お肉の買い取り
宿に帰りながら、冒険者ギルドの周りにたくさん出ているいろんな露店で串焼き、サンドイッチ、タコスみたいな物、飲み物などなど買いながら宿に戻った。
そろそろ夕食時間で忙しくなってくる時間なんだろうな、女将さんの代わりに別の女の子が宿のカウンターに座っていた。
「ただいま。今日の昼からこちらで宿泊しているケンタですが。」
「あーはいはい、3階の角部屋ですね。一番遠いけど済みませんね。じゃあ鍵はこれですね。夕食は日が沈んでから2時間以内でお願いしますね。」
「ミミ、お店の仕込みを手伝っておいで、こっちはあたしが代わるよ。」
「はい、女将さん。あっ、ケンタさんには鍵渡してます。」
「おかえり、どうだった?うまいこといったかい?」
「はいお陰さまで。ところで、鍋一杯に沸かしたお湯を頂きたいんですけど貰うことできますか?」
「鍋一杯のお湯?スープでも自作するのかい?」
「いえ、蒸留水が必要なので。」
「蒸留水って、綺麗な水だろう?うちの手洗いの水は水魔法の水を使ってるからね、蒸留水よりもさらに綺麗な真水だよ、それじゃあダメなのかい?」
「あーそうだったんですね。井戸水とかかと思ってました。」
「こんな大きい街で井戸なんか掘ってたらすぐに干上がっちゃうよ。全くケンタと話してると飽きないねー。」
「それじゃあ、こちらでビッグボアーの肉とかの買い取りしてます?」
「ビッグボアー?勿論さ。うちは食材はいいものを使ってるからね。ビッグボアーの肉は高級食材だけどいろいろ調理できるからね。」
「じゃあ、買い取りお願いしてもいいですか?」
「そりゃいいけど、丸々あるのかい?解体は日中に解体業者の所に持っていかないと出来ないよ。」
「一応、解体は終わっているんですけど、ここに出してみますか?」
「じゃあ、奥の厨房の方で出しておくれ、状態を見て買値を決めてもいいかい?」
案内された厨房は、割と大きな場所だった。食堂っているから手狭な場所でチマチマ作ってるのかと思ったら割と本格的な厨房だ。
「じゃあ、こっちの台の上に出しておくれ。」
調理していた職人さんと、さっき手伝いに入ったミミの見ている前でビッグボアーの肉を出してみた。アイテムではボアーの肉だったけどね。これでいいんだろうか。
「凄いね。完璧じゃないか。背肉とか、腿の所とが難しいんだけどね、いい解体業者にやって貰ったのかい?」
「女将さん、これいいですね。下処理は何も要りませんや。血抜きも完璧。そのままで使えますね。」
「金貨1枚でどうだい?」
「いいですよ。じゃあ、それで来月分の宿泊代ってことでいいですか?」
「な、本当にいいのかい?こう言う交渉ごとは価格を擦り合わせていくもんだよ。あたしが言った金貨1枚っているのは挨拶みたいなもんさね。大体金貨2枚って言われても納得する状態だよ。」
「いや女将さん。背肉と腿肉がこれだけ完璧なんだから金貨3枚でも十分ですよ。転売してもそのくらいの金額は取れますよ。」
「だそうだよ。」
「でも、俺もたまたま仕留めただけなんで、値段はいくらでもいいです。ともかく、女将さんがいいように、宿の宿泊料に含めて下さい。」
「何とも欲のない子だね。分かったよ、じゃあ、宿賃の2ヶ月分ことで。」
「よろしくお願いします。」
「よし、じゃあ、今夜はこいつを使ったメニューも入れるよ。余った部分はダルクが保管しとくんだよ。枠は空いてるだろう?」
「勿論です。こんないい状態の肉こっちの方が優先ですよ。」
まあ、なんかおいしい料理を作ってくれるみたいだし、よかった。
「じゃあ、俺は風呂に入って後で食事を頂きに来ます。」
「行っといで。ゆっくり入ってきていいよ。その頃には特別メニューもできてるさね。」
「楽しみにしてます。」
厨房を後にして、風呂に入った。
風呂場の一角には洗い場もあった。
石鹸は自分で準備しないといけないようだけど、洗濯板もあったし、久々きっちり洗えた感じだ。
湯船にもゆったり浸かれたし、こっちの世界に来て初めてゆっくりできた気分だな。
まあ何だ。稼げる目処が立って気持ちに余裕ができたんだなきっと。
夕食は、その日のカンバンメニューとして出していたビッグボアーのステーキを出して貰った。
メニューをちらっと見たけど、銀貨2枚って書いてたけど、これを宿泊料込みで食べていいのって感じだけど。
ステーキ肉を堪能していると、頼んでないけどビールを持って店員さんがやってきた。
ミミじゃないな。
背が高いし。
ん?
あれ?
「えっと、シャルさん?」
「私以外に誰に見えるの?」
「あれ?シャルさんって、冒険者ギルドの職員じゃ?」
「勿論、冒険者ギルドからお給料頂いてるわよ。かなりの高額を。」
「そのシャルさんがなぜここに?」
「えー私がここにいたらダメなの?」
「いやいや、上目遣いにそういうの反則ですからね。マジでドキドキしてますから。」
「もう、そんなにストレートに返されるとこっちが恥ずかしいんだけど・・・」
「あっ、心の声が出てましたか。済みません。」
「まあ、ケンタさんらしいと言えばケンタさんらしいですけどね。」
「それはどうもです。褒められてますよね?それはそうと、なでこちらに?」
「それは、ここが、私の家だからです、ジャーン。」
「なるほど。ってえー。実家ですか?じゃあ、宿を紹介した時、実家を紹介したんですか?」
「そうですよ。勿論、紹介したのはケンタさんが初めてですけど。この店獣人族のお客さんが多いし、どっちかと言うと商人ギルド関係のお客さんが多いんですよね。ほら、この店の料理って、あんまり冒険者っぽくないでしょう?食材とかメニューに凝ってるし。」
「何、馬鹿なこと言ってるんだいこの子は。元々料理屋なんだから料理に拘るのは当り前さね。宿は片手間だよ、全く。」
「いやいや、お部屋の方もとっても生活しやすいですよ。宿としても申し分ないかと。」
「でしょう。宿の方は私がコーディネートしたのよ。まあいろいろ無理して貰ったけどね。」
「全くだよ。でもまあ、食堂の広さもこの程度が分相応てところだね。これ以上大きくしてたら、料理の質が落ちてただろうしね。」
「あっ、そうだ。ケンタさん、ビッグボアーの肉うちに卸してくれたんだって?どうもありがとう。でもギルドの買い取り額より随分安く売買したんじゃない?もう、私に任せてもらえたらきっちり交渉してあげたのに。」
「なんだろうね、この子は。実家相手に高値交渉してどうするんだい。全く。」
お店が混んでなかったこともあり、女将さんも俺のテーブルにやってきて、しばらく休憩することにしたようだ。
アットホームなお店だなぁー。