第四話 灰色の森の話
この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第三十一話のサイドストーリーになります。
先に本編 第三十一話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。
遥か昔、小さな森があった。
ある時、その森に1人の娘が住み着いた。
雪の様に白い、エルフの娘だった。
何故、彼女が自分の故郷を捨ててこの地を選んだのかは判らない。
若いトレントは、これをたいそう喜んだ。
そして、娘を守るために森を広げた。
かつて、この森に住んでいた魔法使いが残した塔を、彼女の家として。
また、エルフの娘も森を守るために働いた。
そんなある日、森に狩りに来ていたとある貴族が、エルフの娘をいたく気に入り、妃に迎えようとした。
家臣の説得も、逆に家臣を説得するほどの熱量だった。
が、エルフの娘は、そんな貴族の申し出を仁辺もなく断った。
これに腹を立てた貴族は、森を焼き払おうとした。
しかし、トレントとエルフの娘の働きによって、火は、最小限に止まった。
だが、トレントは弱り、森もまた荒れ始めた。
エルフの娘は、自分の命を削ってトレントを癒し、やがて死んでしまった。
トレントは、その遺体を塔に埋葬した。
エルフの娘の魂は、塔の魔力によって、森を見守る存在となった。
……それから、どのくらいの時間がたったか。
ある時、1人の魔女がこの森にやって来た。
不老不死の研究を行っていた魔女は、魔力に満ちた、この森の塔を探していたのである。
そして、塔とエルフの娘の魂を見つける。
魔女は、その膨大な魔力を我が物とするため、エルフの娘の遺体を探し出し、その頭蓋骨の内側に、戒めの呪いを刻み込んで、自分の魔力と合わせた。
また、トレントなどの外からの妨害を避けるため、塔の周りに結界を築き、沼を張り、塔の中の時間をずらした。
魔女は、自分の知識や研究を続けるため、その全てをエルフの娘の頭蓋骨の内側に記し、この塔を訪れる哀れな者を乗っ取る呪いを施した。
やがて、魔女の肉体は滅びたが、その意識は常にあった。
森は、塔の存在により魔を呼び寄せ始める。
トレントは、魔女の結界によって塔を破壊する事ができぬままになった。
魔は魔を呼び。
恐れは噂を呼び。
そして、森は語り口となった。
旅人は、霧に煙る森を「灰色」と呼び。
地の者は、権力によって「白い魔女」と呼んだ。
誰も知らぬ物語より。