第八話 オークの長の最期
この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第五十二話のサイドストーリーになります。
先に本編 第五十二話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。
ココハ、ドコダ?
オレハ、ドウナッタ??
身体にのしかかる重みに耐えながら、様々な疑問が頭の中を巡っている。
一体、いつからこうしているんだ?
それよりも、今までオレは何をしていたんだ??
モヤがかかった様だった頭が、急激に鮮明になって行く。
……そうだ。
オレは、オレたちはゴブリン共と闘っていたんだ!
この、ヒト族が『フォーンの森』と呼ぶ場所の覇権を争い、オレたちオーク族とゴブリン族は古くから幾度となく闘ってきた。
時には、協力してヒト族と闘う事もあったが、それが終われば、再び闘う。
それが、オレたちの宿命だった。
目をつむれば浮かぶ、仲間たちの姿。
あいつらは、今、どこだ? 無事だろうか?
……ん?
今、一瞬、何かが見えた気がする。
仲間たちに混じって、黒い煙の様な何か。
あの場面にも、この場面にも。
常に、オレの側にある黒い煙の様な物。
それが何だったのか、どうしても思い出せない。
そうだ、この煙が来てから、オレたちは闘いに勝つ事が多くなったんだ。
ゴブリン共が、まるで虫けらの様だった。いやいや、痛快だった。
そして、美味かった。
魔力の多いヤツが特に……。
美味かった!?
お、オレは、ゴブリンを喰った、喰ってたのか!?
とたんに、口の中にゴブリンの味が蘇った。
「ぐあああっ!!」
口の中に蘇った味は、少しも美味くはない。
とても、耐えられないほどの不味さだ。
なぜだ!?
なぜ、ゴブリンなんかを!?
訳が解らず、苦しさに目を閉じる。
その時、別の場面が浮かび上がる。
仲間だ。
オレの仲間たち。
……オレを見て、恐怖に怯えている!?
次の瞬間、口の中に別の味が広がった。全身が泡立つ様な、恐怖の味。
「プギャアアアア!!」
オレは叫んでいた。
叫ばずにはいられなかった。
お、オレは、仲間を喰った!?
どう言い繕っても、そうとしか答えが出ない。
吐き気をもよおす恐怖の味に、オレは舌鼓を打っていたのだ。
脳裏に、次々と死んでいく仲間の姿が浮かび、その度に恐怖が口の中に広がっていく。
止めてくれ!
助けてくれ!
声にならない声は、誰にも届かないし伝わらない。
だが、オレにはこうする以外、何も思いつかなかった。
不意に、身体を押さえつけていた重みが和らいだ。
同時に、眩しい光が目に飛び込んで来た。
一瞬の眩みの後、落ち着きを取り戻した視界がここは外だと告げていた。
肌に当たる冷たい雨。
そうか、もうすぐ冬なのだな。
ふと、目の前に誰かが立っているのに気づいた。
真っ黒な、ボロボロのローブを身にまとったヒト族。
あ、あああ!!
その瞬間、今までの場面が再び思い起こされた。
黒い煙が、すべてコイツに置き換わっていく。
コイツだ!
コイツがやらせたんだ!!
怒りが、全身に伝わるのが解った。
「プギャアアアア!!」
ゴプンッと音を立てて、身体に力がみなぎった。
「ほう、この状態で自我を取り戻すとは。面白い事例だな」
何か言っているが、ヒト族の言葉など知るものか!
コイツは仲間の仇だ。殺してやる!!
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
「ここらで潮時だな。魔石を回収する」
ヒト族が何か呟くと、オレの身体は動かなくなった。
オレの身体から、何かが抜けていくのが解った。
同時に、オレの身体から感覚が無くなっていった。
「思ったより小さいな。所詮はオーク、この程度が限界か?」
ヒト族が何かを話し、足音が遠ざかって行った。
もう、何も感じナイ。解ラナイ。
オレ……ナカマ……ナイ……。