サクラ迷宮
翌日、迷宮都市に戻るふりをして日向亭を出て迷宮へと飛んだ。
行ったのは迷宮Bの地下15階だ。
攻略が楽だし、下層に出現する魔物の把握と訓練にはこっちの方がいいと判断したからだ。
「取り敢えず、しばらくはこっちの攻略をしてしまおう。でそのままダンジョンコアの攻略をしてしまってもいいし。」
「そしたらこの迷宮が成長しなくなるんじゃない?」
「その場合、最初からそう言う迷宮だったって思ってくれるんじゃないか。本当に出来たばっかりの迷宮なんて記録とかないだろうし。」
「旦那様のおっしゃる通りです。迷宮は王宮が管理していますが本来誰のものでもありませんし、最初に攻略を達成した者にこそその所有権があるかと思います。」
「まあ迷宮の所有権が欲しい訳じゃないんだけどな。この前みたいに変な罠や未知の魔物相手に戦う時に、成熟した迷宮から出てくる魔物よりこっちの方が安全だと思ったからだしな。」
「やはり、下層からは、罠とかが出てくるんだね。」
「魔物もほとんど魔法を使いますし。」
「それでもやはりあっちより楽だな。だんだん狭くなってる感じだしな。」
そう、地下15階は周囲2キロ程度はあったんだけど、地下20階まで降りてきてここまで感じていたことがはっきり実感できた。
狭くなってる。
一階層ごと100m四方縮んでいる感じだ。
今は少し歩けば迷宮内の全域が空間感知で来てしまう。
出現する魔物も少ないけどバラエティーには富んでいた。
やはり迷宮が出来たばかりだと生まれてくる迷宮も少ないんだろうか。
「何と言うか、迷宮の成長ってそのままなんだろうな。通路の幅が広くなったり、長くなったり。窪んだ場所が小部屋になったり、そう言うことなのかもしれないな。」
「確かに、罠がこんなに連続してあるって言うのも変だしね。」
「魔物も強いですけど、戦い慣れていないと言うか、動きが甘い感じです。」
「確かにな。構造的にも、魔物の質、量的にも増えて行くのか。迷宮って何なんだろうな。」
「何って、迷宮は迷宮だよ。」
「いや、生きてるんじゃないのに成長するって凄くない?」
「だって、山だって成長するし、川が大きくなったり、森が大きくなったり、魔物が増えたり、別に迷宮だけが成長している訳じゃないよ。私達だって人口が増えてたり、強くなったりするんだし。」
「あーまあそうなのか?」
「変なケンタ。ケンタって時々へんなことに拘るよね。そこがケンタらしけど。」
「そうなの、俺が変なの?」
まあ、魔法とか、ステイタスとか、スキルとかある時点で俺の常識は完全崩壊してるんだけどな。
「まあいいや、それじゃあ、休憩終わり、21階もちゃちゃっと終わるぞ。」
そのあとどんどん進んで気が付けば地下25階に到達、降りた瞬間に全域のマップ完成。サクッとボス部屋と思われる場所に向かった。
地下15階と同じように中には1体だけの反応が。中に入ると、
「あ、あなたたち、ちょっと酷くない?まだ出来たばっかりなんだよ。それなのにもう潰しに来るとか信じられないんですけど。」
へっ?何言ってるんだこいつ?
鑑定するといかにもあやしい。
あきらかにステイタス偽装している。
「なんで、あんただけステイタスが見えないのよ。あんたも私と同類なの?」
「あーまて、どう言うことなのか説明を求める。」
「説明も何も、私はダンジョンマスターで、あんた達は無法者の破壊者なんでしょう?」
「なんでそうなる?そもそもダンジョンマスターって何だ?」
「何って、この世界の秩序を守る使徒よ。選ばれた者、それがダンジョンマスターよ。」
「ふむ、それで誰に選ばれたんだ?」
「えっ?誰って、えっと、あれ?誰に選ばれたかって言うと、そ、そうよ神様に選ばれたんだわ。」
「神様?精霊様じゃなく?」
「精霊様って何よ、頭、腐ってんの?厨二病なの?」
「お前名前は?他に記憶とかあるのか?」
「記憶って、あれ?記憶はあるわよ。私はダンジョンマスターとして生まれて、ここを成長させていくんだし。」
「シャル、あいつの鑑定できるか?」
「鑑定できない。というか空欄になってる。」
「それで、お前はこのダンジョンを管理しているってことでいいんだな?すると俺の敵だな。」
「かかってきなさいよ。でも守護者作るのにも少し時間がかかるから、その時に戦ってあげるわ。」
「ちなみにどのくらい後だ?」
「どのくらいって、魔力が集まるまでよ。普通は途中の魔物が倒れてもそんなに魔力は減らないし、大部分の魔力は還元されてくるのにあんた達は根こそぎ魔力を持って行くから大変なのよ、どうしてくれるのよ。作ったばっかりのダンジョン攻略するとか最低。」
「まあいいや、それでどうするんだ?俺達はダンジョンコアさえ手に入れば問題なんだが。」
「私を手に入れる?私はそんなに安い女じゃないわよ。」
「まあボッチみたいだけどな。」
「ボッチ言うな。一人が好きなだけよ、気が楽だし。」
「お前、地球とか、日本とか聞いて何か思い出すことないか?」
「えっ?聞いたことある様な、うーん、よくわからないわ。」
「それでお前がダンジョンコアってことは、お前を殺すとこのダンジョンは崩れるのか?」
「殺すの?私を殺すの?やっぱり破壊者なんだ。この人でなし。」
「まあいいや、取り敢えず飯でも食べるか。」
「ケンタ大丈夫なの?あれって魔物なんじゃないの?」
「いや、敵性反応ないし、まあ大丈夫だろう。取り敢えず、コテージ出すからそっちで。」
「って、ちょっと何出してんのよ。ちょっと無視しないでよ。」
「いや、昼後からずっと探索してきたからな、腹減ってるし、飯でも作るし。」
「食事?食事作れるの?ダンジョンの外あんまりいい物なかったけど。」
「なんだダンジョンの外に出てんのか?」
「当たり前じゃない。食事はどうすんのよ。」
「それで偽装してんのか。」
「そうよ、完璧でしょ。」
「いや、お前のステイタス見えないみたいだぞ、わかるやつに見られたら即捕まるな。」
「マジで?」
「マジ」
「ところで、いい匂いじゃない。私にも食べさせなさいよ。」
「ああ、いいけど、何当たり前の顔して部屋に入ってきてるんだ?ここ土足厳禁だからな。」
「あっ、ごめんなさい。」
「お待たせしました旦那様。先日のシチューを温めなおしてみました。」
「ケンタ、この子もいいの?」
「悪いやつじゃなさそうだしいいんじゃない?」
「悪いやつとかどういう意味よ。使徒に向かって。私のダンジョンめちゃくちゃにしたくせに。この大悪人。」
「その大悪人からご飯貰って、おいしそうに食べてるお前は何だろうな。」
「これめっちゃおいしいじゃない。そこのあなた、私専属の料理人にして上げるわ。」
「ミュールは俺の奴隷、こっちのシャルは俺の妻だからな。」
「妻って、ケンタ、もういきなりなんだから。」
「奴隷、やっぱりあなた極悪人だったのね。」
「旦那様の奴隷にして頂いて、私は幸せです。旦那様以外の方の奴隷になるつもりはありません。」
「ということだ、残念だったな。ところでだ、こちらの質問に答えてくれたら、他にもいろいろ食事を出してやるぞ。」
「何よ、これよりおいしいものがあるの?」
俺は、アイテムボックスから、サンドイッチ、串焼き、焼き肉弁当、冷たい飲み物などを一つずつ出していく。
最後の冷たい飲み物でついに折れた。
「まあいいわ。ここまできた以上、私の負けだし。」
「まずダンジョンってなんだ?ダンジョンはお前が作ってるのか?」
「何だって言われても、ダンジョンはダンジョンよ。私はダンジョンの成長を手助けするのが役目ね。」
「ダンジョンの中の構造はどうやって作ってるんだ?」
「どうやってって、ダンジョンは言わばこの世界の縮図みたいな物なのよ。尤もひな型は作られてるのよ、私はそこに少し手を加えるだけね。罠を作ったり、魔物の配置を動かしたり。」
「他のダンジョンにもお前の様なダンジョンを作っている、というかダンジョンコアというならお前は死なないのか?」
「肉体的には死んじゃうわよ、神様じゃないんだから。生きてる間に、ダンジョンを設計して、私が死んだら核としてこのダンジョンに残ることになるのよ。ダンジョンの中の魔力は私の核を通して循環して行くのよ。」
「何のためにダンジョンを成長させるんだ?」
「何のためって、この世界の魔力の停滞をなくすためよ。魔物が持つ魔力を循環させて世界を魔素で満たさないとこの世界が滅んでしまから。」
「迷宮内の魔物はどうやって増やしてるんだ?」
「どうやってって、魔力が循環し出せば自然と増えるわよ。周囲の魔力を濃縮して魔石になってそこから魔物が生まれるの。魔物が死ねば魔物が持つ魔素が周囲に溶け出すでしょう。魔物の魔力がドロップアイテムとして残ることもあるけど。」
「他のダンジョンとの交流はあるのか?」
「そんなのないわよ。ダンジョンはそれぞれで独立した使命があるのよ。」
「あーボッチだったな。」
「ボッチ言うな。」
「それでお前の本当のステイタスを確認させろ。」
「いいけど、あなたも隠してるじゃない。」
「俺は隠してないぞ、そのままだ。」
「レベルは高いけどスキルが何もないとかありえないんですけど。」
「本当よ、ケンタはノンスキルホルダーなのよ。」
「ふーんそうなんだ。シャルさん?がいろいろ持ってるし、ミュールさんも持ってるから、当然ケンタさんも持ってると思ったわ。まあいいわ、これが私のステイタスよ。」
名前 サクラ・シイナ
種族 人族
年齢 15歳
職業 ダンジョンコア
LV 50
生命値 3000
スキル値 0
攻撃力 400
防御力 500
スキル 迷宮作成、鑑定、魔力操作、空間感知、統率、偽装、能力付与、擬態(身体変化)
補正 自動翻訳
レア装備 水晶の指輪、ゴスロリアーマー
「お前、日本人の転移者だな。」
「何よ、日本人の転移者って?」
「ケンタ知ってるの?この子のこと。」
「まあ推察って感じだな。それでだ、どうするんだ?サクラが俺に従うって言うなら仲間にしてやるけど。」
「仲間って何よ。私にはこのダンジョンを守り、成長させる使命があるし、ダンジョンの範囲からは離れられないわよ。」
「仲間って言ってもあれだ、このダンジョンの成長を助けてやるってことだ。その代わりまずはサクラの能力を分けて貰う。能力付与って言うのは、サクラの能力を他のやつに付与することが出来るんだろう?」
「出来るわよ。まあ迷宮作成の中にも魔物の能力を少しいじれる能力がついてるけど。」
「よしじゃあ、俺達に付与できる能力を全部付与してくれ。」
「いいけど、魔力が足りないわよ全部だと。」
「こんだけあれば足りるか?」
「これ全部魔石。どんだけ貯め込んでるのよ。あっ、これ守護者の魔石。これも使っていいの?いや、下さい。これで守護者を復活できるわ。」
「復活したらまた倒さないと拙いんだが。」
「大丈夫よ、あなた達も主人設定しとけば守護者から攻撃されることはないわ。」
「まあそれならいいや。取り敢えず、これで足りるか?」
「十分よ、残りはダンジョンの整備に使っていいんだよね。」
「おう問題ないぞ。」
その後、俺達三人に能力を付加して貰った、で俺には付加できなかった、鑑定上は。
迷宮作成と、能力付与はそもそも他人に付与できないらしい。
あと他のスキルは俺自身全部持っていたしね。
で、本当は、迷宮作成と能力付与獲得してた。
魔力の受け渡しの時に試しにやってもらったら出来たんだよね。
俺のスキルはやはり異常みたいだ。
「と言う感じよ。偽装は一度やっとけば解除するまでその状態だよ。シャルさんは問題なくできてるね。ミュールちゃんは頑張ろう。ケンタさんは何で出来てんの?スキルないのに。」
「ケンタは異常なのよ。スキルはないけど全属性魔法使えるし。」
「魔法使えるの、いいなー。」
「サクラちゃん使いたいの?私の持ってるのでよかったら付与しようか?」
「ほんと?やったー。」
「サクラさん、私の剣術もよければ受け取って下さい。」
「ほんと、うれしい。あなた達っていい人なのね。最初からそう思ってたわ。私の目にくるいはなかったわ。」
「最初、酷い謂れようだったけどな。それで、このコテージ置いてくけど、これでいいのか?もう少しいいもの作れるぞ。」
「これがいいわ。部屋の中で全て完結するのよ。魔力もたっぷり貰ったし、一気に倍ぐらい成長出来るわよ。」
「まあ成長の方は、下層中心にやってくれ。で、人は多く入った方がいいんだな?」
「ええそうよ。魔物をじゃんじゃん討伐して貰って魔力の還流を活発にした方がダンジョンのためにも世界のためにもいいのよ。」
「食べ物は、それでいいのか?」
「問題ないわ。アイテムボックスにたっぷり入ってるし、しばらく地上に出なくても飢え死にしないわ。」
そう、俺のアイテムボックスの中の大量に入っていた日向亭の女将さんにもらったサンドイッチや、その他の食材をかなり分け与えた。
今サクラのアイテムボックスの中には食べ物がぎっしり入っている。
「まあちょくちょく来るしな、何か欲しいものはあるか?」
「魔石」
「了解。」
ちなみにサクラの部屋にも水晶があった。
さらに自分は使わないからと水晶の欠片を2枚貰った。
これで4ヶ所行ける場所が増えた。
「そんじゃ、俺達は帰るな。」
「何か疲れたね、ケンタ。」
「まあ取り敢えず、攻略したってことでよかったんじゃない?」
帰りついた迷宮都市は相変わらずの人出だった。
このうち半分ぐらいはサクラの迷宮の方に移るのかなぁ。
ちなみに、転移項目は、マルク迷宮、サクラ迷宮に変化している。
認識で変化するのか?
まあいいや。