お迎えの天馬馬車
待ち構えていたらしい御針子さん達に燕尾服やらモーニングやらスーツやら今まで一日のうちにこんなに着替えをしたことが無いって位着替えさせられること半日以上。
どうも、ほぼ幽鬼とかした俺はめちゃくちゃ高そうなソファーでぐったりしてます。
もう疲労困憊、美枝子や蛍と服を買いに行ったとしてもここまでぐったりしたことはなかったぞ!?
やっと解放された為に目の上に腕を乗せて暫し休憩中だったが、どうやら寝こけていたようだ。
まさか涎垂れてないよな?
ミアさんの話では美枝子のドレスが決まったらしくそれにあわせて紫紺の軍服みたいなデザインの服を着せられた。
良い大人になって他人、しかも女性に服を着せてもらうはめになろうとは……。
どちらかと言えば脱がす方が得意なんだがなぁ。
前髪を整髪料で後ろへ撫で付けながらおかしな所がないかを確認していく。
あっ、くそ。 また白髪だ。 抜くと剥げる要因になるらしいので根本から切って貰った。 そろそろ白髪染めに切り替えようかな……。
そうこうしている内にどうやら城へ出発する時間になったようで、呼びに来たミアさんに付いてエントランスへ向かう。
エントランスで今日の今後の予定についてミアさんと打ち合わせをしていたら階段の上に女神が舞い降りた。
菫色の光沢ある胸の下で切り替えたデザインのドレスを纏った美枝子は目が合うと花のような笑顔を浮かべて頬を赤く染めていた。
丁寧に編み込まれた髪を結い上げて同じく紫色の生花で飾られた姿に惚れ直すなって方が無理だろう。
エントランスの真ん中にでんと設置されている昇り口が左右対称に二ヶ所に別れている階段を、ゆっくりと降りてくる美枝子を迎えに階段を駆け昇り二段下から彼女に向かって右手を差し出す。
「お手をお借りできますか、マダム?」
キザなのも、柄に合わないのも十分承知しながら美枝子を見上げる。
美枝子がこう言った雰囲気が好きなことは知っているし、俺さえ我慢すれば良いだけだ。
「うふふっ、えぇ。 お願いします」
ふんわりと添えられた左手には俺が贈ったプラチナとゴールドの結婚指輪が光っている。
やり過ぎかなぁとは思ったが左手の指輪近くに軽く口づけを落として美枝子を見ると、顔を林檎のように真っ赤にしていた。
やべっ。可愛い!
「ちょっとパパ? いちゃつくのは構わないんだけどT.P.Oを考えてくんないかな? 見てるこっちが恥ずかしいし、階段を塞がれると迷惑なんだけど?」
反対側の階段の手摺にもたれ掛かるようにして妖精がブスくれている。
エメラルドグリーンの光沢ある生地を使ったこちらも胸の下から切り替えるタイプのドレス。
美枝子のドレスとデザインが似ているから今の流行みたいな物かもしれない。
ハーフアップにされた黒髪に、ピンクの薔薇と黄色いマリーゴールドに似た花が飾られた姿は美枝子が若い頃にそっくりだ。
「なによ?」
可愛く頬を膨らませる愛娘はまるでハムスターみたいに愛らしい。
「いやぁ、似合うなぁと思ってな。 どうだ、念願のお姫様になった感想は?」
そういえば、三歳くらいから童話のアニメを見ながらいつか王子様が迎えにくるの! と言っていたもんだ。
誕生日に買ってあげた水色のプリンセスドレスとティアラを着てはしゃぐ映像をおさめたフィルムはどこにしまったっけかな。
「もう! そんな昔の話を蒸し返さないでよね! そんなの幼稚園の頃の話じゃない!」
両腕を組ながらフン! とそっぽを向いた蛍の耳が真っ赤になっている。
「照れるな照れるな。 プリンセスほたるちゃん?」
「パパなんてだいっきらい! 今に見てなさい! イケメンの彼氏を作ってすぐに純白のウェディングドレス着て見せるんだから!」
おふっ、見たいけどまだ早い! 絶対に嫁になんてやるもんかぁ!?
「ごめん! 蛍、からかって悪かった! 落ち着こう。 話し合えばわかる!」
「嫌よ!」
「蛍ちゃーん!?」
ヤバイ涙が出ちゃう。 ほたるー!
「あらあら。 年頃の女の子をからかった罰ね。 エスコートしてくれるんでしょ?」
階段でうちひしがれている俺の手を取ってクスクスと笑いながら楽しそうにしている美枝子を改めて階下のエントランスまでエスコートした。
「オキタ様、そろそろ出発しませんと……」
ミアさんの進言に執事の竜人が二人がかりで両開きの扉をあけると二頭の白馬に繋がれた豪華な馬車が待っていた。
白い箱馬車には金細工が施されてどこかで見覚えがある紋章が彫られている。
外装も綺麗だし、深紅の天鵞絨が張られた内装も豪華絢爛。
白馬も格好が良いけどもさ、明らかに背中から白鳥みたいな羽根が生えてませんか?
「きゃー! ペガサスだ! ママ! ペガサスよ! 本物みたい!」
「本当ね! 最近の製作技術は凄いわね。 ペガサスまでリアルに再現出来ちゃうんだから」
いや、それ作り物じゃないと思いますよ? だってさ、わざわざ作り物を作るなら足元に馬糞とか作らないよね?
羽根だけ特殊で作ったにしてはあんなにバサバサ動かないでしょうが。
「さぁ、皆様お早く」
ミアさんに急かされて馬車に乗り込むと、バサリ、バサリと羽音を響かせて暫く地面を滑走した馬車がふわりと浮き上がった。
「きゃー! 飛んでる! ワイヤーどこにあるの!?」
窓を開けて身体を乗り出す蛍を力ずくで何とか車内に引き戻す。
「危ないから! 落ち着いて!」
「ちょっと、パパ! どこさわってるのよ!? はーなーせー! この変態親父!」
「ちょっと蛍ちゃん。 それ酷くない!?」
「本当に良くできてるわねぇ。 親子仲良しで良いわねぇ」
のほほんと外の景色を眺めながら美枝子が俺と蛍の攻防を楽しんでいるようだ。
おいおい、頼むからドラちゃん見たいに落とさないでくれよ?まだまだやりたいことは山積してるんだからな。




