捜索は愛犬と共に。
あちらに渡れば屋敷内は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
そわそわしっぱなしの彰吾と幸広を連れて、ミアさんを捜して石造りの回廊を進んでいく。
すれ違う使用人にミアさんの行方を聞いて回れば、案の定彰吾と幸広には通じなかったようだ。
程無くして大階段のあるエントランスへたどり着けば、蛍の通う白桜高校指定の紺色のブレザーに身を包んだ高校生が三人ほど縄で拘束されていた。
「『あっ、オキタ様!お待ちしておりました!この方々が突然いらっしゃいまして、申し訳ありませんが安全を考慮して拘束させていただきました』」
「『ありがとうございます。すいません、予備の腕輪をお借りしたいんですけどありますか?』」
「『はい、ございます。今お持ち致しますね。オキタ様の物と後ろのお二人と、こちらの拘束させていただいた方々の分で宜しかったでしょうか?』」
「『あっ、俺の分と後ろの二人の分でお願いします。それから美枝子と蛍の他に女性が一人来ますのでその分ですね』
「『わかりました。直ぐにご用意致します』」
ミアさんが腕輪を用意してくれている間、彰吾と幸広には捕らえた三人を任せた。
どうやら三人のうち二人は自分から戻ってきたらしい。
勢いで屋敷を飛び出したものの、森に響いた狼のような遠吠えと、灯りが一切ない道に恐怖心を煽られて引き返してきたそうだ。
まぁ、賢い選択だろう。
一人は屋敷内の宝飾品を持ち出そうとしたらしい。
盗んだ豪華な首飾りを首に掛けて服のしたに仕舞い込み、魔素の壁に阻まれて首が締まり気絶したらしい。
あまりの手癖の悪さに頭痛がする。後で尋問したところどうやら何度か万引きで補導されたことがある生徒だった。
後で蛍の交遊関係を一度問いただす必要があるな。
「『オキタ様、こちらをどうぞ』」
渡された自分の分の腕輪を左手首に嵌める。
「彰吾、幸広。この腕輪を好きな方に嵌めてくれ、それで言葉が通じるようになる」
ヒョイッと二人に腕輪を手渡す。それぞれが俺の真似をして恐る恐る腕を嵌めると、みるみる縮んで、抜けないサイズになったようだ。
「おっ、流石ファンタジー製品。金属なのに輪ゴム見たいに縮んだよ」
「そうだな。自分の目でみても信じらんないや。話が通じるって本当か?」
「あぁ、ミアさん、こちらの二人は俺の友人で、この小太りなオヤジが白河彰吾で、厳ついのが磯野幸広です。これからちょくちょくこちらに顔を出すと思いますので宜しくお願いします。……ミアさん?」
ミアさんに改めて紹介すれば幸広を見ながら惚けているように動かない。
その上綺麗な瞳から涙が頬をつたっていた。
「ミ、ミアさ~ん、大丈夫ですか!?もしもし~」
「すっ、すみません!ショウゴ様、ゆ、ユキヒロ様。私はこの屋敷で侍女長を勤めさせて頂いておりますミアと申します。以後お見知りおき下さいませ」
おろおろとしながら声をかければ、正気に戻ったのか慌てて自己紹介を始めた。
う~ん、何故か幸広が気になるのかチラチラ視線を流しているが、幸広は鈍いからなぁ。
「彰吾です。宜しくお願い致します」
「幸広です。宜しくお願いしますね。ミアさん」
「はっ、はい!」
いつになく高テンションなミアさんに聞けば、タマ様は王城に紛れ込んだ男子生徒捜索のため王様に兵士さんを借りに言ってくれたらしい。
屋敷からの捜索隊はタマの部下で竜人の万能護衛執事ロンダさんが指揮をとっているらしい。
また、城下街にある黒猫亭の店主兼料理人サントスさんと妻のパメラさんが街の中で捜索に加わってくれている。
サントスさん夫妻が関われない闇の部分には王国の闇の重鎮アルフォンス・アディミオさんが目を光らせてくれているそうなので、それらしい人物が闇の商人にお世話になった場合、対処してくれるそうだ。
対処内容は敢えて聞かないことにする。世の中知らない方が幸せなことがごまんとあるからね。
「王様とサントスさん達、アルフォンスさんが動いているなら街の方は大丈夫ですね。あと残るは……」
「えぇ、森の中に入られてしまえば厄介ですわ」
エントランスから外へ出れば真っ暗な闇が広がっている。
星の灯りは弱く視界が効かない。
「とにかく捜しに行ってくるよ。彰吾、この腕輪は携帯電話の代わりに使える。もし捕まえたら連絡を入れてほしい」
「あぁ、わかった」
「幸広、先に捕まえたら馬鹿どもの再教育頼んでいいか?きちんと自分から戻ってきたから軽めで。とりあえず死なない程度なら美枝子がきちんと治してくれるから」
幸広は若いときに、不良と呼ばれ縄張り抗争を繰り返し喧嘩ばかりだったので、どこまでなら怪我で済むかを熟知している。
うまいこと肉体言語で再教育してくれることだろう……うん。
「あぁ、任せとけ。捜索は頼んだ。無理すんなよ?」
「あぁ、任された」
俺は長く指笛を吹くと、森の奥から白銀の巨狼が走り出てきた。
「ポチ!こんな夜中に呼び出してごめんなぁ。すまないが俺に力を貸してくれ」
地面に伏せるようにして俺の前にやって来たポチの鼻を撫でる。
「ちょっと人捜しを手伝ってくれ。俺と同じ世界からやって来た連中なんだが、わかるかな?」
ポチはぐるぐると喉を鳴らしていたが「任せろ」と言わんばかりに吠える。
いやぁ、ポチは賢いなぁとついつい感心してしまう。
ポチの毛皮を掴み、しなやかな筋肉に覆われた背中によじ登れば、視線があり得ないほどに高くなる。
「よし!ポチ!ゴー!」
見事な跳躍で俺とポチは森へと駆け込んだ。
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