アイテムボックススキル
王様が退出すると、潮が引くみたいにこの部屋に充満していた気配が緩んだ感じだ。まだ片膝をついている生徒達に向かって、
「おい君達なんで片膝とか付いてるんだ?」
って聞いたら、
「先生、先生はさっきの力みたいなの感じなかったの?何か急に王様に逆らったらいけない感じがして。」
「そうだよ、強制されたって言うか、身体を抑えられたって言うか。」
「まあまあ、召喚勇者の皆さま、おそらく我王の王威を感じられたのでございましょう。さあさあ、皆様もお疲れでしょうから、お部屋にご案内します。」
気が付くと、俺達の周りにメイドさんと執事さんが大勢集まってきていた。生徒一人に一人ずつ担当が付くようだ。生徒も急に美少女、美男子のメイド、執事が現れて恭しくしてくれてるから、みんな熱に浮かされたみたいに連れられて出ていった。ん?俺は?俺にはいないのメイドさん。出来れば猫耳でよろしくーとか心の叫びは無視されて、閣下と呼ばれていたおじさんと、ガタイの大きな騎士2人に挟まれて、生徒達とは違う方向に連れられて、事務所みたいな20畳ほどの部屋に案内された。執務室っぽい。
「えっと、これはどう言うことでしょうか?」
「えっと、お名前はケンタ様でよかったでしょうか。」
なんか投げやりな感じで問いかけられてきた。
「その通りです。えっと、あなた方は私たちのステイタスを見ることができるようですね。」
「そうです。鑑定のスキルを持った者によって、皆さんのスキルを確認させて頂きました。さて、今回は私たちの召喚魔術によって皆さんを召喚した訳ですが、どう言う訳かケンタ様だけがスキルをお持ちでないようです。誠に残念ですが、スキルホルダーでない方を長年かけて訓練することはできません。」
なるほど、固有スキルと言うのは、鑑定スキルでは見えないようだな。
「すると、俺はこのまま放置されるので?」
「勿論、こちらの都合で無理やりこの地へ召喚したのですから、少しばかりの保証はさせて頂きますが、他の召喚者の方の様に王宮での訓練や生活の保障などは出来かねます。」
「ちなみに、王様のスキルって凄いですよね。」
「ほう、気がつかれましたか。ケンタ様だけが、他の召喚者の方よりも年上でしたし、リーダーなのかと思っていましたが、やはりそうでしたか。おっしゃる通り、王のスキルの隷属スキルはすばらしいものがあります。尤も定期的に隷属契約をしていないと薄れてしまうのですが。」
「なるほど、それで俺はすぐに王宮を出ていかないといけないので?」
「金貨5枚をご用意しましょう。通常の家族であれば優に1年は暮らしていける額になります。1年ほど時間があれば、この地で新しいことを始めることもできましょう。」
「ありがとうございます。あと、この世界に初めて召喚されて来たので、この世界のことを教えて頂いてもいいでしょうか?ちなみに地図などは頂けるんでしょうか?」
「地図ですか?勿論、市中の本屋へ行けば自由に手に入ると思いますが。」
そう言って、何もない空間から、金貨5枚と地図を取り出した。
俺がそれを見てびっくりしていると、
「ああ、ご心配なく。この地図は軍事地図ではありませんよ。偶々出現した迷宮の位置を確認する時に報告として貰っていたものです。こちらをお渡ししましょう。」
いや、俺がびっくりしたのはそこじゃなくて、アイテムボックスの方なんだけど。地図を広げてこの世界のことを教えてくれてるので大人しく聞いていた、そしてさり気なく、
「そう言えば、閣下もアイテムボックスをお使いになられるんですね?」
「あー、ケンタ様の世界にはこう言うのもなかったんですね。ステイタスもなかった御様子ですし。」
「そうなんですよ、ステイタスやらスキルと言うものもありませんでした。」
「なるほど、それはある意味平等ではあるけど、不便な世界だったのですね。あーアイテムボックスですね。これは、この世界の住人なら誰でも使えます。心の中でボックスオープンと唱えると見えると思います。インとアウトで取り出しできますよ。」
言われたように、金貨を5枚入れてみた。すると確かに頭の中に入れてたものが浮かんでくる。
「あー、お金はバラバラに入れると個別にカウントされますからね。すぐに財布を購入されるといいでしょう。そしたらアイテム数1とカウントされますから。」
「えっと、制限があるんですか?」
「保持できるアイテム数は5個までです。同じ種類でもまとめてないと1個とカウントされます。ただ体積は自分の身体と同じ大きさまでですからあんまり大きなものは入れない方がいいでしょう。取り出す時にも大変ですし。通常は、お金や武器などを入れている人が多いでしょうな。尤も死んだ場合にはアイテムボックスの中身が出てきますからな、重要なものを持って周るかどうかは難しいところです。」
「ご丁寧にありがとうございます。あとこの世界では常識と言うか、当たり前な能力などはないでしょうか?」
「そうですね。この世界には、人族以外がいると言うことはご存知ですか?」
「えっと、元の世界には知的生命体は人族だけで、後は野生の動物や飼育された動物がいたくらいなんですが。」
「なんと、そのような安定した世界が、人族が世界を制したということでしょうか?」
「その辺りは分かりません。少なくとも俺のいた国は人族だけで形成されていました。」
「そうですか。こちらガイア大陸には、大きく5つの種族があり、それぞれが国を持っています。人族、獣人族、妖精族、竜族、魔族です。尤も国としてきちんと領土を持っているのは人族のみです。一番大きいのは我アミラス王国。続いてガルグ帝国。正教会教皇国がガイア大陸の大部分を占めています。中央の龍山脈を隔てて魔族の国があると言われていますが、あの山脈を越えて戻った者はいません、龍山脈は竜族が守護していますので。」
さらにいろいろ突っ込んだ話も聞きたかったけど、そうすると召喚魔術を使った暗部まで聞くことになりそうだし、この辺りで出ていくことにした。」
「いろいろありがとうございました。俺自身この世界でどうやって生活できるか不安もありますけど、いろいろ頑張ってみます。」
「もっと非難されるかと思っていましたが、ケンタ様が冷静な方でよかったです。なかなかお会いする機会もないと思いますが、お元気で御過ごし下さい。」
あーもう来るなってことだね。了解了解。来ることはないよ、多分。