中級魔力ポーション
翌日、朝から馬車に乗って王都に帰り、急に帰ってきた俺とシャルさんにびっくりしてたけど、事情を話してそのまま日向亭に泊って久しぶりに焼き肉を食べて、その翌日、朝から冒険者ギルド本部に向かった。
いつものようにシャルさんが換金素材を持って奥に入っていって俺はホールの中で待っていたら、シャルさんに呼ばれてギルドの奥の方に連れて行かれた。
「はじめましてケンタ殿。当冒険者ギルドのギルド長をしているボルドと言います。簡単な話はシャルさんに聞きましたが、できれば詳しいお話をと思いましてご足労頂きました。」
呼ばれた部屋の先にいたのは、ギルマスだった。部屋には俺とシャルさんの3人しかいない。
「警戒しないで下さい。私達が冒険者の皆さんに何か強制することはありません。我々の組織は冒険者のみなさんの力で成り立っていますし、特にケンタ殿の活躍は、当ギルドとしても大変注目しておりますし、シャルさんの方からもいろいろ報告を受けておりますので、ケンタ殿の不利になるようなことはいたしません。迷宮に潜って2日目で中層に到達する能力、超レアアイテムを引き当てる運。全てにおいて素晴らしいものです。」
「はあ、たまたま運が良かっただけですので。」
「いえいえ。ケンタ殿はノンスキルホルダーの希望になっております。スキル保持者でなくともこれだけの活躍ができるなど今までになかったことですから。」
「それで、俺がここに呼ばれた理由は?」
「済みません。話が脱線しました。シャルさんからの報告で、中級魔力ポーションを数本手に入れられたとか。それを条件次第ではお譲り頂けるとか。この話で間違いないでしょうか?」
「はい。俺がシャルさんに相談してそのように依頼しました。」
「それで、何本ほど譲って頂けるのでしょうか。何分、中級魔力ポーションは超レアアイテムでして、現存している物はないと言われています。初級魔力ポーションなら現存数は割とあるのですが。勿論現在、当ギルドには在庫はありません。」
「購入するとして、俺達の情報を隠すと言うことと購入金額をいくらぐらいに設定されてますか?」
「情報を隠すことは問題ありません。購入金額はレア度から言えば、上級回復ポーションよりも上ですから、金貨70枚を考えています。」
「ちなみに上級回復ポーションはいくらなんですか?」
「金貨40枚です。こちらも現存数は少ないですが、それでも我々の様な小国のギルドでも所持出来るほどのアイテムですから。尤もその効果は四肢欠損程度なら治癒可能と言われています。教皇国の秘儀の価格が金貨35枚程ですので、そこから算出されています。今回の中級魔力ポーションは、初級魔力ポーションの価格が金貨7枚であることから算出しています。」
「では、3本をお譲りします。ただし、代金のうち1本は上級回復ポーションを売って下さい。あと金貨100枚分をシャルさんの借金の返済とギルドからの途中退社の迷惑料としてお使い下さい。」
「シャルさんの退社ですか?それは。」
「勿論、シャルさんも俺もこの国を出る予定はありません。従って俺はこれまで通り迷宮を含めて得られた素材の換金にこちらのギルドを使いますし、シャルさんも冒険者としてギルドからの依頼と言うことで彼女のスキルを使った依頼をこなすことができると思います。シャルさんだけではないですよね?鑑定できるの。」
「ケンタさん、それでは・・・」
「シャルさんとの話は後ほどしましょう。シャルさんが冒険者を続けたくないなら退職せずにそのまま残ってもいいですけど。」
「念のため、もう一人に鑑定させてもよろしいですかな。」
「勿論です。十分に鑑定して下さい。俺の条件が満たされるなら、3本ともお譲りします。」
いかにも全部譲るというスタンスを取った。少なくとも、現存するものを全部手にできると考える筈だ、その場合のアドバンテージは大きい。何と言ってもその後の転売価格はこのギルドのいい値になるのだから。
ギルマスは、ベルを鳴らしてベルの職員を呼んだ。事前に打ち合わせが出ていたんだろう。俺はポーチから取り出すふりをして、中級魔力ポーションを3本取り出した。シャルさんと、別の職員2人が、それぞれ鑑定する。確認が取れたようだ。
「それでは、先ほどの条件で、買い取らせて頂きます。ああ、先にこちらをお渡ししておきます。お二人とも、B級冒険者に昇級されました。」
そう言って金の冒険者ギルドカードを渡された。あれ?素材はB級に上がるには不足してたようだけど、この中級魔力ポーションがA級かS級素材認定だったんだろうか。確か上の素材は10倍以上の討伐回数にカウントされるんだったけ。
その後、シャルさんの借金の契約書と、上級回復ポーションと代金の金貨を持って職員が入ってきて、無事に全部の処理が終わった。
「それでこの後はどうされるんですか?」
「また迷宮都市に戻る予定です。迷宮探索をほとんど進めてないですし。」
「そうですか。では、私どもも支部の改編をしておきましょう。今後はあちらが素材買い取りの中心になるかもしれませんからな。」
「そう言えば、こちらの所属しているB級冒険者も迷宮探索をしているとお聞きしましたが、その人たちも迷宮都市ですか?」
「いえ、彼らはアミラス王国の冒険者ギルドが発注した迷宮探索をやりながら新規の冒険者の指導のクエストに出ています。条件が破格だったので、大陸中のB級以上の冒険者が集まっていると思います。お陰で周辺の迷宮探索や、魔物討伐依頼等が滞ってますが。」
「あっ、俺はアミラス王国には行かないですよ。興味もないですし。しばらくはこの国にいるつもりです。」
「ありがとうございます。この国の迷宮には他国所属の冒険者が割と入っているんですが、レア素材は冒険者が直接商人に持ち込んだりしているのでギルドでの買い取りが減っているんですよ。ケンタ殿の様な冒険者は本当にありがたいですよ。」
ってそんな話を俺にしてもいいのって思ったけど、中級魔力ポーションを3本も手に入れられてハイになっているんだろうな。
「それでは、また。あーそうだ、迷宮都市で長期滞在する場合にいい宿なり、部屋の情報があればお願いします。住みやすければ長く逗留できますしね。」
「おおそうですな。支部の方に連絡しておきます。」
その後、シャルさんと一緒に2階の販売所に行ってみた。ミンクさんに迷宮に行ってなかったのかと言われたけど、迷宮で手に入れた素材を買い取って貰ったら喜んでくれた。
隣のダルクにミスリル鉱石を見せて買い取るかどうか来たら買い取れるような金がないと言うことでパスした。
その代わり、鉄鉱石と鉄鋼石はかなり質が良く、これなら十分買い取れると言うことだったので買い取ってもらった。
その後、迷宮内で野営するために必要な物品を手に入れた。
魔道具関係はシャルさんの友達の所がいいだろうってことで、フランさんの店に行った。相変わらず騒がしい人だったけど、簡易シャワーとか有用な物も手に入ったけど、魔物が嫌う香りを出す魔道具とかシャルさんも疑いの目を向けている魔道具も買わされた。
後でどの程度の魔物が寄ってこなかったか聞かせてくれとか言ってたから、俺達を実験台にするつもりなんだね。
その日、日向亭で夕食を食べたり、魔物の肉を大量に買い取ってもらったりして翌朝出る時にはまたいろんな料理を持たされた。
しばらく迷宮都市で食堂に行かなくてもいいんじゃないってことになった。
翌日1日かけて迷宮都市に戻った時には初めて来た時より冒険者らしかったと思う。
途中で出てきたホーンラビットを一閃した時には馬車の人から拍手喝さいだった。
まあ数匹程度なら問題ないしね。
借金完済の件はシャルさんの希望で、またシャルのお母さんには話していない。
借金の詳しい話自体お母さんには言ってなかったらしい。
それでも、その日からシャルさんの俺に対する態度が変わったと思う。
何と言うか距離が近くなったと言うか、言葉づかいも友人のフランさんに喋る感じになってるし。
シャルさんと言う呼び方も、さん付禁止になった。
シャルと呼び捨てだ。
シャルの方も俺をケンタと呼ぶ。
まあ問題ないかな。
ともかく無事、迷宮都市の宿に戻った。
空いてる部屋がないかを聞こうとしたらシャルに睨まれたので同じ部屋に泊ることにした。
「夕食食べたら、迷宮に行く?それともじっくり休んで明日から迷宮に潜る?」
「ケンタは中層、下層を目指すんだよね?今日までここに泊って明日から潜るってことでどうかな。必要な物品は買ってるけど、依頼していた剣も受け取りに行かないといけないし。この宿は20日分は支払い終わってるけど、多分、ギルドの方でいい物件探してくれると思うし、迷宮から戻ったらそっちに移るってことで。」
「了解。じゃあ、今夜は早めに寝ようか。」
そう言って、お互いにシャワーを浴びて、夕食を食べた後寝ることにした。
勿論2つベッドがあるから別々に。
「ケンタ、私って魅力ないかな?」
眠ったと思ったシャルが思いつめた表情で聞いてきた。
「いやいや。最初から言ってるでしょう。シャルは俺の好みのど真ん中。本当に素敵な人だと思うよ。」
「明日から、迷宮に入ったら一緒のテントだしいいよね。」
そう言って、シャルが俺のベッドに潜り込んできた。
なんか可愛い。
ポンポンと頭を撫でてあげたら嬉しそうにしている。
抱きついてきてキスしてきたのでそのまま受けてやった。
それで満足。
シャルも満足したようだ。
まあその先へって思いもあるけどそう言うのなくても繋がってる気がする。
結局そのまま一緒のベッドで眠って、翌朝お互いを抱き枕にして目覚めたんだけど、まあこれから毎日のことだしね。
しばらくそのままでいたら俺も落ち着いた。
「ふふふ。やっぱりケンタは優しいね。ありがと。」
何が優しいのか解らないけど、シャルが満足してるみたいだしよかった。
朝、少しゆっくり起きて、再度シャワーを浴びてサッパリした後、装備を整えて出発した。