第三十六話『それぞれの事情』
ウォーリアさんに促されて中央のテーブルに座らされると 、エールが並々と注がれたコップを渡された 。
ウォーリアさんは元々この国ではなく他の土地に住んでいたらしい 。
魔素が少なくなり 、出生率が著しく低下したが 、ウォーリアさん達のように獣の姿を残す種族は 、一度の出産で複数の子供を授かることが普通なようだ 。
同じように身体の一部に獣の名残を残す種族は 、単体で生まれてくるため 、あまり人族と変わりがないらしい 。
その出生の違いが仇となり労働力として 、ウォーリアさんは妹さんを連れ去られ追跡するうちにこの王都へ流れ着いたそうだ 。
この建物に集まっている人達は同じように家族を連れ去られた者達らしい 。
彼等は家族を取り戻すべく 、連れ去られた同胞が売りに出されようとしていた奴隷オークションを急襲した事で裏社会に目をつけられたそうだ 。
現に今も獣人さん達は武器を抱えるようにして建物の外に殺気を飛ばしている 。
はぁ 、なんかごちゃごちゃしているなこの世界も 。
揉め事は双方から話を聞かなければ必ずと言って良いほどに事態を悪くしていくが 、これはその典型だ 。
「ちょっと失礼します 。 貴殿方とアディミオさんは少し話し合う機会が必要です」
椅子から立ち上がるとウォーリアさんの短刀が首筋に当たる 。
ひんやりとした鋼が体温を奪う感覚に寒気が走る 。
「何をする気だ」
「アディミオさんをここへ連れてくるだけです 。 ですので貴殿方のボスも引っ張り出してください」
「嘘だ ! そんなこと言ってここに攻め込み 、また俺達を家畜のように奴隷にするつもりなんだ !」
俺の言葉に過剰に反応するガイストさん 。
「させませんよ 。 俺は奴隷とか嫌いなんです」
無駄な身分制度や上下関係 、権力は自分よりも下位の者を虐げる 。
アディミオさんは言ったのだ強さを示せと 。 スッと短刀が首筋から離される感覚に 、安堵した 。
そのまま斬られなくて良かったよ 。 死ぬかと思った 。
「……はぁ 、わかった 。 ギルを連れてくる」
「ウォーリアさん ! こいつの戯れ言を信じるつもりですか !?」
「黙れガイスト 。 そろそろ逃げたり奇襲するのも監視が厳しくなって難しくなっていたんだ 、潮時だよ 。 オキタ殿 、同胞をどうか救ってほしい」
ウォーリアさんが深々と頭を下げた 。
「ウォーリアさんはこちらの方々が暴走しないようにお願いいたしますね 。 そうじゃないと俺が暴れなくてはならなくなりますので」
「ふっ 、わかりました」
顔を上げたウォーリアさんの顔つきが少しだけ明るかった 。
「それじゃぁ 、俺はアディミオさんを連れてきます」
廃墟を出て真っ直ぐにアディミオさん達が潜んでいる建物の影に進む 。
「アディミオさん 、彼らが話し合いに応じてくれることになりました」
「話し合い ? 降伏ではなく ?」
「はい 、彼らから少し話を聞かせてもらいましたが 、彼等は彼等なりの理由の上で行動しています 。 そして話し合いで解決できると判断しました 。 一緒に来ていただけますね」
「なっ !? あの家に行くと言うのですか 。 危険すぎます ! 俺達も一緒に !」
「ダメです 。 アディミオさん一人です」
「ふざけ「黙れ……」アディミオさん !?」
俺に掴みかかりかねないほどにいきり立つ部下さんを片手で制する 。
「お前達はここで待て 。 勝手な真似は許さん 。 これで宜しいかな ? オキタ殿」
「えぇ 、御協力感謝します」
アディミオさんだけを伴って再度廃墟の扉を潜ると 、部屋中央の丸テーブルに設えた木製の椅子にライオンが座っていた 。
違うな 、ライオンのような獣人さんが座っていたが正解だ 。
ウォーリアさんの案内でライオン獣人さんの向かい側にアディミオさん 、その間に俺が座る 。
「えー 、うぉっほん 。 私はカズナリ・オキタと申します 。 本日双方の話し合いにこの場をもうけさせていただきました 。 こちらがアルフォンス・アディミオさんです」
睨み会う二人の空気を無視して勝手に自己紹介とアディミオさんを紹介した 。
こういう殺伐とした空気は読んだら負けだ 。徹底的に空気を読まずに眈々と進めるに限る 。
「ギル・ライガーだ……」
不機嫌さ全開のライオン獣人さんがやはりこの獣人さん達のボス 、ギルさんで違いなかったらしい 。
「えーと 、私から双方の聞かせていただきましたので始めに簡単に説明させていただきます」
始めに断りを入れて 、獣人さんが抱えている奴隷オークションの話を説明した 。
家族や一族を助けるためにアディミオさん達と敵対する形になっていたことも含めて 、その都度ギルさんやウォーリアさんに確認を取りながら説明した 。
話を進めるうちにアディミオさんの表現が曇る 。
「この国は奴隷が禁止されている…… 、俺の預かり知らぬところでまだそんなことをしていたやつがいたとはな 。 どうやらこれは俺の部下の不始末が招いていたようだ 。 すまなかったな」
「いや 、謝罪はいらない 。 だから俺達の同胞を返してほしい」
ギルさんの要望にアディミオさんが頷く 。
「あぁ 、オキタ殿の名にかけて俺は今から部下の始末をつけてくる 。首謀者は割れているのか ?」
「アディミオ会のファンツァ幹部だよ」
「ファンツァか 、わかった 。 情報提供感謝する」
短い話し合いに終止符を打ち 、アディミオさんはそのまま部下を連れて奴隷オークションの開催されている会場へ向かうらしい 。
ギルさん達も自分達で救出したいと希望したためそれなりの戦力だ 。
教えてもらった会場はファンツァと言う男が経営する酒場の地下にあるらしい 。
酒場の出入り口を封鎖して 、アディミオさんたちが酒場を無力化したあと 、地下へ続く扉を開けた 。
「アディミオさん 、力の証明でしたよね 。 実は俺 、まだ自分の力が把握できてないんですよ」
先日美枝子に吹き飛ばされた時の感覚から多分無意識で身を守るために体内の魔素を使って自分の身体を強化しているのかもしれない 。
自分の身体を強化しているなら他の物はどうだろう ?
と言う訳で実験だ 。 用意するものは俺の仕事の御供 。 愛用の蒸れ蒸れ革靴ちゃん一組 。
靴を脱いだ瞬間 、獣人さんがたが分かりやすく飛び退いた 。
そうか 、そんなに臭うか俺の靴 !
えっとイメージは日本でよくアニメなんかで見るオーラが揺らいでいる様子を思い浮かべる 。
身体を強化する勢いで靴にオーラを流すイメージを頭に思い浮かべると明らかに臭いが増した 。
うえっ 、くっさ ! 良かった成功だ 、とりあえず臭気も強化できるようだ 。
俺は凶器と化した愛靴に更に強化を施して地下室へ投げ入れて素早く扉を閉めて閂をかけた 。
「鬼がいる ! なんてもんを !」
涙目で鼻を押さえるアディミオさんはあわれむように地下室の扉を見つめている 。
ちなみに獣人さんがたはとっくに逃げた 。
一応弁明しておくが 、週末には洗ってたからな !
臭気が充満し始めたのか地下が騒がしくなっていく 。
「誰かぁー ! ここを開けろ ! うぇっ 、開けてくれ~ !」
扉が内側から勢い良く叩かれるが 、押し寄せた人が愛靴に阻まれて倒れたのか 、扉の向こうで悲鳴が聞こえた 。
「いやぁー 。 賑やかですね」
「誰のせいだ 、誰の !」
それはもちろん !
「アディミオさんのせいですね」
「なんでだよ !」




