国王様の言うことにゃ。
ピンクのドラゴン、どらちゃんを駆け付けた男性に預けてズンズンと前を進む美女バージョンのタマ様の後ろを追いかける。
どう見ても西洋式の豪奢な白亜の宮殿に迷うことなく入っていく。
「本当にこの運動着でこの城の中にはいるのですか?」
自分の姿を見下ろして溜め息がでる、場違いもいいところだ。
今どきネズミの王国にすらスポーツウェアで行くものは滅多にいないと思うのに、本物の城にこの姿。
せめてスーツで来たかった。
「ほれ、はやくこんか。 早よう早よう、これから陛下に謁見するのじゃから」
へいへい……、陛下!?陛下ってこの国の一番偉い人でしょう!?そんな人に運動着でご挨拶ってそんな殺生な。
「この姿で王族にお会いするのは、いくらなんでも相手に失礼です! タマ様! せめてスーツに着替えさせて下さい」
この姿で謁見とか無理!いやスーツもこちらの世界で礼服として通じるか疑問だけど、運動着よりは精神的にマシなはずだ。
「きちんと持ってきておるから城内で着替えれば良い」
ひとまず着替えをするために通された部屋は我が家の二階がまるまる入る程の大きさがあった。
豪華な調度品が設置され、高級ホテルのスイートルームでも流石に敵いそうもない。
床に敷かれた毛足の長い絨毯は純白で、とてもじゃないが土足では怖くて踏み込めない。
部屋に入れずたたらを踏んでいると、タマ様が普通に外靴のまま絨毯を踏み締めて入ってしまった。
「オキタ殿、ほれスーツじゃ。早く着替えんとそのままで謁見じゃぞ」
自分の着ているピチピチのボディコンのミニワンピースに手を入れて何かを取り出したタマ様はどこからともなく次々と俺のスーツをとりだした。しかも靴下と革靴、ネクタイまで全て揃っているようだ。
一体どこから取り出したんだ?まさかあのピチピチのミニワンピースの中じゃないよな?ボディーラインを協調するあのミニワンピースのどこにしまう隙間があるんだよ。どうみても物理的におかしいだろう。
「ん?どうしたんじゃ」
「いや、別に……」
ドラゴンがいるんだからなんでもありだな、気にしたら敗けだ。
「わっ! タマ様!?」
突如隣でミニワンピースを豪快に脱ぎ出したタマ様を一瞬でも凝視してしまったのは不可抗力だ。
健康的な色合いの瑞々しい肌を彩る扇情的なコルセットが立派なお胸様を強調して……。
途端にゾクリと背中に走った悪寒に鳥肌がたった。この感じは前に美枝子に秘蔵の夜の書を見付かった時のものに似ている。美枝子すまん!わざとじゃないんだ!俺は無罪だ!
「何をしておる。 はよ着替えんと陛下を御待たせしてしまうぞ」
手をワキワキと動かしながら俺の服を剥ぎ取りにくるタマ様。
俺はいいからまず服を着ろ! 服を! すみません、調子にのりました後生ですから着てください、お願いします。
部屋の奥に小部屋を見付けたので、タマ様に出してもらったスーツを持って飛び込んだ。
着替えを済ませて鏡を前に髪をなでつけ、ネクタイが曲がっていない事を確認する。
よし! 決まった! これなら多分大丈夫だろう。
「オキタ殿、そろそろ移動するぞ」
「はい! 今出ます!」
ガチャリと開けた扉をそろそろと閉めた。
なんだなんだ! あんなのありか!? 謁見だろう、王様に会うんだろう!?水商売のお姉さんもビックリな露出度のドレスに驚くなと言われても俺には無理だ。
首もとがハイネックになった深紅のドレスは谷間から腹部まで大きく露出されている。
体の側面とよく見れば背中も丸見え、足首まである長いスカート部分は側面に太股まで深いスリットが入っていてどこを見たら良いのか視線のやり場に困る!
セットされた髪の間から見える猫耳もどっからはえてるのか気になる三毛の尻尾がゆらゆらと揺れている。
どこのイメクラから出張してきたんですかタマ様。
落ち着けぇ~、あれは猫!あれは猫だぁ~!っよし!
暗示をかけて扉をあける。
「おっ、やっと出てきたのぅ。 謁見の間に行くぞ」
タマ様に先導されてたどり着いた謁見の間には沢山の貴族っぽい人達と動きにくそうな揃いの衣装に重そうな剣を腰に佩いた騎士っぽい人たちが並んでいる。
俺はと言うとタマ様に連れられて部屋の中央に連れてこられた後、タマ様はどこかへ行ってしまい現在進行形で放置プレイされてます。
タマ様カムバック!
「国王陛下御入場!」
扉の前にいた騎士っぽい人が告げると一番立派な扉から頭に王冠を乗せた白髪のおっちゃんが入室してきた。
俺この世界の作法なんてしらないぞ!周りを見渡せば貴族っぽい人たちが床に右膝をついて頭を下げていたので真似をする。
分からないときは周りに合わせるに限る。
「皆顔をあげよ。 国王ザナン・サナル・ウェルサルドゥエル・ドラスティック・サンタルス24世である」
長い! 名前長い! 覚えられません! 年々人の名前を覚えられなくなってるし、出てこなくなってるけど、王様の名前を噛まずに呼ぶ自信ないわ!
貴族っぽい人たちが顔を上げたようなので真似をする。
「そなたが異世界とこの世界を繋ぐ男か。 名を名乗る事を許可しよう」
「お初に御意を得ます。 沖田一成です」
聞かれたので名乗ると同時に会場がどよめいた。
ん?どしたの?
「オキタ殿、すまぬすまぬ! これを!」
どこから現れたのかタマが走り寄ると俺の指にサファイアの石がはまった指輪を着けた。
「これなんだ?」
銀色に輝く指輪には緻密な細工が施されていて美しい。
「オキタ殿の言葉をこちらの言葉に変換してくれるマジックアイテムだよ。 これで大丈夫!」
「あー、はじめまして沖田一成です」
「うむ、国王ザナン・サナル・ウェルサルドゥエル・ドラスティック・サンタルス24世である」
自己紹介から仕切り直しらしい。
「此度は貴殿をこの世界での大使に任ずる。 大使館として丘の上にある館を使用し貴殿の母国とこの世界の安寧のために尽力せよ」
「はぁ、わかりました」
本当の事を言えば意味がわからない。わかんないけど、この空気の中で分からないとは流石に言えない。 いや!言ってはいけないことくらい俺にもわかる。
「双方の世界に幸あれ!」
王様の宣言に部屋中で拍手喝采。そのまま外が見えるテラスに移動させられると城の前には黒山の人だかりが出来ていた。
「皆世界戦争終結後、五十年間魔素不足をよく乗り越えた。 この者は我らが世界を救う救世主!オキタ・カズナリ殿だ!」
途端に広場に響き渡る大歓声と熱気にビビる俺。
おー! じゃないよ! 救世主って一体なんなんだ!
タマ様~、出てきて説明してください。
「救世主様、皆に貴方のお声を!」
お声をって何をいえと? まずもって俺は救世主じゃありません!リストラされた只の平凡な中年親父です。




