第三十五話『廃墟の住人』
さて成り行きで城下町の跳ねっ返りの若い衆をお仕置きすることになり 、アルフォンスさんの案内で 、若い衆のアジトにやって来た 。
場所は色町の一画にある廃墟だ 。 何年も前に娼館があったらしいのだが 、客との秩序のもつれから放火に見舞われ 、何名もの人が命を落とした曰く付き物件らしい 。
俺 、オカルトとかゾンビが襲ってくるパニック映画とか苦手なんだよなぁ 。
昔美枝子とのデートで行った遊園地のお化け屋敷に連行され晒した醜態は黒歴史として封印した 。
頼むから幽霊とか出てくれるなよ 。
煉瓦造りの建物のため倒壊することはなかったが 、取り壊す前に若い衆が根城にしてしまったため 、仕方なく放置していたらしい 。
初めは数人しかいなかったため 、裏社会でも静観を決め込んでいたが 、最近調子に乗ったようでどんどん勢力を伸ばしアルフォンスさん達の縄張りを荒らすようになったそうだ 。
壁際や行き止まりに追い詰めても 、忍者顔負けの身のこなしであっという間に華麗に体勢を整え 、二メートルを超えるような壁や柱 、屋根などを易々と乗り越えるとすぐに逃げられてしまうらしい 。
凄いな若者 、おじさんには無理だ 。
娘の運動会ですら転んだり 、アキレス腱を切ったりとなかなか身体が思うように動かない今日この頃 、日々衰えが……とほほほほっ 。
「オキタ殿 、それでこれからどうなさるおつもりですか ?」
物陰に隠れるようにして廃墟を覗き込むアディミオさんが聞いてきた 。 いやね 、どうするも何も 。
「普通に訪問するだけですけども」
「そうですか 、普通に訪問ですね 、皆 ! 武器の用意はできているな !」
『オー !』
いやいやいや 、俺訪問だって言ったよね 、武器ってなんでそんな物騒な話になってるの !?
「アディミオさん ! 穏便に 、俺は話し合いに来たんですから 、武器はしまってください」
「しかし……」
「大丈夫ですよ 。 だめそうなら助けを呼びますから 、ね ?」
「……わかりました 。 一刻して戻られなければ押し入りますからそのつもりで」
ちなみに一刻はだいたい一時間くらいらしい 。
「では行ってきます」
俺は固唾を飲んで見送ってくれるアディミオさんと愉快な仲間達に挨拶をして 、真っ直ぐに問題の廃屋へ近づいた 。
普通なら見張りの一人や二人くらいいるようなものなのに 、入り口には誰もいない 。
「すいませーん ! 誰かいらっしゃいますか ? すいませーん !」
木製の扉に付いていたノッカーを叩きながら声をかけて待つことしばし 、ようやく中から人が出てきた 。
狐の顔をした獣人さんは俺よりも背が高く 、引き締まった肉体をしている 。
腰には長剣が佩いてあるところを見ても強そうだ 。
いかんせん若い衆と言うだけあって気迫は圧倒的にアディミオさんに劣る 。
「誰だお前 。 ここはあんたみたいなオヤジが来るような所じゃない 。 見逃してやるから怪我しないうちにとっとと帰んな」
まぁ 、予想通り帰宅を促された 。
「いやね 、帰りたいのは山々なんですが 、貴殿方のボスはいらっしゃいますか ? ちょっとご相談とお願いがありやって参りました 。 お手数ですが取り次ぎをお願いいたします」
「はっ 、ふざけんなよオヤジ ! なんでガルさんを呼んで来なきゃならないんだよ 。 冗談も大概にしろよ」
「そうですね 、わざわざお呼び立てするのもなんですし 、案内して頂けますか ?」
「はっ 、それこそ「あっ 、もしかして私のようなオヤジをアジトに入れるのが怖いとおっしゃる ?」ふざけんな !そんなわけあるか !」
「ならなんの問題もありませんよね ? それとも貴殿方のボスは実は狭量でいらっしゃる ?」
「っ ! てめぇいい加減に「やめろ 、ガイスト」ウォーリアさん ! しかしこいつが !」
狐人のガイストさんの後ろから現れたのはシベリアンハスキーに似た容姿の獣人さんだった 。
ここはモフモフパラダイスですかね 。 どうせなら綺麗な女性の獣人さんの方が……うおっ ! 今悪寒が走った !
「初めまして、私はカズナリ・オキタと申します 。 貴殿方のボスのえ~と 、ガル殿にお会いしたいのですが 、取り次ぎをお願いできませんでしょうか ?」
「カズナリ・オキタ ? ……聞いたことがない珍しい名前だな 。 ここがどこかわからずに来たわけではなさそうだな 。 ガルは今お楽しみ中なんでな 、出直してこい」
「そうですか 、なら待たせていただきますよ 。 はいこれ 、お土産です」
事前にお城から用意してきた焼き菓子の詰め合わせが入ったバスケットをガイストさんに押し付けてさっさと建物へ踏み込んだ 。
外装の寂れ具合から見て 、内装も荒れているかと思いきや 、きちんと修繕が施されているようだ 。
良かった普通の家だ 。 表現がおかしいが明かりもついているし 、おどろおどろしくなくてほっと安堵の息をつく 。
室内は酒場の黒猫亭のような対面キッチンとカウンター席 、丸いテーブルには数人の獣人さんが酒を飲みながら陽気に騒いでいたが 、俺の入室と共に静まり返った 。
見られてる 、めっちゃくちゃ見られてる !
「おい 、なんで部外者がここにいるんだよ」
エールの泡がついた木のコップをガン ! っとテーブルに叩きつけた男がウォーリアさんを非難した 。
「ガルに用があるらしい 。 そうだろう ? 救世主殿 ?」
ウォーリアさんはそう言うとこちらを振り返った 。
「おや 、お気付きでしたか」
「まぁな 、どうせアディミオの差し金だろうがガルはそう簡単にはくだせないぜ ?」
ありゃま 、思いっきりバレてらぁ 。
「なんだと ! あの野郎 、また攻めて来やがったのかよ」
アディミオさんの名前に殺気を漂わす獣人さん達 。
「なんだか色々と事情がありそうですね」
「あぁ 、アディミオは俺達の宿敵だからな」
アディミオさんよ 、なんか話が違うんですけど !?




