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第九話 ラルフの書記

この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第五十三話のサイドストーリーになります。

先に本編 第五十三話、及び第十九話~第二十一話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。

 私は、ラルフ・コーエンと申します。ハイラム王国王立騎士団所属の騎士です。

 この度、訳あって王都の南に位置するイムの村に駐屯する事になりました。


 指令は、村及び周辺の治安維持。新人育成。村民自警団設立のサポートとなっております。

 また、その他の任務については指示があるまで待機。との事でした。


 若冠26歳の私に、この様な大役が任されるなど見に余る光栄で……。


 ……いや、そうではありません。

 これは、有り体に言ってしまえば左遷です。


 最近問題になっている、オークやゴブリンの被害から村を守るのは、騎士としての責務ではありますが。本音を言ってしまえば、安い金をケチらずに冒険者を雇えば済む話でしょう。


 2の月某日。


 先発隊10名を連れて、村へと出立しました。

 出立の儀がやけに華々しくて驚きましたが、私には、賑やかさが逆に嘲笑をかき消す為の物としか思えませんでした。


 村に着いてまず驚いたのは、村人の修学力の高さでした。

 ほとんど全ての村人に文字の読み書きができ、子供たちに至っては、まるで、商家の出であるかの様に計算ができるのです。


 その訳は、ほぼ、毎日行われている村長宅での勉強会にある様でした。


 講師を勤めるエルフ、ニードルス・スレイルは、独自の計算法『筆算』なる物を用い、意図も簡単に計算をこなすのです。

 さらに驚いた事に、数の少ない計算なら、諳じてしまうのです。


 私を含め、隊のほとんどの者が貴族であり、幼少期より教師が付いて学んできましたが。果たして、これ程の成果を揚げたでしょうか? いや、今なお、あの子供たちに遅れを取る者も少なくないでしょう。


 もしや、上役はこの事を知っていて、その重要性から騎士団を派遣したのでしょうか!?

 ……いや、そうだとするなら、私に与えられた任務との差が激しすぎます。謎は深い様です。


 着任3日目。


 この日は、村の自警団に剣を教えている者と面会する事になりました。

 雇われの冒険者崩れかと思いましたが、村長の話では村人であるらしい。

 恐らく、かつては冒険者であった者が引退し、村に帰って来たのだと思われます。


 しかし、私の考えは大きく裏切られました。


 私の前に現れたのは、どう見ても10代そこそこの少年でした。

 この辺りでは見かけない、幼さの残る顔立ちに細い腕。とても剣を振るう様には見えません。


 しかも、更に不可解な事が私に告げられました。

 この者、自らをウロと名乗った剣士は、なんと女性だと言うのです。

 言われて見れば、女性に見えなくもないのですが。いや、これは失言ですね。


 ともかく、この女性が剣技を教えているのは事実の様です。

 それに、人は見かけではありません。

 過去には、10代の頃から戦場にて、天才的な武功を上げ、『軍神』の名を馳せた者もいるのですから。西はボルドアの現子爵が、まさにそれですし。

 ……まあ、実際にこの目で見るのが確実でしょうか。


 ここで、予期せぬ事態が起こりました。

 私の部下と村の自警団が、「どちらの長が強いか?」と言う低次元の言い争いをしているのです。

 あまりに低次元過ぎて、軽く目眩がしたのを覚えています。


 ですが、考え様によってはまたと無いチャンスかも知れません。

 この少女が、どれほどの腕前なのか。知りたいと考えていましたから。

 それに、あの白い肌を斬りつけるのは、さぞや……おっと、これはいけない考えでした。


 そして、私と少女との試合が始まりました。

 部下の手前、真剣を使う事ができないのが残念ですが。まあ、良いでしょう。

 あの喉を打ち、嗚咽混じりの悲鳴を聴くくらいは神もお許し下さるに違いありません。


 ですが、ここでも予想外の事が起こったのです。


 私の渾身の突きが、意図も簡単にかわされ、更に反撃されるとは。


 もし、まだ不完全とは言え、部分的な身体強化ができていなければ、彼女の剣は私の胴を打ち抜いていたに違いありませんでした。


 思わず、反射的に頭を打ち砕きたい衝動に駆られましたが、かつての過ちを繰り返すほど私は愚かではありません。ここは理性が勝ちました。


 辛うじて勝利を拾いましたが、改めて世の広さを実感した一戦でありました。


 後日、私は衝撃の事実を聞かされる事になりました。

 あの少女は、剣士ではなく村の魔術師に魔法を習う見習い魔術師だと言うのです!

 では、私は、魔術師見習いの少女に剣で追い詰められた事になると言うのですか!?

 これほどの屈辱が、あるでしょうか?

 私の、積み上げた修行の日々とは?

 夢なら醒めて欲しい。しかし、足に残る過度な付加による筋肉の痛みが、全て現実だと告げているのです。


 3の月某日。


 あの少女とエルフの男が、王都へと出立しました。

 何でも、王立魔法学校に入学するためだとか。


 平民が、どこにそれほどの財を持っているのか解りませんが、もしかしたら、あの2人は訳あって身分を隠していたのかも知れません。

 だとするなら、この村自体が王国の秘匿とする何かなのかも!?

 いやいや、詮索は命を縮めるだけですね。

 ただ、別れ際に、あの少女の笑顔を見た時、彼女の悲鳴を聞きたい衝動に下腹が疼いたのは誤魔化し様の無い事実です。……ウロ、その名が仮初だったとしても覚えておきましょう。


 そして、彼女らと交換する様に、私の元に指令書が届きました。

 ああ、これで少しは気が紛れると言うものです。


 数日後に行われる、森での実戦訓練。

 目的は、ゴブリンやオークなどの殲滅やその他の危険要因の除去。

 まあ、今いるメンバーでは成果を上げるのは難しいでしょう。


 ですが、私には別の、重要な目的ができましたから。とても重要な。


『拝啓


 親愛なるラルフ様。

 貴方と逢えぬ日々が、私の中に悲しみを募らせおります。

 我が父、イプセンもまた、優秀な部下をあの様な僻地へと送らねばならなかった事を、心苦しく思っている様です。

 ですが、これもまた、神の与えた試練と思えば乗り越えた先にある物は光輝くに違いありません。


 そして、貴方の部下にビンセント・ベルガーがいるのも、神のお与えくださった好機に他なりません。


 森は深く暗く、訓練には事故が付き物ですものね。


 貴方が、訓練を終えてお帰りになる日を心待ちにしております。


 どうか無事、試練を乗り越えられます様に。


 遠く、王都の空より愛を込めて。


 ミア・カウフマン』

ビンセント・ベルガーとイプセン・カウフマンは第十九話から。

ミア・カウフマンは第二十一話に、その名前が登場します。

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