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第七話 トフトの昔話

この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第四十九話のサイドストーリーになります。

先に本編 第四十九話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。

 雨の森を走りながら、僕は昔の事を思い出していた。


 あの日の事は、今でも鮮明に思い出せる。

 もちろん、僕たちが称号を頂いた日の事だ。


 僕の名前はトフト。

 お祖父さんの名前をそのまま貰って名付けたのだと、テフテ父さんは語っていた。みんなは女の子みたいだと笑ったけど、僕はこの名前を気に入っている。

 そして、この名前を馬鹿しなかったのがザフザとアルアだった。


 ザフザとは、小さな頃からいつも一緒。幼馴染みってやつかな?

 よく2人で、食糧を集めに行ったりしたっけ。


 そんなある日、ザフザが変な事を言い出した。


「トフト、剣の修業をしよう!」


 最初、僕にはザフザの言ってる意味が解らなかった。

 剣の修業。つまり、上手に剣を使える様にするって事みたいだった。


 何でそんな事するんだろう?

 剣なんて、力いっぱい振れば良いじゃないか?


 でも、ザフザは首を横に振った。


 いつだったか、ザフザはヒト族が「カイドウ」と呼ぶ石の道の近くまで行った事があるらしい。

 そんな危ない所に行ってる事に驚いたけど、ザフザはそこで、ヒト族の「ボウケンシャ」や「キシダン」を見たのだと言った。


 ザフザが見たのは、剣の形に削った木の棒を使って闘うヒト族だった。

 そして、ヒト族たちは、ただ剣を力いっぱい振り回すだけではない闘い方をしていたのだと語った。


 良くは解らなかったけど、熱く語るザフザの目はとても真剣だったのを覚えている。


 その日から、僕とザフザは食糧探しのかたわら、木の棒を使った「剣の修業」を始めた。


 ただ棒を振り回すのではなく、小さく、鋭く、速く。

 相手を良く見て、次の次の、そのまた次の行動を予測して動く。


 最初は上手くいかなかったけど、だんだんと、少しずつだけど上達するのが解った。


 いつの頃からか、僕とザフザが修業を始めると、アルアが見に来る様になった。

 今思えば、きっと、アルアはザフザを見に来てたんだと思うけどね。


 それから、僕たちはいつも3人で行動する様になった。


 アルアは目が良くて、昼間でも遠くまで見る事が出来た。


 お陰で、僕たちはウサギや鹿を狩る事が出来た。

 でも、それを快く思わない奴らもいた。


 乱暴者のジブジたちだ。


 ある時、ジブジたちは僕たちの獲物の横取りを考えた。


 鹿を狩った帰り道、僕たちは、ジブジたちに襲われた。


 でも、ジブジたちは僕たちの敵じゃあなかった。


 力いっぱいに武器を振り回すジブジたちの動きは、まるで止まってるみたいにゆっくりに見えたし、次に何をしてくるかが手に取る様に解った。


 結果、ジブジたちの襲撃は失敗に終わり、僕は、ザフザの言っていた「修業」の意味を深く理解したんだ。


 ただ、僕は一族でも小柄で力も無かったから、剣よりもナイフや石礫の方が上達したけどね。


 そして、あの日がやって来た。


 あの日も、冬が来る前の雨っ降りで、とても寒かった。


 僕たち3人は、ついこの間に成人したばかりだったけど、相変わらず食糧探しの毎日だった。


 みんなとは別の方へと歩いていた僕たち3人は、小さな悲鳴を耳にした。


 いや、聞こえたのは僕だけだったけど。

 すぐにアルアが木に登って、辺りの確認をした。


「いた。こっちに来るよ!」


 アルアの声に、僕とザフザがそれぞれに武器を構える。

 茂みの中から飛び出して来たのは、僕たちよりも少し若い、成人前の女の子だった。


「……ニンニ、様!?」


 ザフザの言葉に、思わず目をみはった。


 それは、確かにニンニ様だった。

 族長の娘であるニンニ様は、基本的に村の外に出る事はしない。

 だけどニンニ様は、いつの間にかいなくなってしまう事で有名だった。

 まさか、こんな森の奥まで来てるなんて。しかも、こんな雨の日に。


「ニンニ様、どうされたんですか!?」


「逃げなきゃ、あ、あいつが、来るの」


 ザフザの問いに、息も絶え絶えに答えるニンニ様。


 どうしたものか? と悩む僕たちの頭上から、アルアのかなきり声が響いた。


「ふ、2人とも逃げて!!」


 アルアの叫びに、ニンニ様の肩がビクンッと跳ね上がった。


 半分落っこちるみたいな勢いで、アルアが木から降りてきた。


「どうしたんだ、アルア!?」


「アルア、大丈夫!?」


「あんたたち、呑気な事言ってる場合じゃないよ!」


 鬼気迫るアルアの表情に驚いたのもつかの間、ニンニ様の来た方向から、高速で移動する唸り声が耳に入って来た。


「ざ、ザフザ、何か来る!」


「!?」


 アルアが何か叫んでたけど、僕の耳には迫り来る何かの足音と唸り声を捉えるのでいっぱいだった。


 そして、そいつは現れた。


「な、なんだコイツは!?」


 ザフザか、絞り出す様な声をあげる。


 茂みから飛び出して来たのは、真っ白な毛の熊だった。

 それほど大きくはないけど、腕が4本ある白い熊。

 綺麗な毛並みといびつなその姿は、暗黒の神様が冗談半分で創ったみたいに思えた。


 僕は恐怖で動けなくなった。きっと、コイツに喰われてしまうんだ。って。


「アルア、ニンニ様を連れて逃げろ。トフト、俺たちでコイツを食い止めるぞ!」


 その瞬間、ザフザの言葉が硬直した身体を戒めから解き放ってくれた。


 そうだ、僕たちは戦士になる時、族長の血を守る誓いを立てる。

 ならば、今、ニンニ様を守る事は戦士になる事を意味するんだ。


「わ、解ったザフザ!」


 右手にナイフ、左手に石礫を握り込んで、僕はゆっくりと息を吐いた。


「行くぞ、トフト!」


「うん、ザフザ!」


 ザフザの声に、僕は呼応する。


 剣を抜いて、右へ回り込む様に走るザフザ。僕は、左へと走る。


 熊は、ザフザを狙って突進して行った。


 速い!


 予想よりだいぶ速い熊の攻撃を、ザフザは間一髪でかわした。


 熊の一撃は、ザフザの後ろにあった木を軽々と削りとっている。もし、あれがザフザに当たっていたらと思うとゾッとする。


 が、ザフザも負けてはいない。

 木に当たって、勢いの削がれた熊に向かって、横から剣で斬りつけた。


「グァオオオッ!」


 ザフザの一撃は、熊の右目に命中していた。


「や、やった!?」


「いや、致命傷じゃあない。まだ、来るぞ!」


 ザフザの言う通り、右目を失いながらも熊は、怒りに狂いながら再び突進して来た。


「……あっ」


 熊の目標が僕だと解った瞬間、僕の足はすくんで動けなくなった。


 木を簡単に削りとった一撃が、僕の頭めがけて振り下ろされる。


 死んだ。

 心の中で、僕はそう思った。


「トフト!!」


 一瞬、僕の視界がズレる。

 そして、転がる身体に突き飛ばされたのだと気がついた。


「ざ、ザフザ!?」


 僕は、顔をあげると同時に戦慄した。


 熊が、4本の腕でザフザをガッチリ抱きかかえいたのだ。


「に、逃げろトフト!」


 うめく様に、ザフザの声が聞こえた。


 熊は、今まさにザフザの首に噛みつこうと口を開いている。


 ドクンッ


 僕の中で、これ以上無いほどに怒りが込み上げてくるのが解った。


「ダメだー!!」


 僕は、熊の口めがけて石礫を投げつけた。


「グガッ」


 石礫は、熊の口の中へと吸い込まれ、同時に熊が苦しそうに嗚咽をあげる。


「ぐうっ」


 戒めから解放されたザフザが、転がる様に熊から離れた。


 ここから、僕はあまり覚えていない。

 気がついた時には、熊は倒れ、笑顔のザフザが横に座っていた。


 熊の左目には、僕のナイフが。喉元には、ザフザの剣が刺さっていた。


「ありがとう、助かったよ親友!」


「えっ? えっ!?」


「なんだよ、俺たちが倒したんだぞ!? これからも頼むぜ、相棒!」


 そう言って、ザフザは僕の背中をバンッと叩いた。


「ゲホッ、痛いよザフザ!」


 咳き込む僕を見て、ザフザはゲラゲラと笑った。


 その後、アルアに呼ばれた村の仲間がやって来て大騒ぎだった。


 村に帰った僕とザフザは、族長から感謝の言葉と戦士の称号を。さらにザフザは、熊を倒した「英雄」となったんだ。


 ザフザが英雄になっても、僕とザフザは変わらなかった。


 変わったのは、アルアが修業を見に来なくなった事。

 あと、ザフザとニンニ様が仲良くなった事くらいかな?


 ザフザは僕の親友で、相棒で。えーと、後は解んないけど。

 でも、ザフザが困っていたら、僕が助けるんだと決めたんだ。


 だから、ヒト族と出て行ったザフザの後を追わずにはいられなかった。


 ヒト族? もちろん、怖いよ。

 だけど、ザフザと一緒なら僕らは最強なんだ。

 だから、何も怖くないと決めたんだ。

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