迷宮地下7階
「おっつ、やっと来たな。剣はできてるぞ。」
鍛冶師の工房に行くと、ドワーフ族の親父さんが出迎えてくれた。
「どうだい?なかなかの出来だと思うけどな。」
「はい、素晴らしいです。しっとり馴染みます。」
「私の方も、初めてなのに手に馴染むと言うか、振りが楽です。」
「まあミスリルって言うのは魔力活性が高い鉱物だからな。周囲の魔力を上手く操れば多少の魔物なら抵抗なく切れる。手入れは水で汚れを落とす程度で構わない。鉄鋼剣みたいに油が残って刃を痛めることもないし迷宮探索にはいい剣だ。」
「はい、ありがとうございます。この剣に負けないように頑張ります。」
「まあC級冒険者にはチト高価な剣だけどな。B級、A級の上級冒険者になっても十分使える剣だ。」
「あっ、お陰さまで、俺達2人ともB級に昇格しました。」
「何?B級だぁ。その若さでB級とかどんだけ凄いスキルホルダーなんだよ。それじゃあ、専属契約もできるな。まあその剣を気に入ってもらえるなら専属契約結んでくれ。素材提供して貰う代わりに、武器の作成、メンテ全ての責任をもつからよ。」
「ありがとうございます。今日からしばらく迷宮に潜りますので、その後縁があればよろしくお願いします。」
「おう、それでいい。専属契約しなくてもまたいい素材があったら売ってくれや。その剣につかったミスリルのインゴットやはり最高の純度だったぜ。全くいいもの見させてもらった。ありがとよ。」
その後、武器を買えて迷宮に向かった。
シャルは双剣なので腰にクロスして差してるけど、俺の場合には片手剣だからな。
2つ差すことはできないので新しいミスリル剣だけ差してる。
戦う時には二刀流になりそうだけどね。
ちなみにミスリルのナイフは腰の後ろにさしてる。
これでマントとか羽織ったらカッコいいだろうなーとか言ったら、シャルに剣士タイプでマントとかあり得ないとかダメ出しされた。
確かにマントとかしてたら動きにくそうだな。
あれは後衛の魔法使い用だなって言ったら、そんな変な格好をした魔法師はいないと言われた。
なるほど、この世界ではマントは雨具の一種みたいだ。
サクサク進んで地下7階にまでやってきた。
地下6階の岩トカゲやアースゴーレムもミスリル剣のお陰か、バターを切るように、スーッと切れる。
それはシャルの剣でも同じだ。
固いと思われていた岩トカゲの甲殻ですら十分に刃が通るようだ。
効率よく屠るならやはり腹側がいいみたいだけど。
ワイルドウルフにしても両断できるほどの切れ味。
かなり強引な戦闘スタイルだけど、終わった後に初級回復ポーションをいくらでも飲めるので常に体力満タンだ。
最初は遠慮してたシャルも初級回復ポーション在庫がとんでもなくあると感じたようで遠慮がなくなった。
休んで食事とかとれば体力は回復するみたいだけど、スピード重視でどんどん討伐する場合には、討伐で得られる素材とか考えた場合飲む方が効率がいいと考えてくれたようだ。
「えっと、今が15時ぐらい?どうします?このまま7階に降りるの?」
「7階もここと同じような構造なんだよね?」
「地下7階からは途中までしか地図が出来てないけどその範囲なら同じみたい。でも出てくる魔物が魔法を使いだすのと、集団戦が多いからかなり大変そうだけど。」
「今後のことを考えると安全な拠点になる場所を確保しておく必要があると思う。」
「迷宮の中で安全な場所ってないんじゃない?」
「まあそうなんだけど、こみたいに岩が多い場所なら洞窟を掘って中にベースを作るってこともできる。勿論それで完全に安全ってことはないけど。」
「まあ入り口を工夫すれば何とかなるのかな。幸い小型の魔物はいないみたいだし。」
「一番怖いのは、同じ冒険者だからね。魔物相手なら何とか安全は確保できると思う。」
「じゃあ、地下7階以降に作った方が安全なのね。確か地下7階はA級冒険者が探索した以降は誰も入ってないらしいし。」
「うん。そう言う訳でこのまま地下7階へ進みたいと思ってる。」
「了解。って言うか探索の判断はケンタにお任せだよ。私一人だとここまで進めないし。」
「そんなことはないけど、じゃあ、7階を中心に探索しよう。まずは7階のマップ完成だね。」
地下7階は、基本地下6階と同じなんだけど、木が生えていた。
迷宮の中に木?光合成は?水は?などなど疑問はたくさんあったけど、シャルは普通に受け入れてるみたいだ。
まあ迷宮だけじゃなく、この世界そのものがファンタジーだけどね。
出てくる魔物は、岩トカゲ、アースゴーレム、アイアンゴーレム、シルバーゴーレム、ワイルドウルフ、シルバーウルフ。その内シルバーウルフから風魔法スキルを、シルバーゴーレムから土魔法を習得できた。
尤もシルバーゴーレムの解体で出てきた銀塊は、100%銀で銀鉱石の価値どころじゃないらしいけど。
危うくアイテムボックスから取り出そうとして止めた。
その前にアイアンゴーレムから得ていた鉄塊と同じ大きの塊だとしたら、それだけで貴族の御屋敷が建つほどだと聞いたからだ。
まあ直径50㎝ぐらいある塊だからね、確かに。
その後、どうせ掘るならミスリルでも見つけられる場所がいいだろうって思って魔力感知で反応が大きな場所を狙ってどんどこ掘っていった。
剛力と身体強化の合わせ技だけどサクサク掘れる。
掘りだした岩をそのままアイテムボックスに収納して入り口は2メートルちょっとしかないけど、中は20畳ほどスペースのある空間を作った。
実は掘りながら習得した土魔法で掘り進めてみたいんだよね。
シャルには一応入り口で警戒して貰ってたけど、周囲に魔物の反応はないから念のためって感じで。
で洞窟の中を土魔法を使いながら空間を作ってみた。
そのままだといかにも綺麗な断面だったので多少ツルハシで歪にしたけど、まあ細かく見たらばれそう。
洞窟の中に入って貰って、入口を掘り出した岩を置いて塞いで魔物が入ってこれないようにした。
上に隙間はあるけど、現在一番小さい魔物でワイルドウルフの体長2mほどの大きさだし、大丈夫だと思う。
洞窟の中にベッド、簡易コンロ、簡易シャワー、テーブルを置いたら、取り敢えずの拠点らしくなった。
「ケンタさんのマジックバック凄いですね。野営に布団付きのベッド持ってくる人いないですよ。」
「マジックバック?」
「ああ、大丈夫です。誰にも言ってません。私もいろいろ調べたんですけど、ケンタさんが持っているのレジェンド級アイテムのマジックバックですよね。実在するとは言われてましたけど、実際に見たのは初めてです。それをお持ちと言うことは、ケンタさんが凄い方だと思いますけど、ケンタさんはケンタさんなので納得しました。」
主食は大量に作って貰った食品だけど、シャルはスープを作るようだ。
いい匂いがしてくる。
ああ、あのバックの中に一通りの食材とかいれてきたんだ。
枠大丈夫だったかな。
「うーんとそう言うんじゃないんだけどなぁ。」
「大丈夫です。私以外に気付いている人はいないですし、それにさっきも言ったようにケンタさんは、ケンタさんなんで気を使わないで下さい。」
そう言えば、魔物が寄ってこない魔道具ってあったな。
念のため使っておくか。まあシャルにはきちんと話をした方がいいかな。
でも全てを話すにはリスクが大きいか。
アミラスの手が伸びた場合、俺だけじゃなくシャルにも手が伸びることになるからなぁ。状況が確定するまでは隠せるものは隠してた方がいいかな。
「でもよくこの場所が空いているの感知できましたね。岩の先の地形感知とか余程のスキルがないと出来なさそうですけど。」
「あ、うん。なんかこの辺りの反応が周りと違ったからね。」
違ったのはミスリル鉱石の小さな鉱脈があったからだけどね。
「ケンタさんと一緒なら、迷宮探索も本当に下層まで出来そうですよ。私今日の討伐でLV10に上がりましたよ。LV10ですよ、LV10。冒険者止めて騎士団に入ってもやっていけるレベルですよ、小隊長待遇で。」
「シャルは、騎士団に入りたいの?」
「まさか。例えですよ。私は自由に生きたいから騎士団とか無理です。このまま冒険者やっていきたいですね。一人では無理ですけど。」
って俺をチラ見しなくても。
「それはよかった。俺もシャルとずっと冒険者続けたいし。」
「そうそれです。今後のことも考えて一応ちゃんとしておきたいんですけど。」
「ん?何?」
「えっと利益の配分とか。大事なことだし。」
「そうだね。ごめん考えてなかった。換金分の折半ではダメだった?」
「いえ、それだと貰い過ぎと言うか。パーティーで使うものとかも全部、ケンタが支払ってるし、出来れば3等分してケンタ、私、パーティーの分として分配して、これから2人で使う者はパーティーの会計から出すようにしたいかなと思って。」
「あー別に気にしなくていいんだけど、別にパーティーとか縛りがある訳でもないし。」
「それだと私が落ち着かないと言うか、ただでさえギルドの借金を肩代わりして貰って、素材の処理とか武器の準備とかとんでもなくいろいろして貰ってるし。」
「まあそれでシャルの気分が落ち着くならそれで。じゃあ今後は換金代金は全部シャルに渡すからシャルの方で管理してて、勿論俺の取り分もね。そう言った会計を全部押し付けるってことで、いろんな利益を貰えてるって考えて。」
「それは管理をするのは問題ないですけど・・・。それくらいでケンタから受けている恩にお返しできないよ。」
言葉づかいが丁寧語が混ざってきてるし、少しテンパって来てる感じだな。
「じゃあ、時々キスして貰うってことで。シャルのキスにはそれだけの価値があるしね。」
「キスは、そんなことがなくてもするし、してほしいし、いつでもバッチコイだし。」