学者
お昼を過ぎていたし、王都に来た目的の一つであるフラウさんの魔道具屋に行くことにした。
お腹はあんまり空いてないとのことなので、お昼は抜きだ。
さっきアイテムボックスからサンドイッチを出して皆で頬ばってたしね、まあお腹は空いてないか。
「いらっしゃい。何?また戻ってきての?」
「またって何よ、折角来てあげたのに。」
「だって、最近忙しいのよ。ドライヤーの作成がね。風魔法と火魔法の兼ね合いがねー。」
「火魔法は最小のものを発動させて、風魔法の威力を段階的にすればいいんじゃないですか?火魔法の調整の方が難しいですよね?」
「ケンタさんよくわかってるね。そうなのよ。火魔魔法って威力の調整がね。」
「火魔法自体で金属を加熱しといて、加熱された金属の熱を風魔法で一方向に飛ばすとかでもいいんじゃないですか?」
「おお、そのアイデア頂きだよ、ケンタさん。同じ要領で焼き肉テーブルも作ればいいか?」
「いいんじゃないですか?尤も焼き肉テーブルの方は、火魔法は一定の熱を作ってその上に炭を乗せていく感じでもいいと思いますよ。お客さんが入れ替わるごとに炭と網を交換すればいいんでしょうし。」
「なるほど、そう言う発想もあるか。いいね。うんいいよ。一気に制作の道が開けたよ。」
「ってケンタ今日来た用事はそれじゃないでしょう?」
「そうだった。あのフランさん、俺に魔法を教えて欲しいんですけど。」
「えっ?ケンタさんスキルホルダーなの?って言うか、私魔法のスキルとか持ってないし教えるって出来ないよ。」
「ああ、魔法そのものを指導して貰いたいのではなく、魔法についての一般的なこと。例えば魔法の属性、種類、初級、中級魔法などのこと、上位魔法のこと、魔法陣や、それ以外の魔法のことなど、要するに魔法に関することを勉強したくて、そういった方面のお勧めの本とか、お勧めのものとかあればと思いまして。」
「何か漠然としてるねー。って後ろの女の子は誰?新たなライバル?シャルどういうことよ、私の方が先でしょう?あんたに第一夫人は譲ったんだから第二夫人は私でしょ。」
「何言ってんのよ。この子はミュール。今日ケンタが購入した奴隷よ。一緒に迷宮に潜るの。」
「何?シャルが同意したってことはその子も?」
「まだ本人には言ってないけどね。それで、どうなの?何かお勧めの本とかあるの?」
「お勧めって言ってもね。私は魔道具を作るのが専門であって、魔法師じゃないからね。私のスキルのことは?」
「勿論言ってないわよ。言っても説明できないし、第一、フランとケンタって何かの契約を結んでる訳じゃないから他人でしょ。」
「な、強気な発言。それにケンタって呼び捨てだし。ははーん。そう言うことか。なるほどそう言うことになったのねあなた達。」
「何よそう言うことって。」
「そう言うことはそう言うことよ。シャルも大人になったってことよ。」
「成人は来年だけど。」
「まあいいわ。ケンタさん、次は私だからね。予約だよ。超予約。ねっ、約束してね。」
「予約って、フランさんみたいに綺麗な女性なら、より取りみどりでしょう?」
「ダメダメ。私の中にビビーっと来るのは今の所、ケンタさんだけだし、ねっ、次予約。」
「はあ、俺でよければこちらこそよろしくお願いします。」
「ねえ、ケンタ、何の予約?」
「大人になる予約?」
「何それ、まあフランの方が私より数ヶ月後に成人するけど、なんでケンタに予約するの?」
「うーん、流れで?」
「まあいいわ。フランなら一緒に暮らしても問題ないし。」
「よっしゃ、シャルの了解ゲット。じゃあそれまではシャルだけで我慢しててね、ケンタ。」
「何で、フランまでケンタのこと呼び捨てなのよ。」
「えっ?だって婚約したし、第二夫人になる。」
「な、まあいいわ。フランなら問題なし。話が脱線してるけど、それでどうなの?」
「そうそう、これで私とケンタは婚約者で他人じゃないし、私のことを知って貰ってもいいでしょ。」
「別にそんなことしなくても、自分で教えたければ教えればいいじゃない。」
「そこはあれよ、ノリよ。」
「はー解ったわ。それで話を続けて頂戴。」
「で、私のスキルって、学者ってスキルなのよ。でこのスキルの詳細は分からない。スキルホルダーではあるんだけど、特に魔法が使える訳でもなく、武力に優れている訳でもない。生産職系に秀でた才能がある訳でもないっと。尤も、自分でこのスキルを持っているのに気付いたのは、シャルのお陰なんだけどね。自分ではいろんなことに興味を持って、いろんなことを知りたがる興味心旺盛な子供だった訳。魔道具屋を始めたのも半分はシャルの勧めだしね。」
「なるほど、学者ですか。それでいろんなことに造詣が深い訳だ。」
「えっ?ケンタ、学者スキルのこと知ってるの?」
「何?ケンタってば実は、凄い人?」
「ケンタが凄いのは、フランも知ってるでしょう、それよりスキルのことよ。」
「そうだった、スキルのことだった。知ってること教えて、ケンタ。」
「スキル自体を知ってる訳じゃないよ。ただ学者って言葉から推察しただけで。」
「学者って何?何かの職業?でもないか、師がついてないし。」
「学者って言うのは、一言で言えばある学問を専門的に研究している専門職ってところかな。一つの事柄について深く物事を考え、知識を蓄え、応用する。つまり一つの分野が発展するためにとても重要な役割を果たす人だよ。」
「よくわからないけど、つまりは世の中の役に立つ職業ってこと?」
「まあ学者そのもので収益を得るってことはできないけどで。学問で得た知識を応用して、役立つものを作ったり、人に指導したりして収入を得ることが出来る。」
「じゃあ今やってる魔道具屋も学者スキルには役立ってるの?」
「フランさんがどの方面の知識や学問に造詣が深いか分からないけど、出来上がった魔道具を見る限り、魔法関係の知識に造詣が深いと思うし、そう言う意味では魔道具作成と言うのはいい職だと思いますよ。ただし、学者の多くはその知識が最先端的すぎて、物を作ったり知識を世の中に発表したりした時点では奇抜すぎて受け入れられない場合が多いですけどね。」
「なるほど、それで私の魔道具があんまり売れないんだね。」
「フランの場合は、趣味に走り過ぎてんのよ。もう少し皆が使いやすいものを作ればいいのに。」
「そんなの面白くなーい。」
「それで、魔法について教えて貰う件は?」
「そうだったわ、ケンタごめんね、脱線ばっかりしてる。魔法の知識ね。と言っても私が知ってるのは概略的なことだけだよ、魔法陣については少し詳しいけど。
えっと、まず魔法には、属性魔法、魔法陣魔法、付加魔法、召喚魔法、古代魔法の5つがあるのは知っている?」
「いいえ全然。」
「まあそうよね。付加魔法、召喚魔法、古代魔法は失われた魔法と言われてるし。
じゃあ簡単に説明するね。属性魔法は全部で6つ。通常は光、火、水、風、土の5つで全属性と言われてるんだけど、ここに影魔法が加わって6属性が基本魔法なの。」
「影魔法とか聞いたことないよ、私。」
「それはそうよ。影魔法も失われた魔法と言われてて、今ではその中の隷属魔法のみがあるだけだしね。奴隷契約に使ってるでしょう?それが影魔法の中の一つ。尤もこれを発動できる人はいないしスキルも発見されていない。あるのは隷属魔法の魔法陣だけよ。この魔法陣は血の契約としていろんな場面で使われているわよ、シャルもいくつか血の契約してるでしょう?」
「なるほど、それが影魔法か。納得した。」
「で、属性魔法は、それぞれが、聖、炎、氷、嵐、鉱、闇の6つの上位魔法があるの。ただしこのうち確認されているのは炎魔法だけね。あとの上位魔法は伝説として残っているこれも失われた魔法と言うことになるわね。」
「属性魔法は、それぞれのスキルを持った人しか発動できないし通常は一人に付き一つの属性のみ。ただし極まれに2属性の魔法。記録に残っている範囲では3属性の魔法スキルを持っていた魔術師と呼ばれる人がいたみたい。つまり本来魔法とは魔法スキルを持ったスキルホルダーのみが使えた能力だった訳ね。」
「なるほど、よくわかったわ。じゃあ全属性じゃない、5属性使えるってことは普通はないのね?」
「もう話聞いてた。この大陸中の記録に残っているだけで最高3属性までなの。5属性とかありえないでしょ。」
シャル、そんなキラキラ目で俺を見ないで。
「で、話を続けると本来魔法の恩恵は魔法スキルを持った人だけだったんだけど、魔法陣による魔法の発動が出来ることがわかったの。魔法陣がどのようにして作られたのか、誰が作ったのかは解らないけど、古代文字の魔法書を少しずつ解読して各属性の魔法陣が伝えられ今もその魔法陣が伝えられてるって訳。で私達魔道具職人が魔法陣を様々なものに転写し、道具として使えるようにしているのよ。結局魔道具屋は、鍛冶師や料理師みたいに新しいものを作りだしてる訳じゃないから、鍛冶や料理といったスキルはないけどね。その代わり手先が器用な人なら誰でも魔道具の作成が出来るし、魔物と戦う力がある人は冒険者、計算や記憶力、交渉事などの才能がある人は商人、他の生産職のスキルはないけど手先が器用な人は魔道具屋と、まあ誰にでもなれる職業の一角を担っているって訳だけどね。」
「ちなみに、魔道具につかう魔法陣と言うのは公開されているんですか?」
「基本的な魔法陣は公開されてるよ。ほらこの本みたいに各属性ごとに分かれてるし。と言っても正確に解っているのはごく少数だけどね。古代文字が難しいし、正確に書き写したようでも、魔法陣が発動しない物もあるし、第一何の魔法陣か分からないからそこまで詳しく調べている人はほとんどいないだろうけど。」
「もしよかったらその本見せて貰っていいですか?」
「いいよ。まあ基本的な物しか乗ってないけどね。ただ魔法陣はある意味未知だし危険なものだからね。効果が解っているもの以外は基本禁書扱いだから、見れないよ。マルク王国程度の国ならその禁書自体ないと思うけど。」
俺は、フランさんから本を借りで魔法陣を確認する。
本にはフラウさんの書き込みがされているんだけど、例えば火魔法の、火球の所には「火力小」、火壁の所には「火力大」とかこの世界の言葉で書き込みされている。
で問題は各項目の「火球」や「火壁」の部分。
文字は崩れているんだけど、これって漢字だよなー随分崩れているけど。
自動翻訳で文字の上に日本語表記されるけど、元の文字自体読める気がする。
そして何より、魔法陣に並んでいる文字が漢字だよなー。
あれだな印鑑の実印等を作る時に指定する様な古印体とか言う漢字の文字だ。
待て待て、この周囲の文字何か文章になってるぞ、これって呪文になってるのか?
魔法陣を解明すると呪文とか解明できるのか?
まあそっちはボチボチやっていくか。
「なんか食い付きがいいね、ケンタ。こういう魔法陣に興味があるの?」
「いえ、フランさんの書き込みが面白いので。」
「あっ、そっちに食いついてるの?もう恥ずかしい。」
「それでこう言った本はどこで販売されているんでしょうか?」
「図書館で写本して貰うんだよ。基本的な本は写本されてるからすぐに購入できるよ。」
「そうなんですね、じゃあ後で図書館に行ってみます。」
「それで魔法の説明続ける?」
「あっ、お願いします。」
「えっと、付加魔法のことからね。付加魔法は失われた魔法とされているんだけど、この存在は、付加魔法が施されたアイテムがいくつか残っているからなの。今分かっているのは、アイテムボックスの強化版である「マジックバッグ」、魔法の効果が強力になる「精霊の杖」、S級冒険者が持っていたとされる迷宮に転移出来る「蒼光の指輪」、同じくS級冒険者が使っていたとされる折れず、錆もせず、使う者の剣のスピードが倍になる「疾風の剣」。有名なところではこんなところね。アイテム自体は何人もの鑑定によって普通の材質だと判明しているのよ。ただし、その効果が凄いの。それで何らかの魔法が付加されていると考えられてるのよ。」
「マジッグバッグってやっぱり凄いの?」
「それはそうよ。容量、個数制限なしでものが持てるのよ。すごいことよ。ただしもの自体はただのバッグだから、それを持ち逃げされると中身も全部奪われちゃうからね。便利だけど使うのが難しいアイテムなのよ。それでも帝国の国宝よ。価値は天文学的ね。」
「そんなに凄いんだ。ふーん。」
いやだから、シャル、そんなキラキラ光線出さないで。
「あとの召喚魔法と古代魔法は失われた魔法と言われてたんだけど、召喚魔法はアミラス王国がその禁を破って使ったみたいね。召喚魔法は世界に穴を開け、世界のバランスを崩すと言うことで禁呪指定されていた魔法なんだけどね。尤も今まで帝国を含めてこっそりやってきたと思うわよ、特に正教会教皇国なんて本来こう言うことにすぐに噛みつくけど何も言わないし。もしかしたらすでにやってたりしてね。まああそこはいろんなこと秘密主義だしね。」
「召喚者か。どんな人たち何だろうね?確か迷宮で訓練してるんだよね?」
「みたいだね。私たちと変わらない年頃の人族って話だよ。」
「そうなんだ、人族なんだ。アミラス王国だと獣人族や妖精族だと厳しいからね、召喚されたのが人族でよかったんじゃない?」
「その辺りはどうなんだろうね。まあともかく、残りの魔法は古代魔法。これは記録として残っている訳じゃないんだよね。あくまでお伽噺って感じだけどね。時間を止めたり、空を飛んだりとかそんなことありえないって感じだよね。でも子供の空想だとしてもそう言う魔法があってもいいなぁって思うよ。」
「うん、勇者物語でしょう?魔王と戦うために旅をする4人の勇者。私も小さい頃何度も聞かせて貰ったよ。」
「あっ、兎族でも語り部のお婆さんがいろんな話をしてくれます。兎族では、勇者の一行の従者であった「月の兎」が勇者より人気です。」
「そうなんだ。そう言えば月の兎は、私たちの知っている物語にも出てくるわ。勇者の子を身ごもるんだよね。」
「そうです。今の兎族は勇者の子孫ってことになっています。お伽噺ですが・・・。」
「何か有名な話なの、その勇者物語って?」
「「「知らない(んですか)の?」」」
「はー、ケンタってば本当に常識がないよね。小さい頃聞いたことないの?」
「うーん似たような話はいろいろ聞いたと言うか、プレーしたと言うか。」
「まあ場所によっていろいろアレンジがあるみたいだしね。竜人族にしてみたら勇者は竜人族で自分達は竜族の子孫ってことになってるし。妖精族も似た感じだよ。」
「まあと言う感じでざっと説明したけど、少しは役に立った?」
「勿論です。勉強になりました。フランさんにお尋ねしてよかったです。」
「それじゃあ、私はドライヤーと焼き肉テーブル、換気扇の制作に入るね。」
「うん、忙しいところごめんねフラン。」
「問題ないよ、私とケンタの仲だし。」
「何よ、私とフランの仲でしょう。もう。」