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SOS

 翌日、俺は昨日再会を果たした白河彰吾(しらかわしょうご)を伴って、同級生の磯野幸広(いそのゆきひろ)が営む居酒屋に来ていた。


 この居酒屋、昼間は大衆食堂としてナポリタンやエビフライ定食など洋食をメインにランチ営業している。


 夜には居酒屋として営業するのだが、今は昼間。


 頼めばアルコールも出してくれるが、そこは無職の悲しい現実の壁に阻まれて、俺と向かい合わせに座る彰吾の前には、店主の幸広おすすめのハンバーグ定食が並んでいる。


 幸広の計らいか、彰吾の前にある鉄板には普段ついていない海老フライが堂々と鎮座している。


「しかし一成が彰吾を連れて来るとはおもわなかったぞ。 いつこっちに来たんだ?」


 平日のランチタイムを過ぎた為か俺達の他に客はなく、幸広は自分の分の昼食だろう料理が盛り付けられた平皿を持って俺達と同じテーブルへやって来た。


 平皿の中は残り物を雑然と盛り付けたのだろう和洋折衷どころか多国籍料理が同居している。


「連休に入る前かな、元々ゴールデンウィークはこっちで過ごす予定で、新幹線の予約は取ってあったんだけど、まさか普通の帰省予定が引越しに変更になるとはとは思ってなかったよ」


「あー、テレビで見たけど製造業はかなりダメージが出たらしいしな。お陰でうちの店も客足が遠くなって閑古鳥が鳴くようだよ」


「この店の閑古鳥が鳴くのはいつもの事だろ?」


 幸広の言葉に茶々を入れながらハンバーグの付け合わせであるブロッコリーを口へ放り込む。


「うるせーやい。 細々と暮らしていけてるだけましだろうが。しかし一成、起業とか思いきったな、どんな商売するつもりなんだ?」


「それな、俺も気になってたんだよ!社長さん!」


 幸広が鶏肉の唐揚げを咀嚼しつつ、手に持った箸を行儀悪く振りながら聞いてきた。


 社長さんと呼ばれてはまんざら悪い気はしない。


「ふふふっ、聞いて驚け!異世界で仕事するんだぞ」


「……頭大丈夫か?なんなら病院に送っていくが……」


「そうだぞ?いくら無職になったのがショックだったからって四十目前のオヤジが異世界とか、流石に引くぞ? 現実逃避したい気持ちはわかるが……、第一お前異世界とか信じてなかっただろうが! 正気に戻れ!」


 肩を掴まれてガクガクと揺すられた。 まぁ、二人の反応は妥当だろう。 俺だって蛍光ピンクのドラゴンに空中で落とされて異世界だと全身で理解させられたんだからな。


 二人の反応ににやけて居るところにスマートフォンが鳴った。


 ディスプレイに表示された名前に眉根を寄せる。


 悲しいことにここ数年すっかり反抗期のせいで、こちらからかけることはあってもかかってくることはなかった名前を見付ける。


『沖田 蛍』


「おっと、すまん電話だ……もしもし?」


 断りを入れて電話に出ると、背後で彰吾と幸広が正気に戻すにはショック療法がどうのこうの話し合っている。


 物騒な、俺は至って正常だよ。


「もしもし?」


『パパ! お願い! みんなを止めて!』


 悲鳴に似た蛍の声に落ち着くように促すと、電話口の相手が変わったのだろう。


『もしもし? おじさん? 美咲です』


 蛍から替わった美咲ちゃんは戸村美咲ちゃんといって蛍の幼馴染みでしっかりしたお姉さんタイプの女の子だ。


「えっ、美咲ちゃん? 蛍は無事? 何か助けてって……」


『はい、なんと言ったら良いのか私も混乱してますけど、異世界って本当に有ったんですね?』 


「えっ、美咲ちゃん?」


『おじさん、実は……今異世界って所に連れてこられたんですけど、他の子達が暴走しちゃって……』


「はっ!?ちょっと美咲ちゃん他にもそっちに行ってる子達がいるの!?」


 突然立ち上がったせいかテーブルの上でグラスが倒れた。


「うわっ!」


「あっ、すまん。 でもどうやって、だってあの家の鍵はここに……、あれ!? ない!」


 家の鍵と愛車の鍵はあったが異世界との窓口となっているあの家の鍵がない。


『鍵ならおじさんの部屋の引き出しから蛍が拝借しましたから、今は私が預かってます』


「あっ、ありがとう。じゃなくてなぜそんなことに! わかったすぐに向かうから美咲ちゃん蛍を頼む」


『はい、お待ちしてます』


 通話を終了させて振り返れば彰吾と幸広が既に自分の分の食事を平らげていた。


 彰吾は食べ終わった皿を調理場へ下げ、幸広はせっせと店じまいを始めている。


「一成、ぼさっとしてないでさっさと食えよ。 蛍ちゃんが待ってるんだろ? 食べきれないならタッパー持ってくるか?」


「幸広、食器は水に浸けといて良いんだろ?」


「あぁ、ついでに洗剤を入れといてくれ」


 急かされるままに唐揚げを口一杯に詰め込む横から、幸広が手際よく俺の皿から残りの料理を詰めていく。


「火の元消したぞ!」


「おう! あとは一成だけだぞ! 早く食え」


 喉に詰まりかけた白飯を味噌汁で流し込み、さっきから気になることを告げた。


「なんで戸締まりしてんの?」


「俺たちも一緒に行くからに決まってんだろうが。 なぁ彰吾?」


「大事な親友の愛娘の一大事だ。 協力するに決まってんだろうが」


 ありがたい申し出のはずなのに、一切有り難みを感じられないのは明らかに面白がっているのがわかるからだろう。


「それで? 本音は?」


「「異世界なんて面白そうなネタ無視できるか」」


 そっちですよね、やっぱり。


 

 

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