第62話 陰謀
少しずつ再開したいと思います。
読んで頂けたら幸いです。
第62話 陰謀
「陛下、如何しましょうか?このままでは、マルクス王国も王国連合から孤立する可能性があります」
ここは、マルクス王国の国王の執務室。
この部屋にいるのは、現マルクス国王であるシュルツ15世、王国宰相、王国近衛軍将軍の3名である。
今でこそ王国連合内で議長国の地位に納まっているマルクス王国だが、元々ほとんど領土もなく、歴史だけは古い王国であった。
代々の国王の気質も基本穏やかで、これまで王族内の不和も起きたことがないし、他国と衝突したこともない。
それが、ある日突然現れた一人の冒険者の働きによって、あれよあれよと言う間に管理する迷宮が増え、更にはその冒険者が龍山脈で竜を討伐し、この大陸で現存する唯一のS級冒険者となったことから周囲の小国が臣従を誓ってきて、今や王国連合内において領土、国力ともにトップの地位に成長したのである。
王国内に現れた謎の冒険者は、権力などの欲はなく、どう言う訳かマルクス王国内に留まってくれている。
彼が欲したのは、地位や金貨などではなく、本来マルクス王国が手を出すことのできなかった、あの魔物の森のずっと奥にあった迷宮のみ。
それもこの冒険者が自ら探索を終え、国際協約上迷宮の管理権を主張したものだ。
本来であれば、彼個人がその権利を自分で主張していたら、マルクス王国のものにすらなっていない迷宮。
当時の国王を始め、今ここにいる国王の側近中の側近たち、いや王宮の大臣を含め皆の一致した意見として、この迷宮の管理権をこの冒険者に与えた。
ここまではよかった。
全てが順調に、マルクス王国にとって利益になるように事が進み、王国連合内のトップに躍り出て、今や一国で宿敵である、ガルグ帝国や正教会教皇国とも引けをとらないほど国力が増した。
それがどうしてこのような事態に。
元々、権力闘争などと無縁の世界で生きてきた現マルクス国王は、どう判断していいものか全く見当がつかない状態に陥っていた。
「陛下。聞いておられますか。まずは王国としてどうするのか。その判断は陛下自ら行って頂かなければなりませんぞ」
「じい。なんでこのようなことになったのじゃ」
幼いころから国王の養育係として側にあって、国王にとっては身内以上に信頼を置いている宰相の白髪交じりの長いひげをぼんやり眺めながら、国王が何度目になるかわからない愚痴ともいえない愚痴をこぼす。
それを見ながら、生真面目一番の、これまた国王を幼い時から側で守護してきたマルクス王国の剣である近衛軍の将軍が声を出す。
「陛下。もはやそのような事を言っている場合ではありません。今や陛下はマルクス王国の国王という立場だけではなく、王国連合の議長と言う立場でもあるのです。今は、マルクス王国の国王としてではなく、王国連合議長として判断すべきです。義だけでは政治はできません。何卒陛下のご英断をおくだしくださいませ」
「マーロよ。しかしそうは言っても、何と申し入れるのじゃ。今更、迷宮を返せなどとは言えまい。それに理由もなく国際的に国家として承認されている国に攻め入ることはできまい。まして、本人の同意なしに迷宮の管理権を取り上げることなどできないだろう。迷宮の管理権に関する協定は、王国連合のみならず、ガルグ帝国や正教会教皇国、獣人族や妖精族含めた、ガイア大陸に住まう全ての種族との契約じゃ。これを無視したら、仮に我々が現在管理している迷宮に対して他国が攻め入って専有し、その権利を主張した場合、反論できなくなるぞ。と言うかアマミヤ迷宮の権利を理由もなく取り上げてしまえば、契約神の罰が下るやもしれん。そのようなことはできん」
「迷宮の権利に関しては、本人が同意するか、本人が死亡しその権利を受け継ぐ者がいなくなった場合のみその権利は消失することは陛下もよくご存じのはず。ヒノモト国が、王国制をとらず、王国連合への加入も拒否し、まして税収など国家運営の基礎となる国民統治を行わないとすれば、王国連合自体が瓦解しますぞ。事実、小国の国民の流出はとどまるところを知らず、ヒトモト国の国民は日に日に増えておりますぞ。もやは座して様子を見ている場合ではありません」
「宰相閣下の言う通りです、陛下。冒険者ギルド、商業ギルドなど主だったギルドの本部もヒノモト国に移っております。このままでは、武力的にも経済的にも我がマルクス王国を超えることになるでしょう。手をつけるなら今しかありません」
「そうは言うがな。龍山脈で竜を討伐したドラゴンスレイヤーだぞ。しかもかのアマミヤ殿のみならず、そのパーティーメンバーも全員A級冒険者レベルなのだぞ。最近は更に配下も増えていると聞く。そのような者に対して、武力的に対応できるのか?それに、アマミヤ殿が持つマジックバックの収納力と言ったら創造を絶する程じゃ。経済的な封鎖や、食料的な封鎖などもできん。今でこそ、ヒノモト国まで街道を整備して人と馬車の行き来ができるようじゃが、大群で攻め入るとしてもかの地は、魔物の森のほぼ中央。そんな場所まで進軍できるのか?マーロよ、どうじゃ?わが国の兵力はいつからそんなに強くなったのじゃ?じいよ、どうじゃ?王国連合として敵対するとなったら、議長国の我らが一番の矢面に立つことになるのじゃぞ。勝算はあるのか?」
「それはそれですじゃ、陛下。アマミヤ殿は、我がマルクス王国領内の各都市にも拠点を持ったままにしておりますじゃ。時々各地の迷宮の探索にも入ってきているとも聞いております。それに、人を殺める方法は一つではありませんぞ」
「じい、じいは騙し討ちも辞さぬと言うのか?それは、あまりにも義に劣る。今のマルクス王国があるのは、すべてアマミヤ殿のお陰じゃ。我らが成したのではない。また我らに力がついたのでもなのじゃぞ」
「申し訳ございませぬ、陛下。少し言葉が過ぎました。しかし、そうなると、我がマルクス王国は王国連合の中で孤立することになりますぞ」
「しかたないことじゃ。余は決めた。王国連合の議長の席を返上しようぞ。他国が認めぬと言うなら、王国連合からの離脱も視野に入れようぞ。マーロよ。臣従してきた小国の兵力は勘案せずに、王国の兵力で防衛できる都市の防衛策をまとめておくのじゃ。また、アマミヤ殿に使者を送り、正式に同盟を結んで貰うように働きかけよ。交渉には余自ら当たってもよい。これらのことは、水面下で静かに行うのじゃ。全ての準備が整ったら、議長を退く」
「陛下、本当にそれでよろしいのですね」
「じい。これは余の最終決定じゃ。苦労をかけるがよろしく頼む」
「陛下の御心のままに」
「御意」
同じころ、アミラス王国の国王の執務室でも似たような会議が行われていた。
こちらの出席者は、国王、第一王女、宰相それと佐伯一馬。
佐伯一馬は、今回の勇者召喚儀式で召喚された一人だ。
彼はこの世界に召喚された時に、指揮者のスキルを得ていた。
当初、このレアスキルに関して、アミラス王国の過去の歴史書を紐解いてみても、その効果が皆目見当がつかなかったため、王宮としても取り敢えずは内政・製作系の訓練よりも先に、武術系の訓練班に組み入れていた。
結果、武術系のスキルではないけれども、一馬と組んでいるパーティーの狩り効率が他の訓練班と比較して非常に高いことが分かり、軍事作戦の立案会議や、外交会議、内政政策会議などのオブザーバーとして参加させると、そのいずれにおいても会議の効率がアップすることがわかった。
一馬本人は超人的な能力は発揮しないものの、参加者の個々の能力を上手く発揮させる絶妙なアドバイスを与えることができることがわかった。
このことが解ってから、国王は一馬を常に自分の側において、様々な場面で彼のアドバイスを受けるようになった。
そう言う訳で、アミラス王国の最高意思決定会議と言うべき秘密会議の場に、佐伯一馬も参加していることとなる。
「王様、次回の王国連合の会議には、御手洗賢一郎を連れて行って下さい。あと、第一王女様もご同席されるとよいかと思います。恐らく、次回の会議で、マルクス王国は議長国を降りるはずです」
「カズマよ、そのように簡単にいくか?前回の会議で、お主の策の通り、あの忌々しいヒノモト国について連合としてどう対処するべきか、議長国として立場をはっきりさせるように提案はしたが」
「そうよ、カズマ。ヒノモト国は、あのアマミヤがいるのよ。武力では到底かなわない。ケンイチロウでさせ、やっとB級冒険者に上がって、準男爵にして正式にアミラス王国の騎士団にいれたけど、他国に散っている勇者たちを全員集めても、アマミヤ一人に敵わないのではないかしら?」
「それにですな。ヒノモト国に敵対するようなことになれば、王国連合全体にとって、看過出来ぬほどの不利益。それどころか我が国にとっては、寝た子を起こすようなことになりかねませんぞ。かの者のお陰で、王国連合全体の国力が増しているのは事実。正教会教皇国の信仰の元になっている、伝説の勇者と違って、現在に現れた勇者と噂されるほどの人気。マルクス王国の王宮前広場に飾られている竜の鱗や竜の骨などの見物は、いまだに多くの人だかりと聞いておりますぞ」
勇者召喚してその日に、アミラス王宮から追い出すことを決めた張本人達3人は、自分達の先見の明がなかったことを棚に上げて、今や自分達の先生であった人物が出て行くのを引き止めなかった召喚勇者たちに愚痴をこぼすことが多くなり、最初のころのように余り彼らの事を重用しなくなってきている。
それでも、一馬のスキルの能力は無視できないので、王国連合の議長国に返り咲くための策がなにかないかと打診したところ、一馬が策を授けたのだった。
一馬自身は、国王の奴隷契約魔法で縛られているので表だって反発はしないものの、心の中では最近特に顔を合わせることの多いこの3人に対して苦々しい思いで、罵詈雑言を浴びせている。
そうは言っても、今はこいつらに従うしかないので、
「問題ありません。それに、アマミヤッチ・・・ヒノモト国の主である雨宮先生は、基本荒事は嫌いですから、多少不利益なことを要求されても、あちらから攻撃してくることはありません。それは、迷宮を管理して以降のあの国の統治方法や行動からも明らかです。ただ、このことを知るのは恐らく一緒に召喚されてきた我々だけでしょう。ですから、マルクス王国は、ヒノモト国に対して強硬な態度をとれないでしょう。結果、王国連合とヒノモト国との板挟みにあい、自ら議長国を降りると言うはずです。ですから、次回の会議の席で今後、連合王国内でもっとも戦力の伸びが期待されている召喚勇者と、次世代のアミラス王国を担う第一王女様がご臨席されることによって、必然アミラス王国に再び、王国連合の議長国の座が戻ってくることになります。議長国になれば、あとは、教皇国と帝国と交渉して、ヒノモト国をこのガイア大陸の共通の敵と認定して共同して討伐すればいいのです。ヒノモト国がいかに軍事的に優れていようとも、大陸中から連携して攻撃されれば討伐も可能でしょう」
「うむ。そのように簡単に事が運べばよいが・・・。しかし、アミラス国のみで、かの者に敵対することは無理な話じゃしな。まずは王国連合を仕切ってしまわなければ、いつ寝首かかれるやもしれん。カズマはかの者が仕掛けてくることはないと言うが、アミラス王国にとってかの者は、のどに刺さった小骨と同じじゃ。何も手をうたない訳にはいくまい」
たくさんのコメント、ご指摘ありがとうございます。
過去分については、修正する時間的環境的余裕がないのでしばらくそのまま放置します。途中辻褄が合わなくなる可能性もありますが、笑ってご容赦下さいませ。




