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異世界の深刻な事情。

 大衆の視線が突き刺さるなか何かを話せと言われてカンニングペーパーも何もなく話せる強者はリストラされることは少ないと思う。


 少なくともこんな大勢の前に立つのは学生時代の卒業式以来ではなかろうか。


 むっ、無理だ……。


「オキタ殿、お早く!」


 こんなときに限って無反応に焦れた国王陛下が小声で俺を急かす。


 くそっ!こうなりゃ自棄だ。


「あー、始めまして、沖田 一成です。 これから皆さんのお世話になります。 仲良くしていただけると嬉しいです。 よろしくお願いいたします」


 ……恥ずかしい! 自分で言っておいてなんだが、小学生の自己紹介のような内容になってしまった。


 それでも広場からやれ、救世主様だの。オキタ様だの歓声をもらえば気分は悪くないかな。


 部屋に戻るらしい王様が付いてこいと言うので大人しく従う事にした。


「皆、儂はオキタ殿と今後について話をしなければならない。 部屋を出ておれ」


「国王陛下! しかしこんな得体の知れない者と!」


「失礼な事を申すな! 我々の未来はオキタ殿以外に解決する術を持たんのだぞ! さがれ!」


「御意……」


 側近か護衛らしい青年の言葉を叱責し、部屋から追い出そうとする陛下に、青年は渋々と言ったように扉へ向かうとこちらを睨み付けながら部屋を出ていった。


「オキタ殿! この度はよくぞこの世界へ参られた。 もうオキタ殿に頼る他この世界を立て直す術はないのだ」


 部屋に入り人払いを済ませるなり、それまで威厳に満ちていた国王陛下がスライディング土下座で俺の目の前に伏せた。


「ちょっ! 陛下、やめてください。 一国の国主が俺のような一般人に頭を下げては駄目ですよ!」


 辺りをキョロキョロと視線をさまよわせて誰も居ないことを確かめたあと、急いで陛下を立ち上がらせる。


「先程は王子が失礼した。 根は素直でいい子なんじゃが、どうにも最近では気が立っていてな。 儂のすること全てが納得いかんようなんじゃ」


「あー、反抗期ですね。 わかります、うちにも同じような歳の娘が居ますから」


「そうか、わかってくれるか! 年々可愛げがなくなってしまってのぅ」


 目頭を押さえ始めた国王陛下に持っていたハンカチを手渡した。


「子供になんて親の苦労はわかりませんよ。 お互い苦労が多いですね。 頑張りましょう。 ところで私は何も知らされずにここへ連れてこられたのですが、色々と説明していただけると助かります」

 

 突然連れてこられて救世主扱いされても、只の親父にチートなんてあるはずもなく、勿論剣も弓も使えない。


 魔王を倒せと言われても出来ないし、魔物が出ていても倒せない。


「なんと! タマは一体何をしておったのじゃ!」


 お怒りの陛下にタマ様と逢ってからのこと、この国でドラゴンの上から落っことされた事等を話した。


 最初から怒り気味で聞いていた陛下だったのだが、どらちゃんの件になった途端に扉べ走って行く。


「直ぐにタマ・ニャルダを喚んでこい!」


 廊下に控えていた兵士に向かって怒鳴り付けた。


 あまりの剣幕に護衛の一人が走り出すこと暫し部屋にタマ様がやって来た。


「馬鹿者! オキタ殿になんの説明もなく、更にはドラゴンから落とすとは何事か!?」


 国王陛下の怒声に猫耳を倒して塞ぎながらも飄々としている。


「しっ、仕方なかったのじゃ! こちらの世界の説明をしたら退職すると言いおるし、こちらに連れてきても現実逃避じゃ! 現実じゃと認識させるにはあれくらいは必要だったんじゃ!」


 必死に言い募るタマ様に陛下の鋭い視線が突き刺さる。


 確かに現実だと認識したのは事実だけどもね、死にかけたけど。


 粗相しなかった自分を誉めたい!


「ほう? ではドラゴンから落下させたのはわざとであって、うっかりではない……と?」


「そっ、そうですじゃ! 全て計算のうちですじゃ!」


 おい、噛んだぞ今。


「あいわかった、救世主様を危険に晒した罪をもって二ヶ月の減俸じゃ!」


「えー!? そんなぁ、限定販売のプレミアム初鰹の鰹節が発売になるのに!」


「自業自得だ。 オキタ殿、此度はまことに迷惑をかけた」


「すまなかったのじゃ……」


 しおらしく謝罪するタマの尻尾がシュンと力なく下がっている。


「大丈夫ですよ。 それで? 私の仕事のご説明をいただきたいのですが?」 

 

「あぁタマ! ご説明をして差し上げろ!」


「はぁ~い……」


 減俸が効いたのか明らかにやる気がない返事に陛下の額に青筋が……。


「……三ヶ月?」


「さ、さぁ! 御説明させていただきます! わからない所はどしどし聞いてください!」


 国王陛下の脅しが効いたのか張り切り出したタマに苦笑を覚える。


 それからタマの話す異世界の近代史は正にラノベだった。

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