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第三十七話『救出』

暫くして 、静かになったのでゆっくりと扉を開けると悪臭地獄だった 。


閉め直して扉に手をおき 、とりあえず悪臭を消すために換気と 、空気清浄機をイメージして扉に俺の身体に蓄積されているらしい高濃度の魔素を魔力へと変換し流していく 。


いくらか流し終えたところで扉を開けて 、臭いが薄れたのを確認し 、愛靴に仕掛けた強化を解くと 、いつもと同じレベルまで臭気が下がった靴を履き直す 。


アディミオさんのなんとも言えないような視線が俺の足元に突き刺さるが 、他に靴はないし 、こちらの世界の靴はなれないため履きにくく 、靴擦れで痛い思いをしたくない 。


地下へと続く階段を覗き込んだが 、臭いは薄くなっているので一定の魔法の効果はあったらしい 。


いやぁ 、魔法って便利だな 、起こしたい現象をイメージすることで 、体内の魔素を魔力に転換しているのか 、使うと疲労が溜まるからもしかしてダイエットにも効果あったりするのかな ?


階段を下りながら確認していくと 、階段や通路には臭気に当てられて意識を失ったらしい人が倒れている 。


苦悶の表情はしているものの 、命に別状は無さそうなので 、階段の上からおっかなびっくり覗き込んでくるアディミオさんと部下さん達に次々と外へ運び出してもらった 。


地下の広い空間にはすり鉢状に整えられ 、置かれているソファーなどの家具は決して安物ではないだろう 。


まぁ 、奴隷を買おうとするような人種ならそりゃ金持ちだよな 。


会場内も意識不明者続出のため運び出して貰う 。


奴隷達を競売者達に見せるための舞台なのだろう 、周りよりも一段高くなっている場所に 、小さなライオンの獣人さんが一糸纏わぬ姿で俯せに倒れていた 。


俺はすぐに駆け寄ると 、体毛に覆われた背中を支えて抱き起こす 。


一瞬少年かと思ったが 、力が入らない身体を仰向けにしたことで僅かに隆起した四つの乳房からこの獣人さんが少女だとわかる 。


俺は来ていた上着を少女に被せてその裸体を隠した 。


舞台の袖にも何人か汚れたワンピースのような服を着せられた獣人の姿を見つける 。


皆一様に首筋と手首 、足首に武骨な錆色の輪がはめられている 。


「サリナっ !」


まだ臭いが残っているのか鼻と口を布で覆ったギルさん達が会場に足を踏み入れると 、壇上の俺達に気が付いたのか 、家具を飛び越えて舞台上まで上がると 、ライオン獣人の少女を抱き締めた 。


「大丈夫です 。 気絶しているだけですから 。 この方は ?」


「あぁ 、俺の妹だ……」


大切そうに抱え込むギルさんに少女を頼み 、俺はアディミオさんと狼獣人のウォーリアさんと奴隷達が監禁してある場所を捜してなおも地下へと続く階段を下りる 。


いったいどんだけ深く掘ったのやら 。


隣を走るアディミオさんの表情が冴えないため 、彼もこれほど広い地下空間があるとは予想していなかったのだろう 。


牢屋は思いの外早く見付かった 。


牢屋がある部屋に続く扉には見張りのための休憩スペースが設けられ近くに武装した男が二人倒れている 。


俺達は扉に掛けられた錠前を破壊して部屋へ乗り込んだ 。


牢は左右に三つずつ計六部屋へ分かれており 、一部屋に十人ほどの獣人さん達が 押し込められていた 。


「ウォーリア !」


「えっ ! ウォーリアだって !?」


鉄格子に顔をつけるようにして何人もの獣人さん達が 、ウォーリアさんの名前を呼んでいた 。


どうやら牢屋にいた獣人さん達は堅く閉ざされた扉で被害を受けずに済んだらしい 。


「父さん ! 母さんは !?」


ウォーリアさんが良く似た狼の獣人さんに駆け寄る 。


「先日売りにだされた 。 お前良く無事でここまで !」


「くそっ ! 少し遅かったか 、実は救世主様がアディミオ会の頭目と渡りをつけてくれたんだ」


ウォーリアさんの言葉に一気に視線が集まるけど 、気にしても仕方がないので一先ず監視役の男の懐から牢屋の鍵を探すことにした 。


ジャラリと出てきた錆色の鍵を二人に渡し 、手分けして牢から解放していく 。


身体にはめられた奴隷の首輪の鍵は見張りの男は持っていないため はずすことができなかったが 、解放された獣人さん達は駆けつけた彼等の家族との再開を多いに喜んでいる 。


「オキタ殿 、ここから先は俺に始末を任せちゃくれないか」


その様子を見ていたアディミオさんが聞いてくる 。


「構いませんけど 、彼等の奴隷の烙印は責任を持ってきっちりはずしてくださいね ? 危害も加えないようにお願いします ! あと 、俺の強さを示せと言う試練はもういいんでしょうか ?」


「あぁ 、構わないよ 。 あの悪臭には戦慄を覚えたからな 、敵にまわすくらいなら味方の方が良い 。 あんたが敵味方問わず無力化できることがわかったからな 。 降参だよ」


わざとらしく両手を顔のわきに挙げて見せるアディミオさんの様子がおかしくてつい笑ってしまった 。


「それでこれからどうするんですか ?」


「ん ? あぁ 、堅気には堅気のやり方があるように 、裏に生きる者達にも掟があるからな 、裏の流儀で責任を取らせるだけだ」


獰猛な笑みを浮かべるアディミオさんに 、今更だが獲物となる人物を哀れむ 。


まぁ自業自得だろう 。 南無三 !


「それじゃ~俺は先に帰らせていただきます 。 妻と娘が待ってますから」


「おぅ ! 何かあれば力になるからいつでも言ってくれ」


アディミオさんに現場を任せてウォーリアさんに感謝の言葉を貰い 、ギルさんには先程アディミオさんが言ってくれたように 、困ったことがあれば力になると力説された 。


流石はライオン獣人さんなだけあり 、力強く握られら右手の骨が砕けるかと思った 。


何だかんだとはじめての連休異世界は騒動の連続だったが 、明日から平日で蛍も学校があるし 、美枝子もパートがある 。


今晩は地球に戻ってすこし羽を伸ばそう ……豪華なこちらの食事も良いが 、そろそろ美枝子が作る味噌汁が恋しくなってきたしな 。


あっ 、そういえば明日は職業安定所の認定日だ 。

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