新迷宮
現在俺達は非常にまずい状況にある。
さっきまでは順調に地下17階の探索を進めいていた。
基本、地下16階の集団戦みたいな感じでサクサクと進んでいた。
で、何度目かの宝箱を見つけ開けた途端これだ。
定番の宝箱モンスターのミミックとかではなく、最初は1体の魔物だったんだけど、ワラワラと増え続けて戦っても戦っても数が減らないので取り敢えず土壁で通路をふさいで一時休戦中だ。
逃げるのは簡単だけど逃げ帰った後発生した魔物がどうなっているのか不明なんだよな。
しかも現時点で下へ降りる通路は見つかっていない。
つまりこの先の魔物の群れをどうにかしないといけない。
カサカサと魔物の群れの音が聞こえそう。
これで魔物のレベルが高ければレベル上げのチャンスだしラッキーだと思って頑張って倒すけど、俺が見たところLV10。
経験値の足しにもならない。
しかも魔物の名前がブラックコックローチ。
日本で言えばゴキちゃんである。
生命力の塊と揶揄され、1匹見たら100匹はいるといると言われるほどのやつらだ。
見た目もちょっと似ている感じ。
生命値は60しなかない。
ただし魔法抵抗と盾術のダブルスキル持ち。
魔法は効かないし、剣攻撃もごくわずかにの頭部か腹側だとさっくり切れるけど、背部全面を覆っている甲殻部分は綺麗に垂直に切らないと受け流しされる感じでダメージをほとんど与えられない。
そんなわけで小部屋の入り口まで撤退して、入口を土魔法で塞いでいる。
反対側も土魔法で塞いでいるので閉じ込めているけどそれだけだ。
考えてみれば宝箱って言うより古い箱っぽかった。
ここまでサクサク進んでちょっと油断してたかも。
「ケンタどうするの?あんな数だと対処できないよ。どんどん増えてくるし。」
「はい、私の攻撃も何度も弾かれました。」
「あの魔物の鑑定はやってみた?」
「その余裕なかった、ごめんね。」
「いや、取り敢えず、魔法は効きにくいここと、背中側の甲殻が固くて寧ろあれで攻撃をいなしている感じだったから、そう言ったスキルを持っているんだろうな。俺がここにいれば土魔法を維持できるし場合によってはこのまま塞ぐことも可能だけど、問題はこの階の探索がこの小部屋の先からってことだな。俺の油断だ。ごめんな。」
「宝箱って思って開けたの私だし。」
「いや、俺もそう思ったしな。これも迷宮の罠の一つなんだろう。」
そう、この階からは、ところどころに罠があるんだよね。
罠って誰が作ってるんだよって思うけど、それを言ったら迷宮の魔物自体誰が作ってんのだし、迷宮のフィールドなんかも自然発生的に出来ることはないだろうしね。
「手としては、この部屋ごと水没させるってことも考えたけど、水中でも生きられる生物もいるし、それだけの水の圧力に俺の土魔法や迷宮だ耐えられるのか不明だからな。」
「ケンタの範囲魔法でも無理なんだよね?」
「無理みたいだな。さっき一度使ったけど余計に増えた気がする。まずはあの箱を閉じないとダメなのかもしれないな。」
「あの箱?」
「さっきの宝箱みたいなやつ。今は相当に強い魔力の反応が出てる、あれ自体が魔物だったのか、動いてないところを見ると魔物を生み出す様な何かなのか。」
「何か毒の煙みたいなものを流し込むとかは如何でしょうか。」
「多分、殺した分の2倍か3倍ずつ新たに生み出されるんじゃないかと思うんだ。今いるやつを殺しても出てくる場所を塞いでおかないと同じ事だと思う。」
「じゃあ今いる魔物は殺せないってこと?でも中に入ったらこっちを襲ってくるよね。」
「あっちの攻撃力は大したことはなさそうだけどな。それでもかなりの数増えてるからな。このまま放置という訳にもいかないだろうな。」
そう言えば、闇魔法。
グレーターウルフのやつは下位魔法の影魔法だったけど、睡眠魔法を使ってたよな。
魔物相手にも睡眠魔法、いや隷属魔法使えるんじゃないか?
俺の場合、相手の目を見ずに発動できるみたいだし。
小部屋の中の魔物を意識して、闇魔法を発動。
よし服従状態に置けたぞ。
そのまま箱の中に戻してっと、おう成功、成功。
隷属って言うより服従って感じだな正に。
相手の動きをコントロールできるみたいだ。
LV差があるからだろうけど。
「なんか、小部屋の魔物が消えたよね?」
「そうですね、音がしなくなりました。」
「そうだな、部屋の中に攻撃対象がいなくなって罠が元に戻ったのかも。取り敢えず、俺が中には言って確認してくる。」
そう言って、入口の土魔法を解除して中を改めて感知、問題ない。
素早く進んで箱のふたを閉める。
こいつは超ド級に危険だからな、鉱魔法で厳重に封印しておこう。
地図にもしっかり記載しておく必要があるな。
後ろから、シャルの声が掛る。
「ケンタ大丈夫みたい?」
「問題ない。魔物じゃないから殺すことも破壊することもできないから封印した。マップにもきちんと記載しておこう。まあ一度見たら次はミスしないよ。明らかに違うしね。この辺りが不自然に暗かったのはカモフラージュだったんだろうね。」
「よかった、でもあんな罠もあるんだね。」
「だな、どうする、少し休んでから探索始めるか?」
「大丈夫だよ、身体に異常はないし。」
「旦那様、私も大丈夫です。」
その後、注意しながら探索したけどコックローチの罠は他にはなかった。
この階の丁度中間地点辺りだったし、そういうトラップだったんだろうね、きっと。
無事に地下18階への通路を見つけて、入口に転移した。
というのも、家に転移場所を設定しておくより、到達階層に設定しておいた方が攻略が簡単だろうってことになって今日家の水晶の欠片を持ってきたんだよね。
家から迷宮まで5分ぐらいだし、途中ギルド支部に寄っていけるし、しばらくはこのパターンで攻略予定。
入り口に転移してくる前に素材の分別は終わっている。
見たことない素材が多いけど、今回はA級素材を中心に換金してミュールをA級昇格させる予定。
一度に買い取ってもらえる手持ち資金が支部になければ後日A級昇格になるだろうけど。
「済みません、換金お願いします。」
俺が受付で声をかけると、そのまま奥の部屋に通された。
なんだ?この前は担当者が窓口で処理したけど。
「これはケンタ殿、シャル殿、そしてミュールさんでしたかな。ご足労おかけします。」
「えっと何か。」
「いえ、先日はきちんと連絡がいっておらなかったようで、ケンタ殿には失礼があったとか。申し訳ございません。」
「えっと、何かありましたっけ?」
「いえ、担当の者が窓口で買い取り処理をしたと聞きまして。窓口でのやり取りですとケンタ殿が迷宮の下層に潜っていることが周りに知れますので、部屋にお呼びして受け取るように言っておったのですが。」
「ああなるほど、そうですね。先日はこの子の訓練の分でしたので上層の素材がほとんどでしたけど。」
「ええ、そのようですね。いずれにせよ、今後は窓口でお声をかけて頂ければ私かギルドの幹部が対応することになりました。」
「先日の担当の方は。」
「彼女は新しい迷宮が出現しましたので、そちらの方の第二支部所属になります。そのための研修で本部に戻っております。勿論、副支部長待遇ですし栄転です。それに鑑定スキルはあちらでも必要になりますので。そこで、シャル殿、正式に当ギルドと契約を結んで頂ければと思いまして、いかがでしょうか?」
「私ですか?契約というと?」
「はい、臨時職員として時々鑑定をして頂くと言うものです。勿論鑑定が難しい物は本部職員で対応する予定ですが、お手すきの際に鑑定をお願いできないかと思いまして。」
「それなら契約ではなく、その度に指名依頼という形では如何でしょうか?俺もシャルもこの先下層深くに潜ります。当然行き帰りだけでも日数がかかりますし不在がちになるかもしれません。」
「そうですね。おっしゃる通りケンタ殿達の行動を束縛しては本末転倒です。承知しました、その都度指名依頼という形でお願いします。それで本日は買い取りでしたか?」
「はい、取り敢えず、ミュールの分としてこれだけあるんですが如何でしょうか、一度に処理できますか?」
「勿論です、ありがとうございます。資金は十分に準備しております。少しお待ち下さい。」
そう言って、スタッフを呼んで素材の状態を確認、全て運び出して清算してくれた。ミュールは無事A級に昇格だ。
「それで、新しい迷宮ですか?」
「そうなんです。今本部でもその対応に追われています。アミスラン王国が自分達の迷宮だと主張しているのは全て、隣国との緩衝地帯。いままで明確な国境線が決められていなかった土地に出現したのを半ば無理やりに自分達のものであると主張したんですけどね。元々人が入らなかった場所。そこに行くまでにかなりの魔物が出ると言うことですから前から出現していたのを見つけて改めて大規模な調査隊を送り出し見つけた迷宮ですが、今回の迷宮は違います。我々の国土内の鉱山の中に出現したようです。地元の鉱山都市は鉱山奴隷の移動を始めておるそうです。国王直轄地でしたからね。開発もスムーズに進むと思います。今回の迷宮出現は、ケンタ殿がこの迷宮の中層を突破したことが原因ではないかというのが専らな噂です。正にケンタ殿はマルク王国の隠れた英雄です。」
「はあ、まあそれはどうかと思いますが。えっと、迷宮はどこに出現したんですか?」
「王都から、こことは反対側になりますが馬車で半日ほど先の鉱山です。マルク王国の鉱山の一つですが街の名前はありません。」
「そこの探索は可能なのでしょうか?」
「勿論、ケンタ殿のパーティーでしたら王宮の方から喜んで依頼を出すと思います。詳しい探索はまだですが、大切な資源ですからな。」
「こちらの探索もしたいんですけど、新しい迷宮にも興味がありますね。」
「迷宮は放置しておくと中から魔物が溢れだすと言われておりますし、いずれにせよ早い段階で探索が始まると思います。尤もこの情報はまだごく一部の者しか知らされておりません。他国との兼ね合いもありますし、本当に迷宮なのかも不明ですからね。しかし先行調査隊の簡易調査では間違いないそうです。構造的にはこの迷宮と似ていて出現する魔物は数は多いけど上層に出現する魔物だと言うことです。」
「解りました。そちらの方も探索を視野に入れておきます。」
「誠ですか。当支部としては痛しかゆしの部分はありますが、マルク王国としてはあちらの探索にケンタ殿のパーティーが加わって頂けると大変ありがたいです。是非前向きに検討して下さい。」
その後、ギルドを出て鍛冶屋の親父さんの所に行ってみた。
「おう、来たな。さて、こいつだ。どうだ。」
俺の顔を見るなり自信満々に一本のロングソードを取り出した。
鑑定してみると、
名前 天元の剣
用途 攻撃
攻撃力 1050
耐久値 198950
成分 アダマンタイト80%、ミスリル20%、岩トカゲの目玉の粉
制作者 ドルグ
名前 アダマント合金のナイフ
用途 攻撃
攻撃力 650
耐久値 155550
成分 アダマンタイト80%、ミスリル20%、岩トカゲの目玉の粉
制作者 ドルグ
「ついでにナイフも作って置いたぜ。どうだい、お譲ちゃん振れるかい?」
ミュールが剣を受け取って素振りをしてみる。
「重厚なのに軽いです。片手でも両手でも振れます。素晴らしい剣です。」
「おう、まあ国宝指定されてもいいぐらいだぜ、わはは。」
「この剣には銘があるんですか?」
「うん、こいつを打ってる時に浮かんだ名前があるんだが、天元の剣と名付けた。ダメだったか?」
「いえ、いい銘だと思います。天元の剣ですか。」
「まあ銘持ちの武器は職人にとっては何よりの名誉だからな。本当は所有者が付けるんだろうけどよ。」
「俺のこの剣にも銘はあるんですか?」
「いや、そいつはお前さんがつけてくれ。ほう、いい感じに魔力がのってきてるな。手入れもしっかりしているようだしな。俺が手入れする必要はないな。」
「では、蒼龍剣でいいですか?」
「蒼龍剣か。いいな。おお、この後の成長が楽しみだな。」
「じゃあ、私のは、蒼双剣でいい?」
「おっ、お譲ちゃんの剣もいい感じで魔力がのってきてるじゃないか。銘持ちの武器が一気に増えてありがたいことだぜ。」
「ところで、親父さんは、杖というか杖と近接武器を合わせた様な武器を打ったことありますか?」
「なんだ?魔法使いでも仲間にするのかい?」
「えっと彼女が、魔法を少し使えるので。」
「ほうそうかい。軽剣使いかと思ったが、確かに魔力が上がってる感じだな。すると魔法剣士かい?」
「まあそうだな、A級ランクの魔石があれば、作れねえことはないけどな。槍と杖を合わせた感じだが、この余ったアダマンタイト合金で出来ねえこともないか。」
「魔石はこれを使えますか?あと、他に必要な物はないです?」
「こいつは、凄いな。大きさといい、純度といい申し分ないぞ。流石A級冒険者ってところか。よし来た。そんじゃ、俺に任せてくんな。ただし剣と違ってちと時間はかかるが、いいものを作ってやる。」
その後、家に戻って夕食を食べながら今後のことを話し合った。
「まず、どうする?新しい迷宮の探索、かなり興味があるんだけど。」
「うん、まあこっちの迷宮も同時進行で行けなくはないけどね。」
「転送場所が2ヶ所しか追加できないのが痛いわね。」
「奥様、転送できるだけで凄いことかと。」
「まあ、2人の言うのは両方ともその通りだけどな。ただ、多分だけど新しい迷宮へは一度馬車なりで行けば次からは飛べるようになると思うんだよな。」
「えっ?どういうこと?」
「シャル達には、この水晶の欠片とか見えないんだろう?多分、この水晶って元からいろんな迷宮とかにあるんじゃないのかな、見えないだけで。迷宮の入り口の小部屋も俺達にとっては必要な部屋だけど、普通のやつにはなんであそこに小部屋があるのか意味がわからないだろう?そう言う部屋が新しい迷宮にもあれば俺には見えると思う。多分」
「いずれにしろ、明日にでも行ってみないか?今から王都に戻ってギルド本部に行けばギルマスに会えるだろうし、上手く行ったら調査依頼受けられるかもしれないし。」
「そうだね、ダメでも迷宮の入り口に行くだけなら自分達で行けるし、明日一日無駄になるかもだけど行こうか。」
それで、一旦、装備をつけなおして、まずは日向亭のシャルの部屋に飛んで女将さん達に見つからないようにギルド本部に行って、ギルマスに会って、運よく明日ギルド職員が出かけるのに同乗させて貰えることになった。
と言うか、正式に指名依頼を受けて迷宮の探索を行うことになった。
「ただいま。」
「おやまあ、また帰ってきたのかい。一日で往復できるって言ってもね、大変じゃないかい。あんたがケンタに無理言って帰ってきてるんじゃないかい。」
「そんなことないわよ。今回は仕事よ、仕事。明日、鉱山都市の方に行くのよ。」
「鉱山都市?鉱石掘りでも頼まれたのかい?」
「まあそんなところ。それで今日はお店は終わりなの?」
「仕込んだ分、全部出しちゃったからね。最近は昼間から焼き肉のお客が多くてね。他の料理はほとんど出ないんだよ。シチューしかないけど食べるかい?」
「食べてきたから大丈夫。ケンタに保存して貰っとく?」
「ああそうだね、お願いできるかい?明日、明後日に売れなければ処分しようかと思ってたんだよ。」
「でも、これはこれでいいじゃないですか。お肉なんかとろとろに煮込まれて。」
「まあそうだけどさ。シチューの肉って言うのは、ガツンと食べ応えがなくっちゃね。」
「これはこれでボルシチみたいでいいですけどね。デミグラスソースにも使えそうだし。」
「何だい?また新しい料理かい?」
「お母さん、今は焼き肉でしょう。それだけで繁盛してよかったじゃない。」
「焼き肉テーブルとかもいい感じだよ。この際、焼き肉専門店に改装しようかね。」
「夜のお酒は?」
「しばらくはやるけどね、夜はやらなくても焼き肉だけで十分稼げてるからね。」
「これに米があったら最高ですけどね。」
「米?米ってあの固い米かい?南国で栽培されてるらしいけど。」
「米あるんですか?」
「米ぐらいあるさね。王都にも米の料理、何と言ったかパエリアだったか、そう言うの出してる店もあるよ。」
「マジですか。」
「なんだい、米が食べたかったのかい?今度買っておいてやるよ。」
「ありがとうございます。米があるんですね。焼肉定食とかできそうですね。」
「焼き肉定食?米があれば焼き肉が進化できるのかい?」
「進化と言うか、お昼に出すにはいいメニューになると思いますよ。」
「そうかい。じゃあ早速明日にでも仕入れとくかね。鉱山都市からはいつ戻るんだい?」
「あー。一日か二日?」
「よしじゃあ、ケンタが戻ってから再度、新メニューの試食会だよ。」
「って何、お母さん勝手に決めてんのよ。私達これでも忙しいんだけど。」
「何言ってるんだい。冒険者なんだから自由だろう?勤め人じゃないんだから、ねえケンタ。」
「はあ。」
「ほれごらん。ケンタも賛同してくれたじゃないか。さあさあ。じゃあ子供はお風呂に入って早く寝な。」
その日は、迷宮都市の家には水晶の欠片を置いてなかったので、そのままシャルの部屋で寝た。
大人しく。
女将さんが戻ってくる前に済ませてたしセーフ。