第二話 ゴブリン兄弟
この物語は、倉庫娘のサモナー道中記 本編 第二十一話のサイドストーリーになります。
先に本編 第二十一話をお読みになりますと、よりお楽しみ頂けるかと思います。
※これは、バッドエンドを多分に含んでいます。
お気に召さない方は、お読みになるのをお控えくださいます様お願い申し上げます。
「明日獲れる獲物の数が分かれば、今夜のメシの量を決められるのにな」
村のシャーマンが言っていた言葉だ。
もう、動かなくなった弟を見ながら、そんな事をボクは思い出していた。
始まりは突然だった。
ボクたちの棲みかは、いきなりやって来たオーク供の襲撃を受けたのだ。
族長を始め、多くの戦士たちが勇敢に戦ったけど、オークの群れには為す術が無かった。
逃げ切れたのは、ほんの一握りだけだったろうか?
ボクたち子供のほとんどは、オーク供に捕まって奴隷となった。
幼馴染みのガガもドドも、弟のゼゼもいる。
まだ、産まれたばかりのヨヨがいなかった事に、ボクはホッとしていた。
でも、安心なんてなかった。
徐々に、仲間の数は減って行った。
やつら、獲物の獲れなかった時には、ボクらの仲間を喰ってやがったんだ!
このままでは、いつか、みんな喰われしまうだろう。
ボクたちは、何とか逃げ出す計画を立てた。
この洞窟は、昔、人間が塩の石を掘っていた所。
だけど、とても脆くて崩れて、だから捨てられた所だって聞いた事がある。
オーク供は、奥の広間でいつも寝ているから、あそこが崩れれば、やつらをやっつける事が出来るかもしれない!
ボクたちは、雑用をする合間に広間の柱を少しずつ削っていった。
そして、その時が来た。
オーク供は、人間の馬車って言う乗り物を襲って、蜂蜜酒をたくさん奪って来たんだ。
争う様に飲んで、みんな寝込んでしまった。
今しか無い!
みんな、そう思った。
ボクたちは、一斉に柱を崩した。
地響きがして、洞窟の広間は崩れ始めた。
ボクたちは走った。
身体中が傷だらけで、腹ペコで。元気なんかなかったけど。
逃げ遅れた仲間を、見捨てる事しか出来なかった。
出口までたどり着いたのは、ボクと弟と、幼馴染みのガガだけだった。
砂ぼこりが立ち込める中、ボクたちは月の光を見た。
外だ。
そう思った瞬間、砂ぼこりの中から、オークの腕が飛び出して来た。
足を掴まれたガガは、助けようとするボクに向かって叫んだ。
「はやく逃げろ! 族長の血は、お前たちだけだ!!」
族長の血を絶やしてはいけない。
これは、ボクたちの村に言い伝えられている掟だ。
村1番の戦士、ゴゴルの息子ガガ。
あいつは、その掟に従ったんだ。
ボクと弟は走った。
力の限り、息の続く限り。
どのくらい走ったろう?
もう走れないと、ボクも弟も、その場にしゃがみこんでしまった。
振り返ってみたけど、オークは追って来てはいなかった。
「ジジ兄ちゃん!」
弟か、ウサギの毛皮を手渡してくる。
「お前、持って来てたのか!?」
「だって、約束だから……」
……約束。
そうだ、約束だ。
ボクたち兄弟が獲ったウサギの皮で、妹の産着を作るって。
どこかで無くしたと思ってたのに、弟は大事に隠してたんだ。
「帰ろう、みんな、森の反対側にいるハズだ!」
「うん!」
ボクは、弟の手を取って歩き出した。
その時、森の中に光が見えた。
火? 松明?
とにかく、灯りだ。
「もしかしたら、村の誰かかも知れない!」
「行こう、ジジ兄ちゃん!」
震える足を、無理矢理動かしてボクたちは急いだ。
!?
急に、灯りが消えてしまった。
どうして?
待って!!
灯りのあっただろう、そこには何もない。誰もいない。
弟は、今にも泣き出しそうだ。
「泣くな! ボクたちはもう、戦士になったんだから!」
「……う゛ん」
さあ、帰ろう。
歩き出したボクは、後ろに重さを覚えた。
弟が立ち止まってる。
「おい、歩け……」
弟の首が無かった。
えっ!?
次の瞬間、何かの衝撃を背中に受けて倒れた。
立ち上がろうとしたけど、上から背中を思い切り踏まれた。
そして、お腹が熱くなった。
もう、手に力が入らない。
かすむ目に、弟の顔が見えた。
そうだ、妹の産着に飾りを着けてやろう。
赤い木の実は、もう採れないかな?
黄色い花は、春まで咲かないかな?
ボクの左手に、弟の手の感触が。
目がかすむ様に、手の感触もかすんで。
みんな、真っ暗になったんだ。




