第二十話 一方その頃、男子たちは……
この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第八十五話から第八十七話のサイドストーリーになります。
先に本編 第八十五話から第八十七話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。
優れた騎士と言うのは、〝素晴らしい剣の腕前〟と、それを奮うべき〝固い忠誠心〟を持ち合わせた者であると考えている。
それと同じ様に、優れた魔術師と言うのも〝強大な魔法の技〟と、それを操る〝膨大な知識〟を持ち合わせた者だろうと考えていた。
しかし、それだけでは魔術師たりえないと気がついたのは、試練の塔の2階へと足を踏み入れた時だった。
私、アルバート・ローウェルは魔術師……の見習いである。
とある知識を得る為、ここ、ハイリム王国国立魔法学院の門を叩く事となった。
しかし、物事はそう簡単ではない。
私の欲する知識は、魔法の基礎を習得したと認められた者のみが閲覧可能な場所に、厳重に保管されていたのである。
……要は、2年生にならなくては駄目だ。と言う事だ。気の長い話である。
だが、私には悠長に構えていられる程の時間が無い。
その為、この学院にて知り合い、苦楽を共にする事となった仲間たちに無理を言って、2年生と同等の資格を得られる『試練の塔』に挑む事となった。
もう1度言うが、優れた魔術師と言うのは〝強大な魔法の技〟と、それを操る〝膨大な知識〟を持ち合わせた者だと考えていたし、今でもそれは変わっていない。
そして、それらはとても重要だろう。
しかし、今の私たちに求められている物は、上記に加えて、巨大で強固なゴーレムと渡り合い、長期戦に耐えられるだけの〝体力〟に他ならなかった。
……始まりはこうだ。
試練の塔、1階を見事に突破した私たちは、転送魔法陣によって2階へと運ばれた。
運ばれたまでは良かったのだが、その場にいたのは私アルバートと、仲間でエルフの青年、ニードルス・スレイルだけ。
ジーナ・ティモシーとウロと言う、女性陣の姿がどこにも見当たらなかったのだ。
塔の2階を司る『声』は、〝試練を越えて仲間と合流せよ〟と言う。
……無粋な話ではないか。
どうせなら、男女で分けるべきだろうに。
それなら、ニードルスはウロとの距離を少しでも縮められただろう。
あの奥手っぷりには、見ていて少しだけイライラしたのを思い出す。
とは言うものの、私にジーナをエスコートするのはいささか荷が重いかも知れないが。
彼女は十分に素敵だが、夢見がちな彼女の目には、時折、私の理解を遥かに超える〝何か〟が写っている様な気がしてならない。
……っと、話を戻そう。
とにかく、一刻も早く私たちは試練を越えて、女性陣と合流。3階へと進まなくてならないのである。であるのだが。
2階は、私の予想に反してダンジョンの様な造りになっていた。
上下左右、白いブロックの様な壁で覆われ、まるでどこぞの神殿の様だった。
昔の、嫌な思い出を振り払うのに必死になっていた私の隣で、冷静なニードルスが興味深そうに辺りを眺めている。
「これは、凄いですよ!
全てに魔力が施されています。
ほら、見てください? 汚しても、瞬く間に消えてしまうでしょう!?」
うむ、さすがだニードルス。
その熱意を、なぜウロの気持ちに向けないのか?
まあ、向けた所であの娘には通じない気もするが。
しかし、ニードルスはこうも言った。
「……ここは、本当に2階なんでしょう?」
??
意味が解らない。
ここが2階でないなら、一体どこだと言うのか?
「まさか、別のどこかなんて言う気じゃないだろうな?」
「……その〝まさか〟かも知れません」
う、うむ。
冗談のつもりが同意され、少しだけ動揺する。
しかし、問題だったのは場所などではなかった。
いくつかの角を曲がり、変わり映えのしない景色に辟易し始めた頃。
それは、突然現れた。
私たちよりも、少し背の高い石造りの人形。
石像と言うには、あまりに大雑把な。芸術性など皆無な存在。
ゴーレムだ。
魔法生物の授業で習った、『ストーン・ゴーレム』と言う種類だ。
目も口も無い、ただ、人の形に岩をくり貫いた様な姿。
であるにも関わらず、その身体は石とは思えない程滑らかに動き、スピードこそ無いが、強力な打撃で私たちに襲いかかって来たのだ。
「くっ、さあ来い石人形!」
「駄目です、アルバートくん!」
杖を構える私の襟を、ニードルスが強く引っ張った。
「な、何をするのだニードルスくん!?」
「闘っても勝ち目はありません。
魔力の無駄使いより、逃げましょう!」
情けない話だが、私たちはその場を逃げ出す事になった。
動きの遅いストーン・ゴーレムの事、逃げ切るのは容易であったが。
距離を置いた私たちは、弾む息を整える為に少しだけ休憩を取る事にした。
そこで、私は率直な疑問をニードルスへとぶつけて見た。
「ニードルスくん、何故逃げる必要があったのだ?
もし追いつかれたり、別の魔物と挟み撃ちされでもしたらどうする?」
私の疑問に、ニードルスは深いため息を吐いた。
「私たちの持っている魔法と、ゴーレムとの相性が悪過ぎるからです。
私たちの〝魔法の矢〟では、ゴーレムの核である魔石まで届きはしませんよ!?」
つまり、こう言う事だ。
ゴーレムは、その身体の中に核となる魔石を埋め込んでいて、それを破壊しない限り活動を停止しない。
その名の通り、石で出来ているストーン・ゴーレムの核を破壊するには、魔法の矢で石の身体を突破せねばならないのだが……。
「……無理だな!」
「無理ですよ!」
うむ。
私の魔力では、とてもじゃないがストーン・ゴーレムの核まで届く様な魔法の矢を作り出す事は出来ないだろう。
「それは私も同じです!」と、ニードルスも同意した。
……だが、待てよ!?
以前、アウルベアとの戦闘の際、ウロがストーン・ゴーレムを喚び出していたが、あれはニードルスの作ではなかったか!?
だとすると、ニードルスなら何か別の討伐方法を知っているのではないだろうか!?
「……ありませんね!」
まさかの即答だった。
正確には、場所の問題らしい。
ニードルスの作成したゴーレムは、通常『封印の魔法陣』の中に入っている。
この陣の中にある限り、たとえ魔石が暴走したとしても陣の外へ出る事は出来ない。
つまり、魔法陣を描き、その中に誘い込んで封じる方法があるのだが。
「このフロアでは、それが出来ませんね。
何せ、キズつける所か汚れ1つつけられないのですから……」
そうなのだ。
今いる、この2階のフロアは、魔力によって保護されていて全くほころびが無い。
当然、魔法陣など描ける訳が無い。
他には、紙に描く方法も提案されたが、そんなに大きな紙など持って来てはいないし、あったとしても、すぐに破られてしまうのが目に見えている。
「……やはり、逃げるしか無いのか」
「もう1つ、あるにはあるのですが……。
いや、現実的ではありませんね」
「あるのか!? どんな方法だ!?」
「いえ、やはり不可能です。忘れてください」
そう言ったきり、ニードルスは口を閉じてしまった。
気にはなったが、ニードルスが出来ないと判断したのなら信じるしかないだろう。
かくして、私たちの逃走劇は始まった。
ある時は、十字路から。
またある時は、部屋の中から。
速くは無いが、決して追跡を諦めないストーン・ゴーレムたちは、とうとう5体もの群れになってしまった。
「追い詰められたら、私たちの負けだな!?」
「……その時は、その時です!」
理論派のニードルスとは思えない物言いに、思わず吹き出しそうになる。
それに気づいたニードルスも、口角をジワジワと上げて笑顔になった。
お互いに笑い合う私たちは、風の様に通路を駆け抜けて行った。
……その数分後、私たちの顔から笑顔は消えていた。
単純に、疲れたのだ。
自分でも、まさかと思う。
しかし、呼吸は辛く足は重くなる。
ストーン・ゴーレムの群れに追われつつ、いつ、新たなストーン・ゴーレムと出くわすか解らない状況が、私たちから予想以上に体力を奪っていたらしい。
ニードルスはしかたないとしても、幼少期よりエセルに鍛えられて育った私が!?
そう自問するが、身体は正直と言う答えしか見つからない。
己の習練不足を悔いるばかりである。
しかし、その苦しみもどうやら終わりの時が来た様だった。
「み、見てください。
あ、あれ!」
ニードルスが息を切らせながら、震える指で示す先。
2体のストーン・ゴーレムが、何かを守るかの様に壁の前に立っているのが見えた。
「あのゴーレムたちは、あんな場所で何をしているのだ?」
「恐らくは、隠された入口を守っているのでしょう。
今までの、徘徊しているゴーレムとは違います」
通路の端に身を隠しつつ、私たちは息を整えながらゴーレムの様子を伺った。
確かに、ニードルスの言う通り、今までのゴーレムたちとは違う。
動かず、ジッと何も無い壁の前に立つ姿が不自然に思える。
身動ぎ1つしない姿に、城を守る近衛兵を連想したが、近衛兵でももう少し動くだろう。
しかし、どこに入口などあるのか?
私には、ただの白い壁にしか見えない。
その事を私が問うと、ニードルスは盛大にため息を吐き出した。
「貴方も、ウロさんと同じ様な考え無しですか?
1階での出来事を、もう忘れてしまったのでしょうか??」
う、うむ。
今、少しだがウロの気持ちが解った気がした。
同時に、ニードルスの言わんとする事も理解した。
「……なるほど、〝魔力で見ろ!〟と言う事だな?
1階で、魔法陣を見つけた時の様に」
「その通りです。
理解が早くて助かります」
小さく息を吐きながら、ニードルスが呟いた。
「問題は、入口を見出だすにはかなり接近しなくてはならないと言う事です。
恐らく、あのゴーレムたちが動き出す距離でしょう。
また、仮に入口があったとしても開くかどうかは解りません。鍵がかかっているかも知れないですから。
その鍵にしたって、物理的な鍵なのか魔法による鍵なのか……」
「解った。
やって見るまで、色々と解らんって事だな?」
「……その通りです」
最後は、言葉少なくうなずくニードルス。
乗ってくると、早口になるのはウロへの説教と同じなのだな。要改善点だろうか。
「では、私が囮になろう。
その内にニードルスくん、君が扉を開くのだ!」
「い、いや、しかしそれは……」
「魔力の扱いは、君の方が私より上手いだろう?
それに、あまり議論している余裕は無さそうだぞ?」
そう言いつつ私は、床を指差して見せた。
さっきから、少しずつだが地響きが近づいて来ているのだ。
ニードルスもそれに気づいたらしく、ハッとした表情になった。
「では行くぞ。
用意は良いか?」
「は、はい!」
ニードルスの返事を確認した私は、1つ笑顔でうなずいてから走り出した。
「さあ、石ころの化物ども。
私を捕まえてみろ!」
2体のストーン・ゴーレムの前に躍り出た私は、手を叩いてゴーレムたちを挑発する。
私の姿を見つけたゴーレムたちは、ゆっくりとした動作で私を追い始めた。
あまり距離を取りすぎると、ゴーレムたちは元の位置へと戻ってしまう。
そうならないギリギリの距離を保ちつつ、ゴーレムたちの攻撃を避け続けるのは結構、骨の折れる作業だろう。
もっとも、捕まれば本当に骨が折れるのだろうが。
ゴーレムたちの後ろでは、ニードルスが的確に作業していると思われる。
それを証拠に、ニードルスが壁に取り付いてすぐに、壁に光り輝く扉が浮かび上がり、ゆっくりと開き始めた。
「アルバート、今です。
早く中へ!!」
扉の中に飛び込みながら、ニードルスが叫んだ。
扉の奥は、白い光りに包まれていて見えない。
「解った、今行く!」
そう叫んではみたものの、どう避けたものか?
……と、考えている時間も無さそうだ。
扉が、少しずつだが閉まり始めている。
また、通路の端からはゴーレムの群れがやって来るのが見えた。
解りやすい絶体絶命だな。
だが、こんな所で死ねる程、私の人生は容易くはあるまいよ!?
私は、2体のゴーレムに向かって走り出した。
私を迎撃すべく、ゴーレムたちは拳を振り上げた。
「ここだ!」
私は、勢いそのままにゴーレムたちの股下へと滑り込んだ。
ゴゴウンッ
通過した私の背後で、床に鈍い打撃音が響く。
振り返る余裕は、実はあまり無い。
私は、転がる様に扉の中へと飛び込んだ。
「……くっ!?」
目が眩む様な光を抜けると、飾り気の無い白い部屋の中だった。
そこで私の目に飛び込んで来た物は、殴られて血を流しているニードルスの姿だった。
「に、ニードルス!?」
「き、気をつけてアルバート。あいつは、思ったより素早いです」
あいつ?
私は、そう言ったニードルスの視線を追う。
部屋の中央より少しだけ奥。
そこに、身長2メートルを超えようかと言う黒い人影が見えた。
……いや、人影では無い。
黒く、少し照りのある身体をした人型の何かだ!
「……アイアン・ゴーレムです!」
ニードルスが小さく呟いた。
アイアン・ゴーレム。
その名の通り、鉄で出来たゴーレムだ。
石よりも丈夫で強固だが、動かすには膨大な魔力を必要とする。と、習った。
学院の教材として見たそれは、身長1メートル程の、ギクシャクと動く物だったハズだったが。
今、目の前で動いているアイアン・ゴーレムは、2メートルと言う巨躯でありながら、人間の様に滑らかに動いていた。
きっと、ニードルスはこいつに挑んで怪我をしたのだろう。
そもそも、なぜ1人で挑んだのか?
「ニードルス、なぜ1人で……?」
「貴方が、いつまでも入って来ないからでしょう!?
いくら何でも、遅すぎますよ!」
……んん?
何やら、話が噛み合わん気がするが?
ニードルスによると、私が来るまでに、少なくとも10分はかかっていると言う。
私からすれば、ほんの1、2分程の出来事だったと思うのだが。
「実に興味深い話ですが、それは後にしましょう。
あれを見てください!」
ニードルスの指差す先には、アイアン・ゴーレムが。
何故か襲いかかって来るでも無く、ただ、たたずんでいる。
「何故、襲って来ないのだ?」
「恐らくですが、魔力消費が激しいのでしょう。
魔力消費を抑えるため、部屋に入っただけでは動かないのだと思います。
それも関係ある事ですが、見て欲しいのはゴーレムの額です!」
私の問いに、息を切らせてニードルスが答えた。
その指示に従って、ゴーレムの額に注目する。
額の中央に、金色に輝く何かが見てとれた。
「……宝石、か?」
「詳しくは解りませんが、扉の鍵だと思われます!」
鍵!? あれが??
ニードルスの言葉に、再びゴーレムの額を注視する。
無骨なのゴーレムの頭部に、黒くつや消しのされたサークレットが被せられている。
その中央に、金色に輝く四角い小さな何かがはめられているのが解った。
「なぜ、あれが鍵だと?」
「あくまでも勘でしかありません。
ですが、ゴーレムは奥の扉と、あのサークレットには反応しましたので……」
そう言って、小さくため息を吐くニードルス。
ゴーレムより更に奥には、両開きの扉が見える。
他に出口は見当たらないし、あの扉が3階への入口なのだろう。
どうやらニードルスは、私の来る前に奥の扉とサークレットを調べた様だった。
ゴーレムから距離を置いて扉に近づいたが、ゴーレムは襲って来た。
また、正面からゴーレムに近づいても動かなかったが、サークレットに触れたとたんにゴーレムは襲って来たらしい。
しかも、少し遅い人間並みの素早さで……。
う、うむ。
自分の興味ある事には、全く無警戒にも程があるぞ!?
子供でも、もう少し警戒するだろうに。
だが、ニードルスのおかげてゴーレムの動く法則は大体解った訳だ。
「で、どうする?
扉も鍵も、私たちには必要なのだろう?」
「そうです。必要です。
ですから、何としても手に入れなくてはなりません!」
「では、どうするのだ?
人間並みの素早さでは、サークレットを奪って扉に逃げ込むのは不可能だろう。
魔力が尽きるまで、ヤツと追いかけっこでもするのか?」
私の言葉に、ニードルスがフッと小さく笑う。
「魔力消費が激しいと言っても、尽きるまでには数年かかるでしょうから現実的ではありません。
それより、ペンを持って来ていますか?」
「ペン?
魔導書に書き込む為のペンか。あるぞ!?」
私は、ニードルスに言われるままにペンを取り出した。
インクの代わりに、魔力で書ける特殊なペン。
これで魔導書に書き込めば、書き込んだ本人しか字が見えなくなる不思議なペンだ。
「そのペンは、何も魔導書だけに書ける訳ではありません。
魔力さえあれば、どこにでも書けるのです。
残念ながら、この部屋も通路と同じですから書いても消えてしまうでしょうけど。
あのゴーレムになら、書き込む事が可能なハズです!」
鼻息荒く、そう宣言するニードルス。
私には、何を言っているのか解らなかった。
「アルバート。
貴方には、これから教える秘文字をゴーレムに直接書き込んで欲しいのです!
私より、貴方の方が身体能力に優れていますから!」
「もしかすると、言いかけて止めたのは……」
「はい、この方法です。
危険で無謀な方法ですから、先ほどは躊躇しましたが、今はそうも言ってはいられませんから」
そう言いつつ、ニードルスは2つの秘文字を紙に書いて渡して来る。
「これです。
これを、ゴーレムの胸と背中に1文字ずつ書き込んでください。
上手く行けば、魔力の流れを一時的に止める事が出来るでしょう!」
「……上手く行かなかったら?」
「止まりませんし、他に策がありません!」
堂々と、胸を張るニードルスに、私が気圧されそうになる。
しかし、やるしかあるまい!
「解った、やろう。
ニードルス、君は出来るだけ扉の近くまで移動しておいてくれ。そろそろ、体力の限界だろう?」
「気づいていましたか……」
そう言って、ニードルスは額の汗を拭った。
私とて、疲れていない訳では無い。
ならば、ニードルスはもう限界だろう。少し前から、汗が尋常ではなかった。
「では、行くぞ。
用意は良いか?」
「待ってください、アルバート!」
そう言ったニードルスは、杖を構えると素早く何事かを呟いた。
同時に、私を優しげな光が包む。
「〝小さな盾〟です。
無いよりはマシでしょう」
「ありがとう、ニードルス!」
私は、ニードルスに礼を言いつつペンを握り締めて走り出した。
渡された2枚の紙から、記号の様な秘文字を読み込む。
アイアン・ゴーレムに接近し、その胸に秘文字を……。
フッ
アイアン・ゴーレムが、不意に後ろに下がった。
そのスピードは、人とほとんど変わらない。
「こいつ、攻撃されているのが解るのか!?」
「知識ではありません、防御命令が〝汚れ〟に反応したんです。
ですが、これでこの作戦が有効なのが解りました!!」
なるほど、封印対策はされていない訳だな!
私は、そのままゴーレムを追った。
ブンッ
私の顔をめがけて、ゴーレムの右拳が飛んでくる。
だが、遅い!
拳のくぐり、下からゴーレムに接近する。
今だ!
意識を集中して、魔力をペンに流し……。
ガキンッ
「ぐおっ!?」
右肩に、鈍い痛みが走った。
……しまった。
魔力を集中するあまり、右からのゴーレムの攻撃が見えていなかった!
ニードルスの〝小さな盾〟が無ければ、肩の骨を砕かれていたかも知れない。
「何をしているんですか、アルバート。
いきなり、敵の目の前で棒立ちになるなんて……」
「し、集中していたのだ。無茶を言うな!!」
私の答えに、ニードルスが額に手をあてて天を仰いだ。
し、しかたが無いだろう!?
魔力の扱いが、君たち程上手くはないのだから!!
言い訳していても始まらない。
ならば、私なりにやらせて貰おう!!
私は、ペンに魔力を込める。
ペン先から、空中にインクがにじんで消えて行く。
この状態だと、常に魔力が流れ出てしまっているのだがやるしかない。
再び、私はゴーレムに向かって走り出した。
ペンが、私の走った軌道に黒い線を引いては消える。
ゴーレムが、再び右拳を繰り出して来た。
それは、さっき見た!
拳の軌道は、さっき見て知っている。
くぐらず、顔をかするギリギリでかわしながらゴーレムの胸元まで接近した。
チッ
左頬が、燃える様に熱くなった。
少しだけ、目測を誤ったか?
しかし、手を止めはしない。
そのまま、私はゴーレムの胸に秘文字を書き込んだ。
書き込まれた文字が、魔力によって浮かび上がる。
次は背中だ。
ゴーレムの左拳を飛び退いてかわし、拳の戻りに合わせて走り込む。
今度は、途中で止まらずに背中までだ。
背後に回った私は、ゴーレムの背中に秘文字を……。
「危ない、アルバート!!」
ニードルスの悲痛な叫びが部屋中に轟いた。
ゴーレムが前屈みになり、同時に足が私めがけて突き出されたのだ。
「大丈夫だ、ニードルス!」
突き出された鉄の足は、虚しく空を斬っただけだった。
その上に、私の身体は浮かび上がっている。
悪いな、知っていたさ!
心の中でそう呟いた私は、広く平らに晒されたゴーレムの背中へと飛びついた。
「これで、終わりだ!」
ゴーレムの背中に、魔力を込めた秘文字が書き込まれた。
ギ、ギギギギッ
激しく耳障りな金属音を上げて、アイアン・ゴーレムが急停止した。
さっきまで滑らかだった関節が、一瞬で凍りつく。
「今です。
魔力の流れが滞って、鉄の塊になったのです。
早く、サークレットを!!」
「応!!」
下げられたゴーレムの頭から、サークレットを外した。
「悪いが、貰って行くぞ!」
そう呟いた私は、ニードルスの後を追って扉をくぐったのであった。
扉の先は、暗くて小さな部屋だった。
私たちが扉を出ると、扉は勝手に閉まって、ただの壁になってしまった。
「お、終わった……のか?」
「ええ、たぶん。
あれが、3階への入口でしょう」
そう言ったニードルスの指差す先には、鉄格子の扉があった。
「これが鍵なのか?」
サークレットから、小さな半球状の金属を取り外す。
しかし、鉄格子に下げられた錠前の鍵穴は球状で、このままでは合わない様だった。
「どうやら、これは鍵の片割れみたいですね。
恐らく、ウロさんたちが残りを持って来てくれるでしょう。
それより、良くゴーレムの攻撃をかわせましたね!?」
ニードルスが、鍵の半分をいじりながら興味深そうに訪ねて来る。
「ああ、あれは知ってたのさ。
私の弟の1人が冒険者を、中でも、『拳闘士』とか言う素手で闘う者を目指していてね。何度か手合わせした事があったのだよ!」
「拳闘士ですか、それは興味深いですね!」
そう言って、私たちは笑い合った。
それから、私の回復魔法で傷を癒し、なぜか持っていたニードルスの魔石の欠片で魔力を補った。
いつの間にか、私もニードルスも、お互いを呼び捨てする様になっていたが、気にはならなかったのを覚えている。
覚えているのはそこまでで、いつの間にか眠ってしまった私たちは、ウロたちの豪快な目覚ましを受けるまで、しばしの微睡みの中に落ちて行くのだった。




