第四十五話『若者の『タイムライン』の猛威』
今回の首謀者である蛍と美咲ちゃん、翼君と無茶した七人には多少の内容は異なるが等しく異世界の現実をその身をもって体験したようだ。
特に悪態をついた少年二人は、途中ついうっかり握っていた後ろ足を滑らせたどらちゃんに、空中で放されてパラシュート無しの異世界スカイダイビングを体験したようで、失禁と失神した状態で帰ってきた。
あのスカイダイビングを実際に体験した俺だからわかる……あれはやばすぎる。
落下時の風圧と自分の意思に反してくるくる回転する不自由な身体、彼等の場合は夜なので地上が見えないぶん、いつ地面とこんにちはするかと言う恐怖心が素晴らしい相乗効果となった事でしょう。
ちなみにポチに気に入られ、玩具の様に盛大に遊ばれた翼君も足腰が立たない状態でした。
「貴方達、もうこんな無理しちゃ駄目よ? 痛いの痛いの飛んでいけ~!」
待ち構えていた美枝子に、彼等の身体についた傷を綺麗に治して貰い、色々な要因で汚れてボロボロになった衣服は、彼らをお風呂にまとめて放り込んでいる間に先に地上へ戻った美枝子が、車で近場のコインランドリーで洗濯乾燥機にかけてきてくれた。
本来なら制服は乾燥機にかけないので、多少縮んだかもしれないが、彼等は縮んだ制服に袖を通す度に自分の黒歴史を思い出す事だろう。
美枝子が持ち込んだ裁縫セットに入っていた糸で、 優秀なお針子さん達が綺麗に制服の解れなどを補修してくれたため、着るものは大丈夫だが、憔悴しきった彼らを自宅へ送り届けるのは厳しそうだ。
俺は一度彼らを制服に着替えさせて電波の入る地上へ戻ると、彼等に自分のスマートフォンから保護者へ連絡を入れて貰った。
彼等は自分が異世界で起こしたあれや、これを自分の保護者に知られたくないようで、報告しないでくれと懇願してきた。
高校生になっても、親に怒られるのは嫌なようだ。
取り合えず今日は友人宅に泊まると言う内容の連絡を入れて貰った。
その際に彼らを一時的に預かる身として、電話口を替わってもらい彼等の保護者へ挨拶も済ませてある。
彼らは異世界に憧れていた部分もあったのだろう。
今晩は彼等の希望で異世界で一泊することになった。
もう無茶はしないと思いたいが、用心のために、首輪の代わりに強制送還機能を付けた通訳腕輪をつけさせて貰っている。
今回の捜索に協力してくれたみんなには後でお礼をしようと思う。
明日も学校があるため早めに部屋へ案内すれば、余程疲弊していたのか彼等はそのまま朝まで目覚めることなく眠ったようだ。
翌日、そんな彼らを同じく異世界に一泊した蛍や美咲ちゃんと一緒に白桜高校へ送り届けた。
その日彼等は、本来なら訪れることなど出来ようはずもない異世界訪問と言う奇跡体験を中断する原因となり、先に帰宅を余儀無くされた者達に質問攻めにされたようだが、誰一人口を割らず、それから暫く彼等の教室はまるで針のむしろのようだった。
先行帰宅を余儀無くされた者の数名と、噂を聞き付けた何名かが蛍にもう一度連れていって欲しいと懇願したが全て断られている。
それもそのはずで、蛍は自分勝手な行動に対しての罰として異世界への出入りを俺から禁止されている。
暫くしたら解禁するつもりではいるが期日は伝えていない。
今回の事は蛍には良い勉強になったと思う。実際にあれから蛍の反抗期はいくぶん軽くなったような気がする。
蛍には異世界行きを断られた生徒の一部が、今回の事をSNSのタイムラインに掲載したことで瞬く間に広がって行った。




