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翼君の苦手なもの。

 濃厚な木々の香りが充満する暗い森の中を迷う素振りなくポチは疾走していく。


 まるで森の木々がポチの進路を塞がないように避けているのではないかと思うほどにポチの背中は快適だった。


 暫く疾走したポチは小さくうなり声を上げると、速度を落とした。


「どうした?ポチ居たのかい?」


 ポチの視線の先には大きな泉があり、巨大な何かが座り込んでいる。


 よく見れば鋭い牙と爬虫類のような瞳、鰐のような見た目の皮膚、蝙蝠のような大きな羽が生えた生き物が大きな前肢で、ブレザー姿の少年の片足を拘束していた。


 それはとっても見覚えがある蛍光ピンクのファンタジー生物……。 


「離せぇ……、誰か助けて……!」


「待ってろ!今助けるから!くそっ!この化け物がぁ!」


「う、たすく、お前だけでも逃げ……」


 声の主は三人、踏みつけられている者、倒れて動けない者、手首ほどの太さのある木の枝で、下敷きにされている者を助けんと、奮闘する(たすく)君……。


 それまで翼攻撃を尻尾で払うようにあしらっていた、タマさまの愛竜どらちゃんは俺とポチに気がついた様子で、ゆっくりと顔を上げた。


「あー、どらちゃんこんばんは、夜分遅くにごめんなぁ。すまないがうちの馬鹿ども回収しても良いかい?」


「蛍の父ちゃん!?なんでこんなところにっ!」


「うわー!ドラゴンに続いてフェンリルなんて!終った……」


 死を悟った様に、失神したのは、負傷して動けなかった少年と、どらちゃんの下敷きにされている少年だった。


 どらちゃんがグラァ、と小さく鳴くと前肢を上げて、拘束を解いてくれたので翼君に指示を出してどらちゃんの側から引きずり出させた。


 状態を確認したが多少の裂傷や擦り傷、打撲は有るものの、皆命に関わるような怪我が無かったのは、空の覇者であるドラゴンのどらちゃんがいち早く彼等を弄んでくれたのは、この危険な森の中で正に奇跡的な出会いだったと言えよう。


「はぁ、取り合えず無事で良かった。翼君、どうしてこんなことに?」


「すみませんでした!蛍にこちらの世界へ連れてきてくれるように頼んだのは俺なんです!こいつらの暴走を止められなかったのも俺の責任です!」


 翼君は地面に額を擦り付けるようにして土下座で謝罪し始めた為、取り合えず立たせて屋敷へ戻る事にした。


 いくら命に別状はないとは言っても、傷口からバイ菌が入るのは宜しくない。


「謝罪は後で聞かせてもらうよ。まずは屋敷へ戻ろう。どらちゃん、その二人を屋敷まで運んでくれないか?」


 どらちゃんは承知したと言うようにグラァと鳴くと、失神した少年二人の片足を掴むと大きなピンクの羽を羽ばたかせた。


 敢えて胴体ではなく足、しかも片足を掴むとは、言葉には出さないが睡眠時間を邪魔されて御立腹だった模様。


 砂煙を巻き上げて羽ばたくどらちゃんの揺れに、少年が目を覚ましたのか絶叫が夜空に木霊した。


「ふぅ、これで三人だから、後二人だね。翼君他の二人を知らないかな?」


「すみません!多分街へ向かったと思います。俺はヤバそうだったんで森に入り込んだ奴等を追い掛けたので……」


「そう……、ポチ!他に森に居そうかい?」


「えっ、ポチ……?」


 ポチと呼ばれた銀色の体毛の巨大な狼に翼君が若干引いている。心持ち顔色が悪いような……?


 ポチは空気の臭いを嗅ぐように鼻先を上に向けたあと、ふるふると首を横に振った。


 いやぁ、本当にポチは賢いなぁ!


「どうやら森には足を踏み入れていないようだし、翼君も屋敷に戻ろうか」


「はい」


「何してるの?ほら乗った乗った!」


「えっ、うわぁ!?」


 なんの疑いもなく、歩き出した翼君をポチの背中に引き上げると、屋敷へむかってポチが疾走した。


「蛍の父ちゃん!俺い、犬ダメなんですー!」


 ポチの背中で翼君の悲鳴か木霊した。

  

  

 

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