですから」
「しかし、仮にガルク帝国、教皇国との連合ができたとして、ヒノモト国まで攻め入るのに、広大な魔物の森を越えなければならん。訓練された騎士や兵士ならば、多少対処できるだろうが、彼らでも無傷で魔物の森を越えることは難しいじゃろう。となれば徴収した農民などの一般兵や錬度の低い地方の貴族兵などはヒノモト国に達する前に全滅するのではないか?どのようにして攻めるのじゃ?」
「それは、すべての駒が出そろってみなければ解りません。今必要なのは、陛下の望みの実現に向けての下準備なのですから」
その日の秘密会議も終わり、佐伯一馬が王宮の中に与えられている自分の部屋に戻る。
召喚された者の内、今でも王宮内に部屋を与えられているのは、御手洗賢一郎をはじめ武術、魔術に特に優れたスキル能力を発揮している5名のみ。
佐伯一馬のように直接的な攻撃力がない者は、全員が王宮どころか王都にすらいない。
全て地方の貴族に払い下げされてしまっている。
要は奴隷として売られてたのだ。
伝え聞いた話だと、奴隷として払い下げられた同級生の生活はかなり悲惨らしい。
女子の中には、妾と言う名の性奴隷になっている者もいるということだ。
それでも生きているだけましなのかもしれない。
払い下げられた貴族が国王に支払わされた引き取り代金の損失を回収するために、そのまま奴隷商に転売された同級生もいるということだ。
しかも足がつかないように、敵国であるガルク王国の奴隷商に。
敵国人の奴隷がどれほど悲惨な状況に置かれているか、一馬も国の中枢部にいる人間として情報が流れてくる。
一馬が思いつめた目をして、自分のベッドに腰をかけ自分の思考の海の中に沈んでいいると、自分の部屋のドアをノックする音で現実に引き戻された。
「あ、はい。どうぞ」
「ああ、済まない一馬。もう寝てたか?」
そう言いながら入ってきたのは、御手洗賢一郎だ。
召喚されたクラスメートの中でこいつが真の勇者となり、迷宮討伐を成し遂げ、龍山脈を越え、魔王を倒してくれて、俺たちを元の世界に戻してくれると期待されていた。
現実は、先生とは名ばかりの元の世界でもパッとしない、若い担任教師である雨宮先生が、突然ドラゴンスレーヤーとして名をはせ、迷宮の所有権を与えられて、自分の国を興してしまった。
召喚された当日、雨宮先生だけがスキルを与えられていないと言うことを知って、いつものようにクラスの仲間にそのことを知らせた。
あの時、俺たち全員、異世界転移というあり得ない現実にとまどっていたけど、俺たち全員に特別の力が与えられていると知ってさらに有頂天になっていた。
元の世界でも俺たちは、それぞれの分野のエキスパート、エリートだったのだから、この世界でも選ばれた者であることは当然で、雨宮先生は俺たちエリートとは違う只の一般人だと見くびっていたのだ。
国王に謁見した後、雨宮先生の姿が見えなくなったことに対して、誰も気づかなかったし気にも留めなかった。
ただ、いつだったか、魔物の森の迷宮探索に出かけたグループの内、何人かが迷宮で雨宮先生に会ったと言う話をしていたけど、それでもほとんどのクラスメートは、懐かしいな程度の感想しかなかった。
それからしばらくして、迷宮探索が取りやめになり、クラスメートの大部分が王宮から出されて、雨宮先生がS級冒険者になったことを知った。
S級冒険者?
何だよそれ。
賢一郎でさえ、その頃にやっとC級冒険者相当に上がったばかりだと言うのに。
ダメだまたいつもの堂々巡りの思考に入ってしまっている。
今は目の前の賢一郎に意識を集中しないと。
「ああ、何か済まないな。疲れているようだけど、一馬は日中忙しそうだし、俺も騎士団の訓練があって、今の時間しか会えないからな」
「問題ないよ。それでどうしたの?」
「先日の王国連合会議に俺を出席させたのは、一馬だよな?あれって何か意図があったのか?流れで、アミラス王国が再び王国連合の議長国になることになったんだけど、その一方で雨宮先生の国、ヒノモト国だったか、とにかく雨宮先生を弾劾するような感じになってな。議長国が変わることになったのも、雨宮先生の国に対する対処の責任を取ってとか言っていたし。俺は先日の会議に初めて呼ばれて詳しいことは知らされてなかったし、何かヤバイことになっているのかなと思ってな。一馬ならその辺りの詳しい情報も知っているだろうと思って聞きに来た」
「詳しい話は話すことはできないんだよ。と言うか国王陛下をはじめ、宰相閣下などとともに出席した会議の中で知り得た情報は、国王陛下の許可がないと話せない制限が掛けられているんだよ。だから話したくても話せない」
「そうか。まあそうだよな。俺たち全員、奴隷契約だったか、それで行動を制限されているんだったな」
「そう言えば、この世界で一番初めに国王陛下に拝謁した時に、雨宮先生だけが国王陛下の隷属魔法が効かなかったんだよね。俺たちは全員すぐに掛かったけど。雨宮先生は魔法防御とかそう言った系のスキルがあるのかもね。それで鑑定でもスキルが見えないとか」
「どうだろうな。雨宮先生の活躍を聞くと、それだけではないと思うけどな。攻撃を受けるのは魔法だけではないし。寧ろ物理的攻撃の方が頻度が高いだろう、魔物相手の場合」
「そうだね。いずれにせよ、そう言った事情で詳しい説明はできない。ただ、雨宮先生と敵対することになると思う。そうしないと、王宮から出されたクラスメートの人たちを救いだすチャンスないし」
「何?それはどう言うことだ?」
「そのことも今は話せない。今の時点では全てのピースが混沌としていて、完成図が見えないんだよ。だから不確定な要素は増やしたくない」
「一馬なりに深い考えがあるんだろうけど、先生と敵対する道を選ぶ他の選択肢はないのか?雨宮先生も俺たちと一緒にこの世界に強制的に連れてこられた被害者なんだぞ」
「それは解っているよ。でも今は俺たちが一人でも生き残るために、雨宮先生と敵対しないといけない。そうすることが皆を救う道だと思う」
セブンフォースの方にも、たくさんの応援コメントありがとうございます。
書き手にとって、読者の方からのコメントが何よりの薬になると言う話は
本当なんだなあぁと今更ながら実感しています。
いつも読んで頂いてありがとうございます。