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第五十三話『会長の威厳』

 あの屋敷のこれからねぇ、はっきり言ってしまえば俺があの屋敷を押さえたかったのは、不法侵入したくないのと、俺たちが進めている事がうまくいけば次第にあちらへと人が流れていくだろう事が分かっていたからだ。


 しかし急激な変化はどちらの世界にとっても悪影響しか及ぼさない。同じ地球上ですら他国へ移動する場合には様々な障害が発生するのだ。


 移動に必要となる費用や各種手続き、治安維持。


 それらの必須項目を満たしてからでないと不法入国は止まらないだろう。


 はじめのうちはあちらへの流入は少しずつ行った方が双方の国の為だ。


「そうですね……その答えは私からは出せません。 何故ならあの屋敷を落札されたのは貴方の会社ですから」


「ほう? ではなぜあの屋敷を落札しようとした?」


「ではドリームズホールディング社が動いたのはなぜですか? 私が競売に参加した時にはあの屋敷は悪評が高く値がつかないと聞いていたのですが?」


 威圧感に飲み込まれそうな自分を叱咤して真っ直ぐに隆盛会長の顔を見て逆に問いかけた。


「『異世界転移』、この言葉にこころ当たりは無いかな?」


 会長の口から飛び出したおよそ似つかわしくない単語に心臓が跳ねた。


「孫に進められて最近SNSをはじめてな、面白い記事を発見したんじゃよ。 県内に『異世界への扉が現れた』とね?」


 いずれは大々的に発表する予定にしてはいたが、情報が回るのが早過ぎやしないか?


「それと私と何の関係が?」


「ほう? 柏木君。 沖田殿に見せてやりなさい」


「畏まりました」


 会長さんの指示に那奈さんは素早く壁に埋め込まれていた大型液晶パネルへ映し出したのは、蛍の友人のブログだった。 


『今日蛍ちゃんに誘われてみんなで異世界へ行ってきたよ。 エルフさんチョー美人!』


 そこにはエルフのミアさんと、蛍の友人たちがばっちり顔バレで載っており、さらにはご丁寧に屋敷の場所を示すピンが画面上の地図に刺さっていた。


「さて、そのエルフの後ろに写っているのは娘さんの蛍ちゃんで間違いないね?」


「……」


「それから屋敷を落札するにあたって色々と調べさせて貰ったよ」


 次に映し出されたのはあの屋敷へ出入りする俺の写真や美枝子、それから彰吾と幸広の写真だった。


 一体いつ撮られたんだ?


「今開示した情報はごく一部だ。 その全てが沖田殿に繋がっている」


「はぁ、お察しの通り私はあの屋敷に出入りしております。 ドリームズホールディング社として私たちをどうされるおつもりでしょうか?」


「それは沖田殿次第だろう。 返答次第ではよきパートナーとなれるだろう?」


 胡散臭いが状況は圧倒的にこちらに部が悪い。


「わかりました、少しややこしいので明日屋敷までいらしていただけませんでしょうか?」


 相手はどう見たって、戦後の日本経済を回してきた歴戦の猛者。


 下手に説明するより実際に見てもらった方が良いだろう。


「柏木君?」


「はい、社長及び会長の明日のスケジュールですが、八時から昼まで重役会とその他会議が三本、午後からバクトラ運輸様と楽特市場様とミーティング、夕方から分家の皆様との会食となっております」


 流石企業経営者、朝から晩まで予定がみっちりだ。


「全てキャンセルだ」


「か、会長!? 本気ですか!?」


 スケジュールを全て欠席する決定を告げた隆盛会長に琢磨社長が驚いている。 


 はっきり言おう俺の方が吃驚したよ。


 ドリームズホールディング社がどんな会社か無知な俺には分からないが、少なくとも明日の予定に上がった名前はどれも一流企業だ。


 バクトラ運輸は国内ならどこにでも走っている運送会社だし、楽特市場はネット最大手のショッピング通販サイトだ。


 その二社とのミーティングを前日にドタキャンするってどれだけなんだ。


「琢磨、俺の勘がミーティングなんかに出てるよりも行けと言ってる」


「……勘ですか」


「勘だ」


 きっぱりと琢磨社長に告げながらも、隆盛会長の視線は俺から一切外れない。


 琢磨社長もしばらく黙考したあと顔をあげて俺を見る。


「はぁ、会長の勘は当たりますからね。 柏木君、すまないが私の分も調整を頼むよ。 これでよろしいですか会長?」


「と、言うわけだ沖田殿。 さぁ呑みに行くぞ」


 話は済んだとばかりに立ち上がった会長さんと、後に続く社長さんと柏木さん。


「ちょっ、ちょっと待ってください。 私もですか?」


「勿論だ、ちゃん柏木君がホテルは取ってくれているから安心してくれていい。 儂の奢りだ、行くぞ沖田殿」


 泊まりですか!?


「沖田殿、諦めた方が良いですよ」


「はぁ……わかりました……」


 その後美枝子に連絡を入れては心配され、連れていかれたのは美女が犇めく高級ホステスがお酌をしてくれる夜の街。


 会長の明けたボトルの銘柄に飛んでいくお札を幻視したのは言うまでもない。


「まぁ、皆さん社長さんなの? サービスしなくてはね?」 


 露出の激しいドレスから覗く白い肌に視線がいかないように気を付けつつも、スキンシップの激しい会長の影で小さくなって飲んだウイスキーは美味しかったです。

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