第二十三話 翼の無い友達
この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第百四話のサイドストーリーになります。
先に本編 第六十六話~第七十七.五話。第百四話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。
緑山の天辺のとびきり大きな木の上が、あたいの特等席。
そこから空を見上げて、〝あの日〟の事を思い出すのがあたいの日課だ。
〝あの日〟って言うのは、リュッカお姉ちゃんがいなくなった日の事だ。
あたいは、あの日の事を良く覚えていない。
気がついたら、あたいは岩屋にいて。お姉ちゃんは、もう、どこにもいなかった。
長に聞いても他のお姉ちゃんたちに聞いても、みんなハッキリとした事は教えてくれなかったし、みんな口を揃えて「無理に思い出す事はない!」って言ってた。
でも、あたいはどうしてもあの日の事を思い出したい。
だって、あの日からずっと、あたいの胸のずっと奥の方に、何だかとても暖かい物があるから。
目を閉じると、少しだけあの日の事が浮かんで来る。
凄い風の吹く中、とても近くにお姉ちゃんの顔が。少し困ってる様な、驚いている様な。
そんなお姉ちゃんは、あたいをギュッと抱き締めてくれた。
だけど、その後すぐにあたいの身体は雪の中にいるみたいに寒くて凍えそうになった。
何で??
お姉ちゃんの羽根は、とっても柔らかくて暖かいのに。
周りは真っ暗だし、さびしくて悲しくてたまらなくなったんだ。
そのまましゃがみ込んで、泣いちゃおうと思った時、どこからか『声』が聞こえた。
声は、どんどん大きくなった。
最初はお姉ちゃんかと思ったけど、違った。
声は、『ウロ』って言うヒト族の声だった。
お姉ちゃんを探す途中であたいを助けてくれた、あたいたちハーピィとは違って、翼を持ってない種族だ。
ウロの「一緒に行こう?」って声を聞いたら、少しだけ寒くなくなって元気が出た気がした。
それに、あたいはウロとどこかへ行きたいと思った。
だから、あたいは「一緒に行く!」って答えた。
そうしたら、急に周りが明るくなって。身体が、暖かい物に包まれた。
まるで、お姉ちゃんの羽根に包まれているみたいな。そんな気がしたんだ。
気がついたら、あたいは岩屋にいて。お姉ちゃんがいなくなってた。
代わりに、胸のずっと奥にあの時と同じの様な暖かい物が出来た。
長は、それを『魂の絆』って呼んでた。
「良いですか、フリッカ。
貴女は、ウロによって救われ、〝魂の絆〟で結ばれたのです。
いつか、絆によって喚び出される事があるでしょう。その時は、ウロの為にしっかりと頑張るのですよ?」
長はそう言って、あたいをギュッと抱き締めてくれた。
言葉の意味を、本当は良く解らなかったけど。
ウロは好きだし、お手伝いは得意だから平気だった。
それに、長にギュッと抱き締めてもらった時、少しだけお姉ちゃんを思い出して嬉しかった。
そして、それは、突然やって来た。
胸の奥の暖かい物が、ほんの一瞬だけ、まるで火みたいに熱くなった。
びっくりしてる間も無く、あたいの足下に青白い光の輪っかが現れた。
飛んで逃げようと思った瞬間、ウロの声であたいの名前が呼ぶ声が頭の中に響いて来た。
あ、これだ!
その時、長の言葉の意味が少しだけ解った気がした。
あたいは、思い切って光の輪っかに飛び込んでみる事にした。
飛び込んだ途端、身体が、産まれたばかりの子のフワフワな産毛になったみたいな感じがして。
目が、眩む位に真っ白になって。
気がついたら、目の前にウロがいた。
目がハッキリしてくると、そこは岩屋じゃなくなってた。
凄い! びっくり!!
だって、一瞬で見た事も無い場所に来ちゃったんだもん。
岩屋から、瞬く間に原っぱになんて。
どんなに速く飛んだって無理だよ!?
驚くあたいを、ウロは笑顔で迎えてくれた。
こうして、あたいは初めてのお手伝いが出来た。
蒸しパンって言うのを食べた。
ウサギの耳は食べ損なった。
ウロのお手伝いは、とても美味しい物だと思った。
それからしばらくして、2度目のお手伝いがやって来た。
今度も、見た事の無い丘の上だった。
次は、どんなお手伝いかな?
ワクワクしてるあたいに、ウロは笑顔でジーナたちを崖下へ降ろす様に言って来た。
えーっ!?
そんなの、飛べばすぐなのに??
ウロが言うには、ヒト族は空が飛べないんだって。
そう言えば、羽根が無いもんね。
そんな訳で、あたいはジーナとカーソンって言うヒト族と、ニーなんとかってエルフ族を下に降ろす事になった。
両方の腕を、あたいの足で掴んで降りるんだけど。
ジーナは小っちゃくて簡単。
カーソンも、小っちゃくて楽ちんだった。
大変だったのは、ニーなんとかだ。
ウサギじゃないのに、何か耳が長くて邪魔だ。あんまり美味しそうじゃないし。
腕を掴むと、枯れ枝みたいだし。
それに、びっくりする位に軽かった。
だけど、たった3回飛んだだけなのに、凄く疲れてまたびっくりした。
それは、ここの風の子たちがあたいの言う事をあんまり聞いてくれなかったからだ。
今まで、風の子がこんなだった事なんて1度も無かったのに。何でだろう??
でも、ウロが3人を降ろしたご褒美に『ホットドック』って言う食べ物をくれた。凄く美味しかったから、凄く元気になった。
だけど、ここって何だか怖い場所だよ。
あたいのいた山と違って、大きな奴の匂いと気配ばっかりなんだもん。
上手く浮かべないから歩くしかないし、知らない森も怖くて仕方なかったけど。
しばらく歩くと、どこからか、凄く美味しそうな匂いが漂って来た。
猪だ!
しかも、かなりの大物の予感!!
猪は、大人か卵を産むお姉ちゃんたちが食べる物で、あたいたちみたいな子供にはめったに食べられないご馳走だ。
この森には、あたい以外のハーピィはいないみたいだし。早くしないと、誰かに取られちゃう!?
そんなの、やだ。
ウロとみんなと、猪が食べたいよ!!
あたいは、渾身の力で地面を蹴った。
同時に翼を広げると、意識を集中させて風の子たちに語りかける。
「お願い、あたいの翼に力を貸して!」
あたいの声が聞こえたみたいで、さっきまで知らんぷりだった風の子たちが、あたいの翼を持ち上げて風切り羽根にしがみついてくれた。
やった!!
ありがとう、風の子たち。
身体の軽くなったあたいは、力一杯に翼を羽ばたいた。
ウロや大きなヒトが、何か言ってたけど。
待ってて、あたいが猪を手に入れるから!!
風に乗ったあたいの身体は、木の間を滑るみたいにすり抜けて行く。
高く飛ぶと、他の誰かに見つかっちゃうから。出来るだけ、低く低く飛んだ。
目的の物は、すぐに現れた。
それは、ため息が出る位に大きな猪だった。
全身傷だらけで、もう死んでるみたい。
ここで闘ったのか、木がいっぱいなぎ倒されていた。
だけど、闘っただろう相手の姿がどこにも見当たらなかった。
なら、あたいが貰っちゃっても良いよね!?
しかも、『命の口』が出来るかも!!
命の口って言うのは、強い獲物を最初に口にする事だ。
これによって、獲物の力が手に入るんだって教えられた。
獲物の魂が抜けてしまう前に、出来るだけ早く口にしなくちゃいけないんだけど……。
そうしている間に、息をきらせたウロたちがやって来た。
あたいは、思わずウロに叫んだ。
「ウロ、見て! こんなの、あたいの山にもいないよ!!」
あたいの喜びとは違って、ウロは厳しい顔をしている。
しかも、ウロは食べちゃ駄目だって言う。
何で?? みんなで食べようよ。
それより、早く食べないと猪の魂が抜けて、命の口が出来なくなっちゃう。
そうしたら、猪の力があたいに入らないよ!?
いくら大好きなウロだって、これだけは譲れないよ。
「やだ。今、食べるの!! ブブブブッ」
唇を鳴らして、あたいの獲物である事を示してみせる。
その瞬間、あたいの周りが急に暗くなった。
同時に、あたいの胸の奥で、何かがドクンッと跳ねた。
「フリッカ、こっちへ来なさい」
真っ暗になった中で、とても明るくて暖かい声があたいを包んだ気がした。
それに、包まれて行く程に身体中に力がみなぎってくるみたいな気がした。
「フリッカ、フリッカ!?」
急に名前を呼ばれて、ハッと顔を上げる。そこには、心配そうにあたいを覗き込むウロの顔があった。
ウロは、あたいの頭を撫でて猪はみんなで食べようと小さく言った。
あたいは、それに元気にうなずいた。
命の口は駄目だったけど、今のあたいには不思議な力がみなぎってる。
さっきまで、力一杯頼まなくちゃ言う事を聞いてくれなかった風の子たちも、今はあたいの周りに集まって来てくれてる。
ウロの後ろを付いて、森の中を歩きながら色々な事を考えた。
長は、あたいに「ウロの為に頑張れ」と言ってたけど、やっと意味が解った。
あたいがウロの為に頑張る事は、きっと、あたいの力にもなるんだ。
あたい、決めた。
あたいは、ウロの翼になるんだって。
それが、あたいの翼を大きくしてくれるに違いない。
そして、いつの日か、お姉ちゃんを見つけ出せる力に変わると思ったから。
ウロの背中を見詰めながら、あたいはあたいの胸のずっと奥にある物に、そっと誓いを立てたんだ。




