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第二十八話 ゴーレム改良計画



この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第百二十話のサイドストーリーになります。


先に本編 第百二十話をお読み頂けると、よりお楽しみ頂けるかと思います。

また、ゴーレム初登場は本編 第十九話と第二十二話になります。よろしければ、そちらも併せてお読み頂けたらと思います。


「……やはり、限界ですね」


 ランタンの灯りにかざした魔石を眺めていたら、私は知らぬ間に愚痴(ぐち)がこぼれてしまいました。


 ローウェル伯爵領から戻って、早くも3日が経とうとしています。アルバートはまだ戻りませんし、ウロさんは、(ひど)い馬車酔いだとかで寮の部屋から出て来れない様です。


 学院長や先生方の聞取りは、全員が、特にアルバートが戻ってからになるそうなので、私とジーナさんは放課後は自分たちの研究をする事としました。


 私の目の前には、ゴーレムだった石の塊が転がっています。

 先日の闘いで、私たちのゴーレムは酷く傷ついてしまいました。


 腕は折れ、足は砕け、全身には深いヒビが入ってしまっていて、とても“ゴーレム”などと呼べる代物(しろもの)ではなくなってしまいました。

 そして、1番の(かなめ)である魔石には、もうほとんど魔力が残されておらず、今にも砕け散ってしまいそうな有り様です。


 このゴーレム造りは、私にとって大いなる挑戦でした。


 当時、私はまだ、街の錬金術ギルドのギルド員でしかありませんでした。

 宮廷仕(きゅうていつか)えの錬金術師とは違って街の錬金術ギルドの者は、図書館の利用制限もあって閲覧出来る資料に制限がありました。


 当然、『ゴーレムの作成レシピ』など見る事が出来るはずも無く、従って、私たちのゴーレムは寄せ集めの資料による強引な物でしかありませんでした。


 その上、民家の地下で、届け出無しでの作成でしたので、もし衛兵にでも見つかっていたなら、一生の牢獄暮らしとなっていた事でしょう。

 ですから、下手に石細工師を頼る事が出来ませんでしたので、石を自ら彫るしかありませんでした。慣れない細工に、出来上がりが不格好(ぶかっこう)だったのは(いた)し方なしだった訳です。


 何とか器は出来ましたが、問題は魔石でした。

 購入するには高価ですし、街を出て集めるのは危険が(ともな)います。ギルドの素材に手を出すのは後々問題になりそうですし、何より、魔石は滅多にお目にかかれませんでした。

 冒険者を雇う事も考えていましたが、相手によっては足元を見られると聞いていましたので、どうした物かと悩んでいました。


 結果的には、ウロさんが魔石を集めてくれましたので事なきを得ましたが。やはり、私たちは運命的な物があるのではないでしょうか?


 ……話を戻します。


 その後、魔法学院の学徒となった私は、当時のゴーレム作成に用いた魔導理論や術式をアルド・ウェイトリー先生に見せた事がありました。ウェイトリー先生は、私の理論を一目見て「これでは動かんな!」と言い放ちました。


 魔法生物学や魔導理論を学んだ今なら、ウェイトリー先生の言葉の意味する事が解ります。

 魔力伝達が散漫(さんまん)だったり、重複している部分があったりと無駄が多過ぎですし、そのせいで、魔動力の打ち消しが発生してしまっていたのです。これでは、せっかくの魔石もアッと言う間に燃え尽きてしまうでしょう。


 ……では、何故、あのゴーレムは動いたのでしょうか?


 この事は、現在でも謎のままです。

 ウェイトリー先生は、私とウロさんの2人の血を使った為ではないか? とおっしゃっていました。エルフである私と人間であるウロさんの魔力が、何らかの特殊な条件を作ったのではないか? と。


 ウェイトリー先生らしからぬ、少し強引な意見だと思いましたが、同時に“そうなのかも!?”と思う自分もいて混乱しました。


 確かに、あのゴーレムはウロさんが召喚した時だけ動いていましたから。召喚魔法による未知の理論が、そこにはあるのかも知れません。


 とにかく、この事はハッキリとした事実が解るまでは私とウェイトリー先生の秘密となりました。特にレティ・フランベル先生には、絶対に知られてはいけないと。

 もし彼女に知られたなら、魔導効率の最も悪いとされている人間などの死体を使った“フレッシュ・ゴーレム”の作成を強いるだろうと。(ちな)みにフレッシュ・ゴーレムの作成は、死罪に値するとの事でした。……あの人なら、それでもやらせるでしょうけど。


 私がゴーレムの研究を行う事に、ウェイトリー先生は良い顔はしませんでしたが止める事もしませんでした。


 “魔術師にとって研究は日常であり必然である。万が一に道を踏み外した場合のみ、師として(いまし)める必要はあっても(はな)から止める理由は無い!”


 そうおっしゃって、遠い目をされた後で「じゃが、程々(ほどほど)にの?」と付け加えておられたのが印象的でした。何かあったのでしょうか?


 こうして、私の『ゴーレム改良計画』が始まったのです。


 幸い、私は図書館の利用制限からある程度ですが開放されています。禁術や違法な魔術を実践しない限り、資料や魔導書の観覧は自由です。


 既存の理論により作成されるゴーレムのほとんどは、施設や墓の番人か単純作業用として存在し、あらかじめ決められた命令にのみ従う様に設定されている場合が多い様でした。魔導兵器として戦争にも使われていた様でしたが、その場合、同士討ちを避ける為の印を携帯する事で、誤って味方を攻撃しない様にしていたみたいですが、それを奪われたりする事もあった様でした。後期には、鎧などに刻印する方法が取られていた様ですが。なかなか、汎用性は低かった様ですね。


 戦闘投入例はあっても、私の目指す“召喚獣(しょうかんじゅう)”としてのゴーレムの記述は、残念ながら一例も見つける事が出来ませんでした。元々、召喚魔法に関する記述は少ないのだとウロさんは(なげ)いていましたから、仕方ありませんね。


 とは言え、作成工程や目的事態はほとんど同じで、器になる素材に核となる魔石などの魔力を多量に含む物質を埋め込み、命令術式を書き込んで起動させるのですから問題は無いでしょう。


 まずは、術式の構築です。


 今までは、寄せ集めの情報から行き当たり場当たりの知識で構築した術式であった為、先に述べた様に無駄や衝突が多く、効率の良い物ではありませんでした。

 しかし、今の私ならその様なミスはあり得ません。


 とは言うものの、どういった物が理想的なのでしょうか?


 既存の理論や術式では、まず、“核”となる物を用意し、それに大部分の術式を記述し、魔石などの魔力結晶と連動させるのが一般的な様です。この方法の利点は、核が破壊されない限りゴーレムの破壊とは成らないと言う事です。


 具体例としては、粘土を使った『クレイ・ゴーレム』や雪や氷を使った『アイス・ゴーレム』などの場合、“再構築の術式”を組み込む事で器が破壊されても核さえ無事ならば、何度でも再生が可能になるのです。

 再生に必要な粘土や雪などが無い場所ではこの術式は成立しませんから、あくまで“理論上は”ですね。


 それに、魔力も無限ではありませんから、結局の所、持久戦になればゴーレムは動けなくなってしまうでしょう。


 遥か昔、宙空(ちゅうくう)に漂う微量の魔力を集め、結晶化する技があったとされていました。その技があったなら、永久に魔力を集め続けて再構築し続ける恐ろしいゴーレムの作成も出来たでしょう。……これは夢物語の(たぐい)ですね。


 私が最初に作成したゴーレムは、命令術式をゴーレムの身体全体に散りばめていました。

 腕には腕の命令を、足には足の命令を。身体には、それらを統括(とうかつ)する命令を刻み、魔石と連動させました。

 これにより、どこかのパーツが破壊されても動く事が出来る! ……そう考えていたのですが。何故、動いたのかが謎の物になってしまいました。ある意味、奇跡的なのでしょう。

 また、現在の知識で一部を整理し、動く様にしたとしても魔力消費が冗談ではなく大量ですから、アッと言う間に動かなくなってしまうでしょう。


 今回は、その失敗と先人の知恵を融合させる事にしました。


 核と魔石を別にして連動させると、それだけで魔力に無駄が生まれるのだとウェイトリー先生はおっしゃっていました。私も同じ考えです。

 ですので、魔石そのものに命令術式を刻んでしまえば連動時の無駄な魔力消費が無くなると考えたのです。


 問題は、魔石に術式を直接刻むのは、魔石を破壊してしまう可能性があって危険だと言う事です。

 術式を刻むと言っても、ノミと木槌(きづち)で盛大に彫る訳ではありません。そんな事をすれば、ゴーレム以前に魔石が破壊されてしまいます。


 魔石の表面に、魔力を使って術式を書き込むのですが、これがなかなかに困難なのです。


 魔石は、微量ながら常に魔力を放出し続けています。魔力を失った魔石は、放っておいても勝手にただの石になり、やがては崩れてしまいます。

 この放出魔力が、術式を刻む際に邪魔になります。例えるなら、常温で放置された氷にインクで文字を書き込む様なものですね。どんどん溶けて、書き込んだインクの文字が洗い流されてしまう様に、魔石から放出される魔力に、魔力で書き込んだ術式が洗い流されてしまうのです。


 正確には、魔力同士が反発して消失したり、無駄に魔力消費が起こったり。最悪の場合、魔石事態に深刻な変質が起こる場合があるらしいのです。


 では、どうするのか?


 答えは簡単、魔石を収納するスペースを用意し、その壁面全てに術式を(ほどこ)せば良いのです!


 要は、魔力で書かれた術式に魔石が触れなければ良い訳ですから。魔石を石膏(せっこう)などで固定する必要があり、それによって魔力消失が少なからず起こりますが、その位は仕方がありません。遺失魔法の中には、空間に物質を固定出来る物もあると聞きましたが、私には扱えませんので。いつか、見てみたい。いや、学んでみたいものですね。


 術式と魔石の問題は、これで大丈夫でしょう。次なる問題は、“器”です。


 前回の私は、石材をゴーレムの形に彫りました。正確には、建材用に適さない屑石を貰い、石膏で補強しつつ彫り整えた感じです。


 理想としては、いつか見たミスリル銀が良いのでしょうけど。ミスリル銀なんて普通、まず見る機会すらありませんし、ゴーレムの大きさ分の鉄など、屑鉄でも買える訳がありません。


 まあ、予算の都合で練武用の御影石(みかげいし)を安く譲ってもらう事になったのが現実です。


 造形に関しては、私は門外漢ですので。前回のそれは、予想はしていましたが、出来映えは不格好と言わざるを得ませんでした。

 可能ならば、神殿に飾られている美しい彫像や、広場に立つ雄々しい騎士の銅像の様な姿が理想的なのですが。


 しかし、今回は違います。

 属性魔法学によると、素材と対応した魔法陣を使用する事によって造形も思いのままだと記されていました。


 ドワーフなどの技術者がいない場合に用いられる手法らしく、魔法陣の作成も()る事ながら、繊細な魔力コントロールも求められるとの事で、あまり実践的では無い様ですが。


 私、少しばかり魔力コントロールには自信があるのです。

 ウロさんには(かな)いませんが、それでも、マーシュさんの弟子ですから。


 有難い事に、属性魔法陣は各種、学院内に施設として存在し、学生なら届け出を出せば自由に使用する事が可能です。


 当然ですが、学院内でゴーレムを作成する訳にはいきません。ですから、私は施設を借りて魔法陣を写す事に専念しました。

 大きな紙に書き写すのはバレる可能性がありますから、あらかじめ購入していた教科書用の無地の本にバラバラに書き写す事にしたのです。


 深夜近くまでかかりましたが、なんとか全てを写し取る事に成功しました。施設使用のアリバイとして、石膏で魔石固定用のパーツをいつくか作りました。


 写し取った魔法陣は、私の地下研究所内の床に再現しました。我ながら、素晴らしい案ではないでしょうか?


 魔法陣の上に、集めた御影石をはみ出さない様に並べます。

 魔法陣の所定の位置に手を置き、造形を想い描きながら魔法陣に魔力を流して行きます。少しだけ、錬金術に似ている気がしました。


 魔力が魔法陣を起動して、御影石が泥の様にぐにゃりと崩れたり盛り上がったりし始めました。

 想い描いたのは、美しくも猛々しい女性騎士の姿でした。女性の騎士など見た事はありませんでしたが、何故だかイメージしてしまったのですから仕方がありません。……それなのに。


 ああ、何と言う事でしょうか。


 魔法陣の上に鎮座していたのは、私の想い描いた姿とは似ても似つかない不格好な。もっと言えば、前回とほとんど変わらない姿のゴーレムだったのです。


 大きさだけは、前回よりも少し大きくなりました。丁度、ウロさんと同じ位なのは皮肉でしょうか。


 後日。

 ゴーレムの起動実験には、ウェイトリー先生が立ち会ってくださいました。ウェイトリー先生は、私の研究所に入るなり地面を見て硬直。そして、置いてあった本の角で私の頭を力一杯に殴りました。


 な、なるほど、これが“道を踏み外した場合の戒め”なのですね。もちろん、魔法陣は大急ぎで消しました。


「マシュリー、お主の弟子ときたら……」


 ウェイトリー先生は、そう呟いて首を左右に振っていましたが。“マシュリー”とはどなたでしょうか?


 気を取り直し、私たちはゴーレムの起動実験を行いました。

 ウェイトリー先生からお借りした魔石を、ゴーレムの中の空間に固定します。思ったよりも安定感があって安心しました。


 魔法の杖を構え、仮に用意した命令術式を起動します。


「歩け!」


 私の号に、ゴーレムが歩いて見せます。前回よりも、かなりスムーズな足運びな気がしますが、重量的にはかなり重くなっていますので足音はズシンズシンと重く胃に響いて来る様でした。


「フム、良い様じゃな。移動も滑らかじゃし、魔導効果も問題無さそうじゃな。いささか重量は気になるが、それは今後の課題じゃな」


 髭を撫でながら、ウンウンと(うなず)くウェイトリー先生に、私は何だかホッとしました。


 その後、腕を回したり物を(つか)み運んだりしましたが、特別な問題は見つかりませんでしたが。

 実験を終え、魔石を取り出したウェイトリー先生は眉間にシワを寄せて小さく(うな)りました。


「やはり、重量が問題かのう。ゴブリンの魔石がホレ、こんなに消耗しとる!」


 ポンと投げ渡された魔石は、最初に作ったゴーレムの魔石と同じ位に劣化して、今にも砕けそうになっていたのです。


「そんな、1時間も動かしていないのに!?」


「ワシからすれば、予想通りじゃがの。やはり、謎の要素がある様じゃなあ。……ところで、あれは何かの?」


 悔しさに震える私をよそに、ウェイトリー先生は涼しげに杖で部屋の隅を指し示しました。そこにあったのは、初代ゴーレムの残骸でした。

 私がそう告げると、ウェイトリー先生はフムフムと呟きながら残骸を物色し始めたのです。


 残骸の中から何かを取り出したウェイトリー先生は、それをしばらく眺めてから私に渡して来ました。


 それは、ゴーレムの額の部分でした。細かいヒビが入っていて、私でなくては見分けもつかなかったでしょう。


「これが、何か?」


「それに、魔石を当ててみなさい」


 疑問に思う私に、ウェイトリー先生は笑いながらそう答えました。


 (いふか)しげながも、私は残骸に魔石を当ててみました。


「こ、これは!?」


 今にも砕けそうな魔石が、残骸に当てた途端に力強く輝き始めたのです。もちろん、魔石が劣化状態なのは変わりませんが、こんなに輝ける程の魔力は残されていないハズなのに。


「どう言う訳でしょうか?? 一体、何故??」


「さて、ワシにも良く解らんが。その部分だけは、ワシには魔力の流れが違って見えたのでな。やはり、研究が必要じゃのう?」


 帰り際、ウェイトリー先生は魔石を1つ私にくださいました。“くれぐれも無茶はするな”と念を押しですが。


 新しいゴーレムの隣に座りながら、私は頂いた魔石を灯りにかざして眺めます。ゴブリンの魔石よりも少しだけ大きな魔石は、魔力量がゴブリンのそれとは比較にならない位含まれているのが解ります。


「……早く、元気になりませんかねえ」


 魔石の放つ微かな魔力の輝きに、私は彼女の笑顔を想い浮かべました。……その後に待つ儀式で、笑顔は泣き顔に変わるのでしょうけれど。

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