会社都合でリストラされまして。
「いーやー! 落ちてる!」
真っ青な空、茶色が目立つ大地をしたに見ながらパラシュートなしで現在落下しております。
「なんで俺がこんな目にぃー!?」
はじめまして、俺は沖田一成と言う者でして、絶賛落下中のご挨拶失礼します。
なぜ落下中かと言いますと数日前に遡るわけですけどもね?
「すまん、沖田。せっかく前に勤めていた仕事をやめてこちらに来てもらったのに、こんな結果になってしまい本当に申し訳無かった!」
人生三十八年、苦節十五年、勤めていた旅行代理店の社長で幼馴染みの九重明の土下座と共に何の前触れもなく今日、十五年勤めた旅行会社を倒産リストラされてしまいました。
出来ちゃった結婚を気に転職した仕事とは言え長く勤めれば愛着も沸きます。あっさり切られたけど……。
出来ちゃった結婚で産まれた俺のお姫様である娘の蛍も十五歳になり、最近ではすっかり反抗期に突入してしまったらしく、遅くまで仕事をして帰る度に「パパ、臭いからあっちいってくんない?」と仕事で磨り減ったライフをごっそり削ってくれやがるが、それなりに幸せだった。
「すまん! うちの会社。倒産することになった」
出勤した俺の前でいきなり土下座と共に告げられた明の言葉に唖然としながら、立ち直る暇すら与えられずにあっと言う間に無職になってしまった。
それなりに仕事は取ってきていたのに、どうしてそうなったんだろう。
大した理由も聞かされずに解雇になった俺は今後の生活の事で一杯だった。
そうだ。俺には護るべき愛妻と愛娘がいるのだ。
小遣いをコツコツ貯めたへそくりを駆使して乗り切るにしても、まずはハローワークで失業の手続きをしなければ、手当だって貰えない。
会社都合だから自主退社より早く手当を支給してもらえるはずだ。
しかし四十手前になってまた履歴書や職務経歴書を書くことになろうとは……。
募集年齢の制限がある仕事も多いらしいし、この歳で就職活動はきついなぁ。
明の会社から私物の入った段ボール箱を持ちながら今後の生活について考えていた俺は、足元に落ちていた印刷物に気が付かず、踏んだ瞬間視界が反転してしまった。
ガシャガシャーン!とけたたましい音を響かせて段ボールの中身が宙を舞い、転倒した俺の上に落下する。
「痛ってぇ!一体なんだっつうんだよ!」
頭の上に乗っている空の段ボール箱を八つ当たりで道路へ叩きつけた。
「はぁ、片付けるか」
いつまでも道路へ私物を散乱させておくわけにもいかない。
自ら投げ棄てた段ボール箱を拾うと、次々に私物を拾っては放り込む。
転倒の原因となったチラシを拾い上げると、何かの広告の裏紙に手書きで何やら書いてあった。
良く見れば広告は蛍の産まれた年に発行された物だ。
裏面に記載された手書きの文字は所々汚れや滲みで読めないが、営業関係の求人らしい。
年齢も、性別も問わず。意欲があり、なぜだか字が読めることと書いてある。
なんの冗談だよ。現代日本で字が読めないのは、何らかの障害があって、勉強をしたくても出来なかった者か、幼い子供の位だ。
良く良く確認すれば、この求人が書かれたのはここ最近らしい。
「応募の面接は以下の住所で行いますので直接お越しください?」
普通、電話で日時を決めたり、紹介状やら履歴書やら経歴書などがいるのに、一切書かれていない。
「どこだよこの住所」
持っていたスマートフォンを取り出して住所で検索をかけ、現在地を位置情報で指定すると、三百メートル程の位置らしい。
まぁスーツも着てるし、話だけでも聞いてみよう。
思い立ってたどり着いたのは、歴史が感じられる御屋敷だった。
「ここって……」
お化け屋敷として有名な御屋敷だった。
石壁に覆われた広い庭園を有する屋敷の正門が開いている。
玄関にたどり着くなり、荷物を端へ寄せて見えない位置に置くと、使い込んだ革の鞄のみを手にノッカーを数回叩いた。
「はぁ~い!」
元気な声が聞こえて勢い良く扉が開いた為に避けきれずに外開きの扉に頭を打ち付けた。
本当についてない。
「おっ、もしかして! 求人をみて来てくれたかの? まぁまぁ入った! 入った!」
どうみても幼女にしか見えない人物がグイグイと腕を引っ張って屋敷の中へ俺を引き込んだ。
「あのぅ、にさん聞いても良いですか?」
幼女の頭に猫耳が乗っている。
案内しようと俺に向けている尻のあたりからはユラユラと長い尻尾がふさふさと揺れている。
「これ良くできてますね。まるで本物みたいだ」
「ああん!」
ついつい無意識で触ってしまった。スベスブして極上の触り心地に撫でていると、プルプル震えていた、幼女が甘い声をあげて崩れ落ちた。
「えっ、すいません。大丈夫ですか!?」
声をかけると、涙目でこちらを見上げてくる。
「いや、くぅ。尻尾……放して、うっ、下さらんか」
懇願されてまだ尻尾を握ったままだった事に気が付いた。
「すっ、すいません。あまりに出来が良かったものでつい」
いくら作り物でも身体の一部を無断で触るとか立派な痴漢だろう。
俺は幼女に興味はない!
「えっと、この尻尾が見えるのか? もしかしてこれも?」
ぴょこぴょこと動く耳を、指差しながら聞いてくる。
「三毛の猫耳のカチューシャですか。動くなんで最近はなんでも高性能で驚きますよね。本物かと思いましたよ。いやぁ本当に良くできてる」
日本製だろうか。
「失礼じゃが、お名前聞いても?」
「ご挨拶が遅れてすみません。沖田、沖田一成と言います」
「オキタ殿。貴方のような者を捜していたんじゃ! 明日から、いや今日からでもこの館へ出向してくだされ!」
「えっと、はい」
右手をブンブンと勢い良くふられながら握手をかわして、書類らしい紙じゃないもの、これ羊皮紙ってやつか!? に署名させられると、書いた名前が光だした。
へぇ、今どきこんな発光インクまで売り出されてたんだな。
「あの、健康保険とか厚生年金なんかは?」
「うむ? すまんがよくわからん。個人雇用となるでな」
「なら健康保険の任意継続と年金等の手続きがあるので、明後日でも良いですか? 一応職業安定所にも顔を出したいので」
「構わない。よろしくたのむ」
俺は猫耳のコスプレ幼女と挨拶を交わすなり、本日一番の胃痛イベントに向かうべく家路についた。
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注意書き
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魔法の言葉は天安門事件




