米袋。
新年明けましておめでとうございます。今年も作者、本作品を宜しくお願い致します。
えーと、小麦、卵、ナッツが少々。
王子神様の教皇様も姫神様の教皇様も見事に腕の一部分、食材を試した付近がアレルギー反応で炎症を起こして見事に腫れ上がった。
アレルギー確定ですね。
「はい、皆さん良いですか? 教皇様の腕を見てください。 皮膚が赤くなった食材があります。 これがアレルギーといって身体が食材に対して拒否反応を起こしている証拠です」
実際には本来ならばアレルギー反応は過敏性反応とも呼ばれ、通常は無害な筈の物質に対して身体を守るための免疫システムが異常な反応を示し、人体に様々な症状をもたらすそうですが、異世界の技術的に説明が難しいと思いますので割愛。
とりあえずこんな病気もあるんだよ。 くらいの認識で大丈夫でしょう。
「これは人によって炎症を引き起こす要因が違います。 反応が出る人もいるし、出ない人もいます。 反応がある人は反応に強弱の差が有りますが、反応が強く出る方は最悪の場合死に到ります」
俺の説明に真剣に耳を傾けていた者達が反応次第では死に到ると聞いた途端に一斉にどよめいた。
それはそうだ。 まさか謎の病が普段何気なく食べている主食だったんだからな。
「そっ、それで私達はあ、あれ何とか「アレルギーです」アレルギーを防ぐにはどうすれば宜しいでしょうか?」
まぁ気になるよね。 教皇様達のお世話をする方の一名なんでしょう男性が聞いてきました。
自分達の上司の今後の世話についてですしね。
「そうですね、まず摂取しないことが大切ですね。 それからなるべく反応が現れる人は原因となる物質に触らない事です」
「そんな!? では主食となるパンすら食べることが出来ないでは有りませんか! 小麦を使用せずに食事の用意は難しいのでは有りませんか?」
「そうです。 避けていただくしか有りません。 教皇様方は特に反応が強いご様子です。 今回は美枝子、聖女様が好意で治癒魔法を施行してくれましたが、いつでもいらっしゃる訳では有りませんから」
確りと今回の美枝子の行いが善意から来たものでそうそう簡単に何度も助けてくれるなんて思わせてはいけないのだ。
人間という生き物は自分達に有益をもたらす人材を力や権威を笠に着て囲い込んできた。
「なっ、なら聖女様に教会へ居ていただければいつでも、ヒッ!」
男が発した自分本意な言葉に殺気を飛ばす。
威圧に耐えられなくなったのだろう。 男は白目を向いてその場に倒れ込んでしまった。
良く見れば顔面蒼白で口からは泡まで噴いている。
う~ん、普通に睨んだだけだったのだがこれ程までに効果があるとか、今後は少し脅しかたも考慮する必要が有るかもしれないな。
「とにかく俺は美枝子にこれ以上負担を強いる事はしません。 確りとこれから教えることを守り再発防止に尽力して下さい。 いいですね?」
先ほどの男とは当社比率では比べられないくらいの弱い威圧を室内にまだ残っている連中へ向けておく。
何人か青ざめて倒れかけていたが、俺知らね。
しかしこの威圧は加減が難しいな、なるべく多発させないようにしないとな。
その後もアレルギー談話を続ければ先ほどまでとは比べられないくらい真剣に話を聞いてくれた。
はっきり言ってそれまでは美枝子を良いように利用しようとする気配がしていたのだか威圧して良かった良かった。
「小麦とは違う主食となる穀物を後で調理方法と共に届けます。 こちらの世界でも育つかはわかりませんが育ててみましょう。」
それだけ告げて美枝子をタマ様(一体今で何処にいたよ!?)に頼んで王宮へ送り届けてもらい、俺も丘の上に建つ屋敷へ戻り素早く地球へ続くエレベーターに乗り込んだ。
車を飛ばして自宅へ戻り今年採れた新米の米袋を担ぎ出した。
米所の強みだなこれは。
ずっしりと腰に来る一袋三十キロ程の米を三袋ほど後部座席に乗せると、重みで車体が沈み込む。
ついでに大型ショッピングセンターを回り、三合の米を炊ける土鍋を購入してエレベーターに運び込んだ。
タマ様は蒲鉾と離れがたく屋敷に留まってくれていたので馬車の荷台に米袋と土鍋、それに俺も乗り込んでこれをどらちゃんに運んでもらうことにした。
これが出来ないとオプションに考えているドラゴンの送迎車が使えない。背中に座席を作るのは揺れがひどいからな。
翼や首、尻尾を動かす度にがたがた揺れるし、飛びづらいようで飛行が安定しない。
降下する際はジェットコースターの一番高い場所から直角に降りるような感覚なのだ。
俺は嫌だ。心臓に悪い! ジェットコースターは苦手じゃないがドラゴンの背中は嫌だ。
ピンク色の前足で馬車にくくりつけた鎖をもって飛んで行く空の旅は揺れはするが概ね順調。 乗り場の改良版必要だが背中より遥かに快適だ。
空の旅を楽しんで教会の中庭に降りた俺は持ってきた米を厨房に運ばせる。
教会の厨房は昔ながらの土間に煉瓦を積んだ火元がある。
火力を尋ねれば魔導式だと説明された。 火力どころか給水に下水、生ゴミ処理も全て魔導式だとかしかも暖房や照明もだと! 自慢げに言っているが魔導式とは何ぞや?
説明を聞くたびに俺のこめかみがピクリピクリと痙攣と痛みを訴え始めた。
魔導式とはつまりいま俺の腕に嵌まっている腕輪に付いている魔石を利用して家財道具を使用する方法らしい。
しかも魔石はある程度使用すると石に内包された魔素が枯渇するため定期的に交換するか、大量の魔素を使用して魔石に魔素を流し込み復活させなければならないらしい……。
現在は魔石もあまり採掘されず、リサイクルが主流だそうな。
リサイクル、つまりは魔素を大量消費する活用方法。
ふふふっ、しかもこの魔導式が世界中で現在主流だと?
ふざけんなぁー?只でさえ不足している魔素をそんなんで消費したら枯渇して当たり前だ。バンバン魔素を消費するだろうが!
怒りにプルプル震え出した俺の様子に気が付いた一人が声を掛けてきた。
「き、救世主様? いかがなされましたか?」
「そうですね、余りの衝撃に目眩が……まず魔石を使った魔導式を廃止しましょうか」
「そんな!? 魔導が使えないなんて! どうやって生活しろとおっしゃるのですか!?」
はぁ、マジでこいつら危機感が足りないんじゃないのか?
「まず第一に貴殿方は本当にこの世界を存続させる積もりがあるのですかね?」
「当たり前だろう!」
俺の言葉に噛みついてきた明らかに高位聖職者だろう。恰幅のよい男性に詰め寄る。
「魔導式をこのまま使用し続けたいと?」
「当たり前だ! 魔導は全ての生活の基盤! やめろと言われて直ぐに撤去できる物ではないわ!」
ぶくぶく肥えた身体を反らせて顔を赤面させて唾を吐きかけんばかりに詰め寄る男。
「ほう、それは皆さんも同意見ですか?」
視線を走らせると明らかに視線を反らすもの、顔を伏せる者が大半だ。
「だってなぁ、魔導式をが使えない生活なんて出来るわけないよ……」
「だよな、どう考えても無謀だろう。 なぁ? そう思わねぇ?」
「いくら救世主様の御言葉でもなぁ……。 ふっ、はっきり言って無理だよなぁ?」
どっぷり魔導式に頼りきった生活をやめろと言われて、嘲笑混じりに次々と発せられる悪意。
「ほう? では今の生活を維持した上で世界を救え、と?」
「だって救世主様だもんなぁ?」
「ええ! 良いようにして下さいますわ!」
救世主だから俺が世界を救うのがさも当然だと笑う目の前の者たちに嫌気がさした。
ふざけんな! 世界を救ってほしいと頼みながら、自分達の今の生活を棄てるつもりは無いと言う。
そんな世界をわざわざ苦労して救うほど俺はお人好しじゃぁ無いんでね。
「はぁ、帰らせてもらう。 もう立て直すなり滅ぼすなり好きにすれば良い。 俺は手を引かせてもらう」
自分の国を自分達で守るつもりがない者たちになんてはっきり言って付き合いきれない。
「そんな!? 我々を見捨てるおつもりか! それでも救世主なのか! 恥を知れ!」
「そうだそうだ!」
扉に手をかけた俺の背中に容赦なく浴びせられる罵詈雑言。
「そうか、なら痴れ者に頼るしか出来ないお前らは一体なんだろうな。 俺は降りる。 そうだ。 その袋は米と言う穀物だ。 それなら教皇様達はアレルギーを起こさない。 好きにしろ」
口汚くて申し訳ないが、こいつら相手に敬語を使う気にはなれない。部屋を出るなり真っ直ぐどらちゃんに乗り、王宮へ向かう。
「王様へ一応連絡は入れなければならないだろうなぁ。 予定より早いがあっちに戻ろう……」
ドラゴンの背中にすがり付きながら、俺は城へと向かい。
俺が去った後の教会に起きていた激震には気が付いてすらいなかった。




