魔道具屋フラン
「ケンタさんは、魔道具は持ってます?」
「魔道具と言うと、ライトとかですか?」
「それも必要ですけど、水の貯まる水筒とか、簡易コンロとか。」
「そう言ったものは何も。必要ですか?」
「そうですね。迷宮に入るなら何があるか分かりませんし。最悪迷宮内で数日はキャンプできる準備をしておいた方がいいそうです。尤も3層位までなら問題ないでしょうけど。」
「じゃあ、そう言った魔道具も揃えておきましょう。俺にはどれがいいのか解らないですし、シャルさん選んで貰えます?金額は金貨50枚なら手持ちにあります。」
「そんなにしませんよ。家でも買うつもりですか。じゃあ、いい魔道具屋さんがあるのでそこに行きましょう。」
そんな話をして案内されたのはこじんまりとした魔道具屋さんだ。
個人経営で自作の魔道具を売ってるのかな多分。
「いらっしゃいませ。ってシャル。久しぶり。日中に出歩くなんてどうしたの?ギルドの仕事お休み?シャルが休みとか嵐が来るんじゃない?」
「ええ、お休み。で、いい魔道具屋があるからってケンタさんを案内してきたんだけど、お店を間違えたかしら。」
「ええー。シャルが人を紹介?って後ろの彼?人族じゃない?」
「こんにちは、人族のケンタと言います。C級冒険者してます。」
「はあ、いらっしゃいませ。冒険者をシャルが紹介ねー、ふふふ。」
「な、何、ふふふって。もうプンプンだよ。」
「まあまあ。シャルにもついに来たかーってことで。」
「何よ来たって。私には何も来てませんからね。」
「えっと、それで、お勧めの魔道具は?」
「おほん。そうそう。お勧めの魔道具。ねえフラン。簡易タイプのコンロとか作ってなかったかしら。」
「ん?あるよ。コンロと水が出るタイプ。折りたたむとアイテムボックスに収納可能。しかも一回の魔石交換で半年は使用可能だよ。」
「って半年しか持たないの?ランクはどのくらいの魔石使うの?」
「うーんとね、ワイルドウルフ以上。ビッグボアー程度推奨かな。」
「な、ビッグボア推奨って、どんだけ魔石食いの魔道具なのよ。家一軒分使って簡易型とかあり得ないんだけど。」
「まあまあ、そうは言っても、これ一台で温水も出るし、湯船を準備出来たらお風呂も入れるんだよ。コンロの火力はオーブンとして使っても十分だし。」
「はあ、どんだけ凄い魔法陣組みこんでるの。無駄よ、無駄。そんな魔道具買う人いないでしょう。」
「まあそうなんだけどね。いいのよ趣味で作ってるんだから。」
「ごめんなさい、ケンタさん。紹介するお店間違ったわ。」
「あーそのコンロの値段は?」
「これだけの機能がついてズバリ金貨1枚」
「って魔石の値段と一緒じゃない。」
「勿論、魔石は別売りだよ。」
「ってドヤ顔で言わない。全く、失敗したわ。あなたなら長く使える魔道具を作ってると思ったけど。」
「長く使えるよ。宿の魔道具も故障知らずでしょう?あれだけ複雑なものを組みこんで不具合を起こしてないんだから、私ってば天才なのよ。」
「そこは認めるけど、売り物の魔道具がこれじゃあ、用途とスペックが合ってないんだよ。」
「そんなー。私に妥協しろと。手抜きで物を作れと、そんな酷いわ、ヨヨヨヨヨ。」
「えっと、そのコンロ購入します。自信作なんですよね?魔石は丁度ビッグボアーの魔石がありますし。」
「おー、ケンタさん。あなたなら解ってくれると思ってましたよ。ついでにこれなんかもいいですよ、尽きることのないお湯が出てくるポットです。いつでもどこでも温かいお湯が飲み放題ですよ。」
「ねえ、お湯じゃなくて、水が出るポットなり水筒はないの?」
「そんなの作っても面白くないじゃん。水なんかどっからでも出てくるし。熱湯が出てくるのがいいのよ。一瞬で熱いお湯よ。なんて凄いの。」
「お湯飲んでもおいしくないし。緊急時にお湯とか飲めないでしょう。」
「そこは、ほら、お茶を飲むときとか?」
「ちなみに、そのポットおいくらなんですか?」
「たったの銀貨50枚よ。」
「高すぎ。水のポットでも銀貨20枚も出せばいいものが買えるわよ。」
「じゃあ、銀貨30枚?」
「あんた適当に値段付けたわね。さっきのコンロも本当は金貨1枚はしないわね。」
「まあ魔石別なら金貨1枚はぼってるね。」
「ってあんたが言わない。私じゃなかったらあなた店を訴えられてるわよ。」
「まあまあ、そんな訳で、さっきのコンロとこのお湯の出るポット合わせて金貨1枚ってことにしようかと思ったのよ。もう乗りが悪いんだから。」
「なんか騙されてる気もするけど・・・」
「俺はいいですよ。シャルさんが認めた人が自信作として売っている商品ですし、きっといいものだと思います。残念ながら俺にはその正確な価値を判断できませんが。」
「なんていい彼なの。よしじゃあ奮発してこいつも付けちゃうよ。コンロ要らずの鍋だよ。これだけで煮込み料理が出来るすぐれもの。」
「火加減の調整は?」
「そんなものはない。サクッと過熱だよ。」
「ケンタさん、こんな子でごめんなさい。」
「なんでシャルがあやまってるの?っていうかごめんなさいって何よ、ごめんなさいって。」
「えっとじゃあ、その鍋もお願いします。そう言えばこう言った魔道具と言うのはどうやって作っているんですか?」
「ん?どうやってとは?」
「いや、魔法を使うんじゃないのに、熱や水が出るし。」
「それはあれだよ。魔法陣を描いて、魔石から魔力を供給して魔術が発動するようにしてるんだよ。魔法陣はかなり繊細なものだし、ほんの少しでも線がずれたら発動しないけどね。それにいろんな物に描くときにその大きさに合わせて描くセンスも必要だし。」
「なるほどね。そう言えば、風魔法の魔法陣とかはないんですか?」
「風魔法?あるけど、風なんか起こして何するの?意味ないじゃん。」
「例えば、火魔法と組み合わせて、一方向に風を送って、お風呂上りに髪を乾かす時に使うとか、シャルのお店で始めた、焼き肉の煙を取り除くために風を起こして煙を誘導するとか。」
紙に図を描きながら説明してあげたら、フランもシャルも興味津々だ。
「このアイデア料はいかほど?」
「えっ?アイデア料とかいらないですけど。」
「いやいや、これは凄いことだよ。大発明だよ、彼氏くん。シャル、シャルはいい人を見つけたね。私に譲ってくれない?」
「な、馬鹿なことを言わないで。譲るとか、そう言うんじゃないし。」
「じゃあ、私が・・・」
「ダメよ、ダメ。ケンタさんは私と一緒に冒険者するんだから。」
「一緒に冒険者?」
「そうよ。明日から迷宮都市に行って迷宮探索するの私達。」
「シャルも?シャルが?シャルなのに?」
「ってどういう変格活用よ。ともかく、ケンタさんは私のパートナーなの。」
「ふーん、パートナーねー。ふーん。」
「ともかく、このドライヤーと換気扇。正式に依頼するわ。うちの宿とお店に入れて頂戴。費用は見積もりができてから正式にってことで。」
「じゃあ、シャルの店に導入して問題なければこのアイデアを私が貰い受けるって言うのはどうお?それで費用はチャラ。」
「って、アイデア料はケンタさんのでしょう。」
「ああ、俺の方はそれでいいよ。お金の負担がないならよかったんじゃない?」
「えっ、でもこのアイデア料歩合制にすればかなりの金額になりますよ。フランが一番儲けることになるけど。」
「多分、このアイデアがあってもフランさんの能力がなければ実用化できないと思うよ。つまりはフランさんの力が一番重要ってことだし。俺としてはそれで宿やお店の役に立つなら問題ないよ。換気扇は室内で焼き肉が出来ることになるし。」
「じゃあ、そういうことで、まずはその焼き肉って言うのを食べさせて貰って状況を確認しないといけないけど。」
「焼き肉もケンタさんのアイデア料理だからね。お母さんに言っとくから時間がある時に行ってみて。改装の詳しい打ち合わせはお母さんと相談して。」
「ああ、この熱するだけの鍋の原理を使って、焼き肉用の専用テーブルも作って貰ったらいいよ。多分その方がいろいろ便利だと思う。」
「焼き肉専用テーブル?なんか益々焼き肉が気になってきた、今夜食べに行くね。言っといて。」
結局、魔道具を買いに来たのか、お店の改装依頼に来たのか分からなくなったけど、悪いようにはならないだろう、多分。
その後もいくつかお店を回って、いろいろ買い揃えた後宿に戻ったらすでにフランさんが焼き肉を食べてた。
「やっと帰ってきた。どこまで行ってたのよ。」
「フランこそ。今夜来るって言ってなかったかしら。」
「気になったので今日は早めに夕食を食べることにしたんだよ。で、この焼き肉凄いね。凄すぎるね。革命だよ。食の大爆発だよ。」
「爆発はしないで欲しいけど、まあ良かったです。今空いてるみたいだし、シャルさんも一緒にどうですか?」
「ああ、先に食事してしまいな。何か要領を得ないからね。準備をしてアタシも一緒に食べるよ。」
テラス席に座って、焼き肉のことについていろいろ話をした。
女将さんが来た後は、焼き肉専用のテーブル、換気扇、宿に置くドライヤーについて話をした。
しかも製作費、メンテナンス料はタダ。
女将さんも俺のアイデア料のことを真っ先に言ってたけど、何とか納得してもらった。
その後、風呂に入り翌日に向けて早めに休むことにした。
すっかり自分の部屋みたいになったけど、また10日程もないんだなー。
また帰ってくるけどね。




