焼き肉弁当
入り口前の小屋に入るとギルマスが何やら決済をしていた。
案内されたしこのままいてもいいんだろう多分。
「お待たせした。いろいろたてこんでおってな。それでいかがでした?ケンタ殿。」
「取り敢えず、地下15階まで探索終了してきました。」
「な、なんとおっしゃいましたかな、地下15階まで終わったと?」
「ええ、取り敢えず。状況から考えて中層の終わりで間違いないと思います。」
「それで今回売って頂くのは何階までの情報でしょうかな?」
「その辺りの交渉は私の方で。取り敢えず地下5階までの分は公開します。こちらの分は先に清算して下さい。地下7階程度まででしたら混乱はないかと思います。それにあちらの迷宮より魔物が若い感じで攻略しやすいと思います。この迷宮を公開すれば中級冒険者もかなり入って来るかと。上層の状況から行くとD級程度の冒険者の訓練場としても使えると思います。大体の魔物の湧き状況も掴んでいますし。」
「最終的に全ての情報は我々のみに売って頂けるので?」
「こちらの条件が満たされている限りは。またさらに下層の探索を依頼されるとしたら、そうですね、こちらにも私たちの拠点が必要になるかと思います。」
「拠点の件は問題ない。ギルドの分もあわせてかなりの広さの土地を譲渡して貰う予定だ。いままで直轄領地とはいえ価値のなかった地域ですからね、いろいろ決まる前に目ぼしい場所を押さえておく予定です。」
「詳しくは後日契約と言うことで、今回の指名依頼は完了と言うことで。」
地下7階までの地図と魔物の情報を渡して代わりに重そうな袋を受け取った。
全てはシャルのお任せだ。
「それでどうします?わしは一旦王国に戻る予定だが、帰るなら同乗しても構わぬが。」
「では一緒に帰ります。ただ疲れているので着くまで休ませて頂きますが。」
「構わんよ。連結して引いて行こう。ああ、もし素材を持っているなら明日にでも買い取りさせてもらいたいが。」
「いいですよ。じゃあ戻ってから出しますね。」
「それは助かる。重量がない分、早く帰れるだろう。」
あー俺達の素材を持って帰るための馬車だったのか。
まあ素材を持って行くより俺たちごと運んだ方が安全ってことか。
まあいいや。
馬車で半日の距離だけどその日の夜には王都に着いた。
昼過ぎに迷宮Bを出て相当ぶっ飛ばしたんじゃない。
寝てたから解らないけど。
着いてすぐギルドで素材の買い取りをして貰って日向亭に着いたのはもう夜も8時ぐらいだった。
「お帰り、なんだか疲れてるみたいだね。ご飯はどうする?」
「食べる、何かある?」
「簡単に作ればあるよ。焼き肉でも作るかい?」
「食べるー。肉はこっちで出そうか?」
「こんなのがありますけどどうですか?」
そう言って出したのは、グレーターウルフの肉だ。
「見たことないけどいい肉だね。よしこいつで焼き肉をしよう。店は今日はしまいだよ。仕込み分これで終わりだからね。」
最後のお客さんが食べ終わるのを待って、家族だけで夕食を食べる。
仕込み分がないとは言え、料理上手が何人も集まってるし、ミュールの剣捌きは冴えてるし、俺はホクホク顔でご飯を炊いてるし、もうウキウキだ。
「ほお、これがご飯かい。固いから炒めるのかと思ったけど、なるほどこうすると柔らかいんだね。」
「出来ればもう少し粒の丸い種類の米が良かったんでうがこれでも問題ないですね。こうして焼いた肉にたれをつけて、ご飯と一緒に食べると・・・。」
「どうしたの、ケンタ?」
「旦那様、どうされました?」
「めっちゃうま。生きてて良かった。おーご飯が進むくん。」
「ケンタ、そんなに?って何これ、おいしい。」
「なんだい、大げさだね、ミミ、明日米を全部運んで貰ってきな。粒の丸いのがあればそれを優先だよ。」
「はい、女将さん、って何ですか、この組み合わせ。」
「はー落ち着いた。それで、この焼き肉を事前にたれに漬け込んでおきます。そうして焼いたものをご飯に乗せてお弁当として売り出します。容器はそのまま使い捨ての物があればいいんですが、なければ、こうしてお皿の上にご飯を乗せてその上に焼き肉を乗せて、周りにちょっとしたサラダ何か乗せてワンプレートで出します。これが焼き肉定食、焼き肉弁当です。」
「なるほど、事前にこっちで肉を焼いて提供すればいいのか。そうすることで客の回転も速くなる。あるいは持ち帰りのメニュにもなりますね。この米がある分、十分に満腹感もでますし。女将さん、こいつはいいアイデアかもしれませんね。」
「ゆっくり食べたい客には焼き肉テーブルで、すぐに済ませたい客にはこうした定食でか。明日試験的にやってみるかね。米は少しはあるんだろう?」
「ええ、十分買ってきてますよ。ケンタさんが持ち帰るだろうと思って。」
「あーありがとうございます。俺の方はまた次でいいですよ。明日の分で使って下さい。」
「悪いねケンタ。そうさせてもらえるかい?」
「それはそうと、ミューリの方はどうですか?」
「ああ、よく頑張ってるよ。仕事の飲み込みが早い子だよ。いい子を買ったね。うちの料理メニューも覚えさせてるからね、期待してていいよ。」
「ありがとうございます。ミューリも大丈夫か?不自由はない?」
「はい大丈夫です。皆さんによくして頂いています。頑張ります。」
「鑑定してみると、スキルはないけど、能力欄でいろいろついてるな。それだけ頑張っているんだろうな。」
いろいろ大変だったけど頑張ったかいがあったなーとかしみじみ思ってたけど、そうは単純ではなかったようだ。
その日シャルの部屋に戻って、シャルに転送を発動して貰った。
現在、迷宮Bの入り口と、地下15階、それとシャルの部屋の3ヶ所が選択できるそうだ。
で、地下15階を選択して飛ぶように念じて貰っても飛べない。
念のため俺がやると問題ない。
入り口や他の場所にも問題なく飛べる。
勿論今までと同じように捕まって飛ぶと飛べる。
ただシャル一人だけだと飛べない。
水晶の指輪は外れない。
俺のも外れないし、そう言うものなんだろうな。
となると何が問題なのか?
水晶を認識できるし、選択項目の選択もできる。
「何かが不足しているんだろうな。それが何なのかが解らないけど。」
「でも仕方ないって言うか当然だと思うよ。多分この指輪は伝説の勇者が嵌めていたようなものなんだよね。誰でもが持てる物じゃないんだし。第一私一人では中層どころか迷宮探索、ううん冒険者にすらなってない。恵まれてはいたけど今でもギルドの受付に座って冒険者の人たちを眺めていたと思う。こうして指輪を嵌めれてるだけで幸せだよ。それにどうせ転移するのはケンタと一緒なんだし問題ないよ。」
「まあ確かに転移は俺と一緒なんだろうけど、何で発動しないのかが気になるなぁ。」
「その内に解明するよ。ケンタだもん。私なんか今では魔術師だよ。私が魔法使えるなんて行ったら、お母さん失神しちゃうよ。」
「そう言えば、隠蔽どうなった?」
「難しいんだよね。でも頑張ってみる。」