素材とアイテムボックス
部屋に戻って、また交代でお風呂に入る。
シャルさんには、俺がお風呂に入っている間に今日取った素材のうち明日ギルドで換金した方がいいものをより分けて貰った。
シャルさんがお風呂に入っている間に確認すると半分以上は提出しないようだ。
提出素材には魔石も入ってる。
何か意味があるんだろうか。
お風呂から出てきたシャルさんに聞いてみた。
「シャルさん、残りの素材は提出しないの?」
「ケンタさん、まずこれだけ大量の素材をどうやって持っていたのかは聞かないとしても、なんでこんなに大量の素材があるんですか?本当は過去にこの迷宮を攻略したことがあるとかじゃないですよね?」
「えっ?何でそう言う話に?迷宮探索どころか、冒険者になったのもごく最近だって、シャルさんもご存知でしょう?」
「まあ素材を買いつけて持っていたと言うことはないでしょうからね。全く、ケンタさんは非常識、規格外すぎます。」
「えっと、済みません。」
「いえ、怒っているのではないですよ。ただ本当に凄すぎるんです。例えば、このコボルトの素材。討伐証明素材は、コボルトの爪かコボルトの魔石になります。フィールドではその素材を取れますけど、迷宮ではこのどちらか、しかも100%取れる訳ではないんですよ。迷宮に消化される間に剥ぎ取るのが大変と言うこともありますし、魔石は必ず取れるとは限らないんです。しかも迷宮の魔物の場合、魔石が体のどこに入っているかはランダムだと聞いています。つまり、これだけの数の爪と魔石が同数ずつあると言うことは普通はないんです。例えば爪を剥ぎ取るため腕だけを先に切り落としていたとしても、消失部位がくっついていたらその部分も一緒に消失するんです。なので迷宮での討伐証明部位の確保はエンカウントの割には難しいし、第一集団で襲ってくる魔物の場合、最初に倒した魔物が、狩り終わった時点で消失しているって言うのも普通なんですよ。」
「なるほど、そのような事情があったんですね。だとすると全部持ちこむのは拙いと言うことですか?」
「それもありますけど、討伐証明部位が2つある物は素材の方で、討伐証明部位がレア度の高いものは魔石の提出でと分けてみたんです。それを明日提出するかどうかは、ケンタさんが決めて下さい。」
「なるほど。ちなみに、これらの素材はC級の討伐回数にカウントされるんですよね?」
「ええ、そうですね。多分、ケンタさんはB級に昇格すると思いますけど、一部C級素材も混じっていますので問題ないですよ。」
「それじゃあ、俺とシャルさんの討伐回数が同じになるように調整できませんか?」
「えっ?それは可能ですけど、そしたら私の方の一方的な利益ですよ。ケンタさんには何の得もないじゃないですか。」
「これから先3ヶ月中層攻略して行くんですから、いずれシャルさんもB級になるでしょう?バラバラに上がるより一緒に上がった方が、今後素材提出とか簡単になるんじゃないですか?」
「本当にケンタさんって、変わってますね。何でそこまで私を構ってくれるんですか?」
「なんでって、美少女に優しくするのは男の性みないなものですよ。ほら、シャルさんは笑顔の方がぐっと似合うし。勿論真面目にツンツンしてる感じのシャルさんもいいですけどね。」
「なんですか、真面目にツンツンって、わたしツンツンなんてしてません。ぷんぷん。」
「ですねー。ツンツンじゃなく、ぷんぷんでしたー。」
「ってもう、ケンタさんって意外と意地悪ですね。」
そういって、自分のベッドに潜り込んだのでそれ以上は苛めないでおいた。
まあ最後笑顔になってたし、大丈夫だろう。
俺も自分の日課をこなさないと。
中級魔力ポーション大量に作ったから水筒に移しておこう。
これで水分補給しているように見えるだろうし。
今日は一日中級魔力ポーション飲みまくった。
魔力感知とか、探索感知、身体強化や剛力(これは今日、アースゴーレムから分離したスキルだ。力を込めるとスパッと切れる。)などのスキル発動がスムーズと言うか、スキル発動しているって実感があるんだよね。
この世界は、魔力と言うのがスキルを働かせている素になっていると思う。
火魔法や水魔法というのもスキルの一種で、魔法発動に魔力を使う様に、スキル発動にも魔力を使うんじゃないだろうか。
で、各人が内包している魔力、ゲーム的に言えばMPと言うのは自然回復しない。
スキルホルダーと呼ばれるこの世界で言えば特異体質者は元々内包しているMPが多く、この内包したMPを使うことで、自分のもつスキルのレベルを上げることができる。
スキルを持っていない人も少しはMPを持っているのかもしれない。
そう言った人が努力で擬似的なスキル発動の能力を得ることができる。
で、一度上げたスキルレベルなり魔法レベルはその発動に、この世界に充満している魔力を使うことで発動している。
こう考えると、今俺が感じている状況がいろいろ説明できる感じだ。
後はこの世界にスキルレベルと言う概念があるのかってことだな。
「えっと、ケンタさん、寝てます?」
さっき、自分のベッドに潜り込んだシャルさんが、ベッドに入ったまま俺の方を見ている。急に黙ったから、寝たと思われたのかな。
「起きてますよ。今後のことを考えてました。」
「よかった。えっと、私別に怒ってませんからね。」
へっ?
何のことだろう?
話が繋がらない。
さっき寝る前の会話を思い出したけど、あーぷんぷんの続き?
ん?
何だろう?
ここは無難に返しておこう。
「解ってますよ。シャルさんと俺はパートナーじゃないですか。」
「パートナー、へへへ。ありがとうございます。」
「あっ、そうだ、今いろいろ考えてて、一つ気になったんですが。魔法師が使える、火魔法とか水魔法のレベルとかあるんでしょうか?」
「レベル?レベルってなんですか?」
「あー、例えば、同じ火魔法でも弱い火魔法しか使えない魔法師と、強い火魔法を使える魔法師がいるのかなぁと。」
「ああ、初級魔法師と、中級魔法師ですか。勿論、魔法の威力に違いがあります。同じ魔法スキルホルダーでもその能力は同じじゃありませんよ。それは鍛冶師や調合師でも一緒ですよ。同じ鍛冶スキルや調合スキルを持っていても作れる武器や薬剤のレベルが違うでしょう。スキルホルダーも自分の能力を鍛えないと優れたスキルホルダーにはなれません。」
「なるほど、となると、上級魔法師とかもあるんですか?」
「上級魔法師はないですね。火魔法師でしたら、極まれに炎魔法師となる人がいますけど、そう言う人は各王宮の王宮魔導師として抱え込まれますし。」
「シャルさんの鑑定スキルなんかも、鍛えたりするんですか?」
「鑑定スキルは鍛えるとかないですよ。っていうか鍛えようがないじゃないですか。」
「ああ、いや、たくさん鑑定して、より詳細な情報を得るようになるとか。」
「まあ鑑定ばっかりしてると、勘は鋭くなりますよ。ああこの人いい人だとか、ああこの人悪こと考えてるなーとか。」
「なるほど、それはそれで鑑定スキルの強化なのかな。」
「って真面目に返さないで下さい。そう言うのは誰でも感じることじゃないですか。」
「まあそうですね。じゃあ、毎日冒険者を見ていて、この人は体力が落ちてるなぁとか、どこか調子悪そうとかは感じたりしないですか?」
「それは、意識すれば感じることもありますよ。特にいつも窓口で会っている獣人族の冒険者さんとかだったら、何となく疲れがたまってるなーって思って、回復薬飲むようにお勧めしたりしますし。」
「なるほどなー。あのですね、シャルさん、中級魔力ポーション飲んでみません?」
「えー何言ってるんですが、突然。そんな高価なポーション飲めませんよ。そんな余裕があれば、ギルドの借金返済に回しますよ。」
「ですよねー。まずはそっちですね。じゃあですね、明日ギルドで素材買い取りして貰う時に、中級魔力ポーションを1本買い取る意思があるかどうか打診してみて下さい。勿論、中層に到達しているのは明日の素材買い取りでギルドも認識するでしょうから、迷宮内のアイテムボックから出てきたということで。ただし、俺達が売ったと言うことを内密にするってことで、それが出来るならシャルさんが納得できる価格なら売って貰って構いません。どうですか?」
「それは交渉は出来ますけど、その交渉をするなら支部じゃなく王都に戻って本部で行った方がいいと思います。本部なら場合によっては数本の購入もしてくれるかもしれません。」
「そうですか、じゃあ、明日一旦王都に戻りますか?往復2日が無駄になりますけど。」
「私はそれでも構いませんが、ケンタさんはいいんですか?」
「問題ないですよ。いろいろ確認しておきたいこともありますし。」
「解りました。じゃあ、明日、王都に戻りましょう。」
宿の方は20日分払ってるので、問題ないだろう。
出来れば、王都で野営に必要な物品とか買っておきたいけど、時間がないかな。