異世界家族旅行2
「ママ、なんかエルフとドワーフ、獣人に竜人まで見えるんだけど、幻覚?それとも特殊メイク?」
「そうねぇ、ママにも見えるから特殊メイクかしら?」
後ろでこそこそと話をする妻子の様子は面白いので一先ず放置しておこう。
「タマ様は?」
「現在王宮から御呼びがありこちらにはいらっしゃいません」
近くにいたエルフのメイドさんに声を掛けると、どうやらタマ様は居ないらしい。
「ママ、あれ何語? これってドッキリにしては手が込んでない?」
「何を言ってるんだよ蛍、普通に日本語だろう?」
「「いやいや、日本語じゃないし! 」わよ?」
何を今更、と振り返れば妻子に全否定された。 困惑気味のエルフさんに聞いてみよう。
「日本語ですよね?」
「いえ、私たちには奥方様や息女様がお話になられていらっしゃるお言葉は解せません」
はい?俺は無意識でこちらの言葉を話してるの?
「タマ様からこちらの腕輪をお預かりしておりますのでオキタ様からお二人へお渡しください。 言語翻訳機能と御二人の安全を考慮して緊急時にこの屋敷へ自動転送される魔方陣が刻み込まれた腕輪です」
エルフさんが天鵞絨貼りの宝石箱から取り出したのは細い華奢なデザインの金色のブレスレットだった。
細い地金には緻密な彫刻が、彫り込まれ小さな赤い石と深い青色の石が嵌め込まれている。
「美枝子、ちょっと左手貸して?」
「なぁに? まぁ綺麗なブレスレットねぇ」
差し出された左手にするりとブレスレットを通すとサイズが自動修正されるのか、自然とは外れない大きさまで縮んだ。
「これなぁに?」
「魔法のブレスレットだってさ。 自動翻訳と危険に巻き込まれると自動的にこの屋敷へ転送されるんだってさ」
しげしげと左手首に輝くブレスレットを嬉しそうに撫でている。
「改めまして本日は良くいらっしゃいました。 オキタ救世主夫人、私はタマ様から皆様がこちらの世界で快適にお過ごしいただけますように皆様のお世話をさせていただきます。 エルフのミアと申します」
「まぁ、こちらこそいつも主人がお世話になっております。 一成さんの妻美枝子です。 ミアさんですわね。 短い間ですがお世話になります」
改めて挨拶を述べたミアさんの言葉を理解できたのか、美枝子は一瞬驚いて見せた物の直ぐに笑顔で当たり障りのない返事を返した。
「えっ!? ママまで知らない言葉を話し始めたんですけど!?」
何やらミアさんと話し込み始めた美枝子から離れると、俺は警戒する蛍の左手にブレスレットを滑らせる。
「ちょっとパパ! なに勝手に腕輪を着けてるのよ!」
「まぁまぁ、ほらあちらが今日からお世話になるミアさんだよ。 それとこの御屋敷の従業員さん。 さっきまでは何を言っているか解らなかったんだろ? 今はどうだ?」
まだ話題の尽きない様子の美枝子とミアさんを示す。
「えっ、あれ? なんかわかるかも? なんで?」
「このブレスレットのおかげだな。 自動翻訳と緊急時屋敷への自動転送の魔方陣が組み込まれているらしいぞ?」
まじまじとブレスレットを見詰めると蛍が、視線を上げる。
「魔法ねぇ、本当に手が込んでるね。 本物見たい」
「だから言っただろ? 異世界だって、全部本物だよ。 エルフもドワーフも獣人も竜人も着ぐるみじゃなくて全て本物だからな?」
「わかったわかった。 本物って事にしておく。 アトラクションなら精一杯楽しませて頂きますか!」
いや、絶対にわかってない返事ですよ? 蛍さん。
「オキタ様、本日宮中にて救世主ご夫妻とその御令嬢であるホタル様をお招きして夜会を催されるとの事です。 今後は仕立屋をよびオーダーメイドでミエコ救世主夫人とホタル様のドレスをご用意致しますが、本日は急なご出席のため既製品でご用意させていただきました。 早速ですが針子と仕立屋をご準備して参りますので御二人にはドレスの試着と採寸、オキタ様にはタキシードの手直しのため試着と採寸をお願いいたします! さぁ! 皆さん!」
「「「「はい!」」」」
ミアさんの号令に次々とメイドさん達が動き出した。
「ミエコ様とホタル様はこちらへ」
「えっ、ちょっと!なんなの!?」
「うふふ、ホタル、大人しくご案内頂きましょう? ドレスを作っていただけるそうですわよ? ドレスなんて一成さんとの結婚式以来だわ! 楽しみねぇ」
「へぇドレスかぁ、そう言えば聞いたこと無かったけど結婚式のドレスって白?」
「えぇ、あとお色直しで綺麗な水色のドレスを着せて貰ったのよ。 両親への手紙を読むときなんか、私よりも一成さんが号泣しちゃって私が泣く暇無かったもの」
うわぁー! 美枝子! 恥ずかしいからやーめーてーくーれー!!
「へぇ、詳しく教えてー?」
恋に恋するお年頃な蛍の興味を引いたのか若い頃の初デートのあれやこれをにこやかに語る美枝子から俺の黒歴史を娘に暴露されると言う羞恥プレイ。
いっそ一思いに殺ってくれ!生殺しだよ。
「うふふっ、家族仲がよろしいのですね。 羨ましいですわ」
犬の獣人メイドさんに戯れ付きながら遠ざかる二人を見送りミアさんに導かれて採寸部屋とやらへ移動する。
「あぁ、仲は良いと思うよ。 ミアさんのご家族は?」
「エルフの里にやって来た人族だった主人に惚れて下界に下りましたが、主人は二十年ほど前に老衰で亡くなりましたわ。 繁殖力も弱いので子供もおりません」
見た目十代半に見えるミアさん、やはりエルフの寿命は長いのでしょうか。
二十年前に老衰でって、一体いくつなんだこの人。
「うふふっ、エルフは長寿だとだけ申しておきますね。 疑問が顔に出ていらっしゃいますよ?」
そんなに分かりやすく顔に出ていましたか。
「寂しくは、ありませんか?」
美枝子や蛍が居ない人生……考えただけで恐怖で震えてくる。
エルフの仲間のところへ帰ろうとか考えなかったのだろうか?
「そうですね……寂しくないと言えば嘘になってしまいますが、ここにはタマ様や同僚が沢山おりますし、それに私も老衰して主人の隣に眠りたいですから」
儚げに微笑むミアさんはとても美しかったです。




