強敵現る?
天馬のひく馬車に悪路なんて物はなく移動は快適だった。
普通の馬車のように尻が痛くなる事も無ければ、蛍光ピンクのドラゴンから墜ちる心配もない。
なんだよ。こんな良い移動手段があるなら勿体振らずにはじめから出して欲しかった。
窓に貼り付き外の景色にはしゃぐ二人の様子に、今後の計画にこの天馬の馬車を盛り込むことにして胸元に隠し持っていた手帳とボールペンを取り出した。
ふむ、基本プランは通常の馬車で天馬の馬車は追加オプションでいいかなぁ。
ドラゴンにゴンドラの背中に安全を確保出来るように席を設けて追加オプション化するのもスリルを求める人には良いかも知れないな。
とりあえず俺の馬車は天馬馬車一択だ。
ドラゴンも普通の馬車で鋪装されていない道など俺の繊細なお尻が崩壊してしまう。
天馬はゆっくりと降下して行くと真っ直ぐに城の正門の前に車輪を停めた。
御者が扉を開けたので真っ先に降りると、続いて出てきた美枝子が降りるのを支える。
蛍は目の前にそびえる正門の扉の迫力に一瞬たじろいだものの、俺の右手を掴んでスカートを汚さないようにおっかなびっくり降りてきた。
次の馬車の為に乗ってきた馬車が走り去るのを見送り、案内の執事のような壮年の男性に促されるままに歩いて行く。
なぜかきらびやかな色とりどりのドレスを纏った貴婦人や紳士が流れる様に移動していく方角と違う場所に引率される。
「ねぇ、パパ? みんなあっちに行くんだけどどこに連れていかれるの?」
半歩前を進む俺の袖を引くと蛍は自分の口許に手を当てて声を潜めて聞いてきた。
「ごめん。 わからないや。 大丈夫だと思うけど」
「……使えなっ……」
グサッ! 娘が放った言葉の凶器が突き刺さる、まじで泣いてもいいですか?
「こら蛍、一成さんも大変なんだからね? そんなこと言わないのよ?」
嗜める美枝子の優しさが身に沁みる。
途中で階段を登らされて案内された部屋には国王陛下と王太子殿下、ご正妃様がアンティークな丸いテーブルでお茶を嗜んでました。
「おお、オキタ殿お待ちしていました。 もうすぐ我らの出番でな。 間に合って良かった。 そちらが奥方と御令嬢ですな? 私はこのグローリア大陸トリスティアバイン王国の国王ザナン・サナル・ウェルサルドゥエル・ドラスティック・サンタルス24世だ。 こちらは正妃のバネッサ。 そして王太子の……」
「ドミニク・サナル・ウェルサルドゥエル・ドラスティック・サンタルスです」
陛下の紹介にバネッサ陛下はドレスの裾を優雅につまみ上げるとお辞儀をしてみせた。
王様に紹介されてこの前の反抗期王太子殿下が優雅に立ち上がると胸元に手を当てて一礼した。
「改めましてカズナリ・オキタです。 ドミニク殿下、バネッサ陛下。 こちらが妻のミエコと娘のホタルです」
「お会いできて光栄です。 ザナン陛下、皆様。 いつも主人がお世話になっております」
小さく王妃様の真似をしてお辞儀をすると、ドミニク王子を見詰めたまま惚ける娘の足を踏みつけた。
見とれる気持ちはわからないわけではないが、蛍よ、美形に弱すぎる! 男は顔じゃない!
「痛っ! は、はじめまして」
踏まれたことで正気に戻った蛍が慌ててお辞儀をするとすると、ドミニク王子がゆっくりと蛍の前にやって来て地面に片膝を着くと蛍の右手の指先にキスをしやがった。
こら王子! 娘に触るな!
「ホタル嬢、私が今宵貴方のエスコートをする栄誉を賜りました」
「はっ、はい。 宜しくお願いいたします。 王太子殿下……」
美形に口付けを貰い舞い上がった娘は恥ずかしさに頭から湯気が出そうなほどに赤面している。
そんな蛍の様子にドミニク殿下は困ったように立ち上がると更なる追撃を放った。
「どうかドミニクと御呼びいただけませんか?」
おい! こら待て!
「ど、ドミニク様?」
「えぇ、とても美しいお声ですね。 まるで鈴が鳴るようだ」
「えっ、そんな……ありがとうございます」
二人だけの空間を作り始めた二人の様子に苛立つ俺を宥める美枝子と、顔を見合わせて渋面を作るザナン陛下とバネッサ陛下。
「ど、ドミニク? そろそろ会場に向かうからな、しっかりとホタル嬢をエスコートするのだぞ?」
「えぇ、お任せください。 ホタル行きましょうか」
ザナン陛下にドミニク殿下は微笑みを浮かべて答えると蛍を促し始める。 しかもどさくさに紛れて呼び捨てとはけしからん!
「はい! ドミニク様!」
蛍! ドミニク殿下に向けてそんな良い笑顔を向けるんじゃない! ドミニク殿下も赤面するなぁー!
「オキタ殿、少々お話が……」
「えぇ、予想外です。 私も是非ご意見をうかがいたいものですね?」
出合って数分で仲良く部屋を出ていく娘と馬の骨に殺気をのせて睨むが、ピンクのオーラに阻まれていちゃラブな二人に届かない。
「はぁ、厄介な事になりそうですね」
「とりあえず行こうかの」
ザナン陛下はバネッサ陛下をエスコートして歩き出したので見よう見まねで美枝子をエスコートをする。
極度の恥ずかしがりや民族出身者としては是日学びたいほどスマートなエスコートだった。
流石は異世界。 流石王様。
会場にある二階へと続く階段を美枝子を支えながら音楽隊の奏でる曲に合わせて降りていく。
最後に入場したドミニク殿下が蛍を連れて会場の中央まで迷わず進むと、演奏を始めた楽団の刻む多彩な音感に合わせて何度か聞き覚えがある曲を奏で始めると、蛍をリードして踊り出した。
蛍はダンスなんて小学校で踊った芸能神楽か、よさこい位しか踊れないのだ。
その蛍を違和感無くリードするドミニク殿下。 恐るべし!
「陛下……」
「ドミニクには婚約者が居る。 婚約者を放置して駆け落するなんて無理だ」
「その言葉に偽りは有りませんね?」
「青春ですわぁ」
「若いって素晴らしいですね」
囁き会う夫達の後ろを歩きながらバネッサと美枝子はいつの間にか一気統合したようで、微笑ましい若者達の様子とそれに振り回される夫達を愛しく見詰めていた。




